――数時間前
突然、玄関先で抱き締められてキスされた。
過去数回コイツと寝たが、いつも「突然」だ。
「んんー!んぅ、っは…苦しっ、むぅ!」
そして、乱暴である。
どれだけ辛抱できないのか知らないが、オレを床に押し倒して貪るようにキスをしてきた。
(落ち着け、ここは玄関だ)
だが、緒方はそんなの知った事ではないようだ。
緒方の大きな手がオレのネクタイを引き抜き、それをそのまま床に放り投げる。
まあ、高いものではないから別にいいんだけど、人の物なんだからもっと丁寧に扱えんのかと思うも、今度はシャツの裾から手を滑らせてきた。
「くすぐったいって…」
「だろうな」
緒方はオレがくすぐったがりなのを知って、わざと焦らすように…そしてエロく触ってくる。もぞもぞと撫でまわされて体を捩ると、緒方の唇がオレの首筋に触れて肩を竦めた。
「ひっ…ぅ…も、や…っ――はっ、あ…」
こうなったコイツが丁寧にボタンを一個ずつ外す訳もなく、シャツを捲って胸の先に舌を這わせてきた。
今まで乳首なんて自分で弄らないし、女の子とのセックスで使用する事もなかったが、緒方に舐められたり弄られたりすると結構クルものがある。
「…っあ、んっく…ぅ…」
(やばい、気持ちいい…)
緒方と初めてヤッた日、家に帰ったオレは自分なりに色々調べてみた。
調べているとそれはもう恐ろしい文字が並んでいて、初体験はよく無事だったと感心したほどだ。
その中に胸の感度が良いと下の方…つまりアナルも良いらしいとの豆知識らしき情報を見て、認めたくはないが自分はどちらかと言えば良い方に入るのではないかと思った。
実際、処女初体験は最悪だったし、痛みであんなに泣いたのは子供の時だってそうなかっただけに信じがたい物があったが、回数をこなす内に確かなものに近付いていた。
悔しいが、開発されてるなと思う。
…というような事を緒方も調べの中で知ったらしく、オレの反応を見た奴はそれはもう嬉しそうに弄ってくる訳だ。
舐めたり吸ったり、指で捏ねてきたり…しつこい!と叫びたくなるほどに。
まあ、オレは言わないけど…。
正確には「言えない」のだが。
奴はとにかく“知らない”という事を嫌がる。
オレも物事をハッキリさせたいタイプだから分からなくはないけど、緒方ほど酷くはない。
もし「しつこい」なんて口にしたもんなら、どこがいいんだと探り始めるに決まってる。それは流石に男として情けないというか、付き合ってられないといというか…無理だ。
(しかし…)
コイツまさか、このまま玄関で事を済まそうなんて思ってないだろうな。
(有り得る…!)
「ちょ、ちょっと緒方…背中痛いって」
「そうか」
もっと渋ると思っていたのに、あっさりと体をどける緒方に思わず目をぱちくりさせてしまう。
(何なんだ?)
やっぱり緒方という奴は良く分からん。
強引かと思ったら、こうやってあっさり引いてみたり…コイツの事を理解するのは一生無理だろう。
(ズボンの中、すげぇ辛そうなくせに)
けっ、とそっぽを向いて部屋の奥へ向かって歩き出した途端、緒方は突然背後から抱き付いてきた。
「何して…っ!」
「誰がやめると言った?ほら、ベッドはあっちだぞ?」
「てめぇ…んっ、は…」
半分体を押さえ付けられながら一歩一歩と歩くオレの衣類を徐々に脱がし、緒方はまたもそれらを床に捨てていく。
部屋の中心に辿り着いた頃には上半身は裸で。緒方の手がベルトを器用に外しファスナーを下げてくると、締め付けられて窮屈だった中心を下着の上から握り込まれてビクリと体が跳ねた。
「う、あっ…」
ファスナーを下げられたズボンは歩くたびにずるずると下に落ちてくるし、下着の上からとはいえ自身を撫で回されて足がもつれそうだ。
(ひぃ…あたってるっ…!)
尻の間に緒方の硬いものがぐいぐいと押し当てられて、恥ずかしくて逃げ出したくなる。
焦らすように胸の先やら自身を弄られて、まるで女の子のようにふるふると震えながら何とか寝室までたどり着いた。
「ん、ぅ…はぁ、も、やめろ…!」
ベッドに倒れ込んだ時にはパンツ一丁で、何故こうなった?と一瞬でも思っただろうか…。
「やめて辛いのは、お前じゃないのか?」
オレは裸だというのに、きっちり服を着た緒方は獲物を狩るような目でオレを見下した。
思考、行動、どれをとっても緒方の考えてる事は分からない。
ただ…絶対に本人には言わないが、体の相性だけは悪くないと思う。
だから誘われると断れないんだろうと、今のオレは思う訳で…正直この先の事は考えたくない。
まあ、暫くはこの関係を続けてやるかと上から目線で思いながら、今夜は眠る事にする。
そんなオレがベッドから出る事が出来たのは、翌朝の事だった。