ピンポン、ピンポン、ピンポン!
夜だろうが関係ない。怒りをインターホンにぶつけ連打しまくっていると、暫くしてガチャリとドアが開いた。
「何だ、来たのか」
「てんめぇ…人を使うんじゃねぇよ!」
投げつけるように封筒を渡し、すぐさまくるりと踵を返す。その途端、腕を掴まれ玄関に押し込まれた。
「何すんだよ!」
馬鹿力で押さえ込まれていた手が離れると、今度はその手が背中に回ってきてビックリした。ぎゅうっと抱き締められて固まるオレに、緒方は「はあ…」と安心したような息を吐く。
「まさか来てくれると思わなかった…」
「なっ…」
耳元で囁かれた言葉に、ぼっと顔が熱くなる。
コイツの発言や行動はいつも予想がつかないから心臓に悪い。
ドキドキしてる自分に戸惑っていると、緒方は会社では決して見せない甘い顔でキスをしてきた。
「ん…んぅ…」
コイツはいつも突然で獣じみている。
宥める間もなく貪るように口付けられて、力で勝てるはずもないオレは玄関先に押し倒されてしまった…。
緒方とは“あの日”初めてヤッてからも、実は何度か寝ている。
と言っても、今のように緒方の方から強引に…というのが多い。
初めての時は痛かったし全然良くなかったのに、二回目をした時から徐々に変わり始めて、強引と言いつつ結局拒み切れていないのはオレの方だった。
「はっ、あ…もう、出ねぇって…」
ふと目線を逸らすと、まるで目印を残すように玄関から寝室まで点々と脱ぎ散らかされた衣類が視界に入る。お前はベッドまで我慢できんのか!?と口にする余裕もないほどコイツは乱暴で激しい。
「あっ、んぅ、もっと…優しくしろって…!」
「してるつもりだ」
「じゃ、加減し…っあ、ああっ!」
悲鳴のような声を上げながら頼むオレに、“緒方なりに”気を遣った動きでガクガクと腰を穿たれる。
(し、死ぬ…!)
体はでかいし、力はあるし、緒方からすればオレなど少女のように非力なものだろう。
そんな緒方の加減などたかが知れている訳で…セックスで本気で死ぬかもしれないと思ったのは生まれて初めてだった…。
「飲むか?」
風呂から出た緒方は煙草を咥えてビールを渡してくる。
オレはというとうつ伏せになったまま、指先をピクリと動かすので精一杯だった。
「飲めねぇっつーの…もうやだ…本当にやだ…」
ぐすぐすとグズッているオレに、緒方は大きな手でぽんぽんと頭を撫でてくる。
その手にムッと怒りを感じるものの、振り払う力すら残っていないオレは奴を睨む事しかできない。
「ふっ、そんな目ができるなら、まだ余裕だな?」
「くたばれ馬鹿野郎、余裕なんかあるか。お前のせいで人として色々失っちまってんだよ…」
「そうか」
人の気も知らないで、プシュとビールのタブを引く音にカッと頭に血が上る。
(誰のせいでこんな目にあってると思ってんだ!)
オレが持ってきた書類に目を通しながらビールを飲んでは煙草を吸う緒方に、何て薄情な奴だと思わずにいられない。
アフターケアのクソもない緒方に怒りを通り越して、どんどん泣けてきた。
「くそ…もっと労われよ。オレはお前のオナニーの道具じゃねぇんだぞ」
「誰もそんな事は言っていない」
「セフレだってもっとマシな扱いされるわ!責任とれよ、責任を!」
「責任か…」
ふーっ、と煙を吐きながら「そうだな」と言う緒方に、どうせロクな事は考えてないだろうと思ったが――
「じゃあ、籍でもいれるか?」
「……」
ここまで馬鹿な奴だと思わなかった。
「死ね!」
呆れるしかない発言に、バカバカしくてあくびすら出てきた。
やっぱりコイツとは合いそうにない。
END
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