白昼の校舎裏で夢を見たのかと思った。
目の前を白い何かが通って、ハッとした時にはそこには何もなかった。
夢?幻?それとも…幽霊の類だろうか。
気にしなければそれまでの事で。けど、その日はその白い物が何か気になって仕方なかった。
どこから来て、どこに向かったのかも分からない。
なのに不思議とその白い物の居場所を知ってるように、体が勝手に校舎とは反対に向かって行く。校舎の傍には林があって、奥に進んでいくと途端に広い場所に出た。
「あっ…!」
丁度この場所の真ん中…木の葉の隙間から覗く光が集まっている場所に、それはいた。
「比良坂(ひらさか)!」
倒れている比良坂を見て、慌てて駆け寄る。
「――ッ!」
傍に寄り顔を見た瞬間、息が詰まった。
――死んでる?
一瞬、そう思った。
日差しに照らされた金色の髪が白く輝いていて、瞑った目はこのまま開かないような気がした。
しかし、直ぐに上下する体にホッとして、気が抜けたように長い息を吐きながらこの場に座り込んだ。
(ビックリした…)
まだ、心臓がバクバクしてる。
寝てる人を死んでると思ったのは初めてだ…。
「おい、比良坂、比良坂」
肩を揺すってみるが相当眠いのか、鬱陶しげにボクの手を払いながら背中を向けてしまった。このまま放って帰ろうかとも思ったが、ボクがこの場からいなくなったら比良坂は消えてしまうような気がして怖かった。
本当に馬鹿げてる…。
普段なら同級生の男と添い寝だなんて絶対に嫌だけど、気付くとボクは比良坂の隣で眠っていた。
「若菜、おい、若菜って!」
「ん…?」
まるで悲鳴のような声と共に体を揺すられて目を覚ます。
「若菜、大丈夫か!?」
何をそんなに驚いてるのか、ただ事じゃない様子に「どうした?」と尋ねると比良坂は弱々しく笑って息を吐いた。
「はぁ〜…ビックリした…死んでるのかと思った…」
「は?ボクが?」
「もう起きないような気がして…」
「ははっ、実はボクもさっき比良坂に同じこと思った」
比良坂は「オレが?」と驚いた顔をすると、ふと目を伏せて笑い混じりに言った。
「そんな風に見えたんだ…」
「え?」
「バカなだなぁ。オレは元気だけが取り柄みたいなもんなのに」
「自分で言うなよ」
お互いに笑ってはいるけど、何故か“不安”は消えなかった。