カイジがアイスを頬張ってるところをボーっと眺めてたら、
何か勘違いされたらしく。
突然「ん」とスプーンを口元に突きつけられた。
いや違くて。
オレが見てたのはアイスじゃなく、むしろカイジの方なんだけど。
でも「いらねーの?」なんて首を傾げて訊かれたものだから、
拒否するのも勿体ないしせっかくだからもらうことにした。
「あー」と口をぽっかり開ける。
そこへすかさずスプーンが入ってきた。
「あ、おい離せよ」
「やだー」
オレはスプーンを歯で噛んで逃がさない。
カイジはオレの口からスプーンを引き抜こうとするけれど、
そうはさせるか。
「…なにお前そんなアイス食べたかったのかよ」
「……」
あーあ。
カイジがまた勘違いしてる。
あのね、オレはアイスなんてどうでもいいんだって。
ただアイスに夢中なカイジの気を引きたかっただけ。
なのに、
そこら辺を分かってないよね。
この鈍感ギャンブラーは。
まぁ…。
そんなニブチンなとこも可愛いんだけど。
「おい、スプーン返せ」
「……」
促されるけれど、
オレはスプーンをくわえたまま無言でカイジの目をじーっと見るだけ。
したらカイジも憮然たる面持ちで見つめ返してきた。
わけが分からないと言いたげに。
やっぱオレの気持ちは言わないと伝わらないみたいだ。
―――アイスもいいけどオレのことも構ってよって。
口をパッと離す。
スプーンはやっと解放された。
「あー…急いで食べ切らなきゃ」
カイジは慌てて残りのアイスをすくって口に運ぶ。
すると途端にほころぶ顔。
「ん、でも溶けてるのもうまいな」
―――なんて、
相変わらず1人で楽しそうなやつだ。
なんか置いてかれてるみたいでちょっぴりむかつくけれど、
でも……やば。
なんかニヤける。
カイジってば、
それそのまま使っちゃうんだ?
オレの口の中にも入ったスプーンをさ。
「っ……」
「…和也?」
「んでもねー」
「…ふーん?」
それって、
カイジがただめんどくさがり屋でスプーンを変えないだけ?
それとも、
オレにかなり気を許してるってことの表れ?
後者だったらかなり嬉しいんだけど。
だって間接キスだよ?
カイジは特に意識してないのかもしれないが。
「……なにニヤニヤしてんだよ」
「べっつにー?」
「…変なの」
「カイジ」
呼ぶとカイジの手がピタリと止まった。
顔をこちらに向けてくる。
基本人の気持ちにニブいくせに、こうやって話をちゃんと聴こうとするとこは好き。
カイジの数少ない(笑)長所だよ。
「アイス、も一口だけちょーだい?」
「……ん」
アイスが入ってるカップを突き出してくるカイジ。
違うんだよね。
そうじゃなくて、
「カイジが食べさせてよ」
さっきみたいにさ?とおねだりすると、あからさまにめんどくせーって顔された。
なんて分かりやすい男だ。
オレは精神が大人だから、
いちいち突っ込まないけれど。
そんな態度とられると絡みたくなるよね。
無性に。
「はやくー」
「はいはい…」
おら、と突きだされたスプーンを無視して、
油断してたくちびるの方に噛みつく。
「っぐ…!?」
カイジが目を見開くのが気配で分かった。
驚いてる驚いてる。
そのまま身を乗り出して舌を押し込む。
「くっ…ふ……」
カイジのむせるような声が聞こえた。
キスんとき呼吸を止めようとする癖は相変わらずだ。
息くらい好きにすればいいのに。
――――まったくもって不器用なやつ。
けど、
たかがキス1つにも必死になるカイジが超かわいい。
オレのわがままだけど、
この先カイジにはずっとキスのたびに酸欠になってほしい。
したらカイジが死に物狂いでオレの吐く息を吸うの。
そうすることでやっと命を繋ぐ、みたいな。
すげーいい。
「〜〜〜〜〜!!」
奮闘の末、カイジが力づくでくちびるをほんの僅かだけ離した。
そうやって威勢がいいのは結構なんだけれど、ウルウルの涙目で睨みつけてくるのはどうかと思う。
その顔、結構オレのツボなんだよねぇ。
なんか身体が疼くんだわ。
「いきなりっ…何っ…」
「アイスもいいけどオレにも構ってほしかったの!」
「は…?」
「そうでなくても昨日は4回しかヤってないんだからさぁ」
「……」
「さっきまではテレビに釘付けだったし」
「……」
「オレなんて眼中にないみたいだし」
「わりぃ」
「……」
「わりかった」
カイジは口を拭いつつ小さく謝ってきた。
オレが言葉にしてやっと気がついたのだろう。
ホント、ヘタレな。
「まーいいけどぉ」
「……」
「チューしてくれたらゆるすわ」
「はぁぁ…?今したじゃんっ…」
「ノンノン。カイジからだよ」
「……」
カイジは小さく唸って、
それから意を決したようにオレの肩を掴んだ。
「目は閉じとけよっ…!」
「りょーかい」
「っ……」
「……」
「……」
「……まだぁ!?」
「う…、すまねぇ…。けど…」
「けど?」
「や、なんつーか…緊張すんだろっ…!」
目を開けてみれば、ホントに緊張してるようだった。
たぶん自分からオレにチューしたことなんてないからだろう。
そういや、いつもカイジよりオレのがずっと積極的だしな。
「あー…もうっ…」
カイジが心底参ったように頭を掻きむしる。
そこまで躊躇することか!?と呆れたのも束の間、
次の瞬間にはカイジの腕がニュッと伸びてきていて。
――――気づけばオレはカイジに抱きしめられていた。
「キス…はちょっと…今はこれで勘弁してくれっ…」
「……!」
それは「ちったぁ力加減つーもんを考えろ!」と言いたくなるほど強くて苦しくて、
何よりも不器用な抱擁だったけれど。
これがカイジなりの精一杯なんだと思ったらすごく愛しく思えてきて、
「ん……」
スーツに皺が寄るのも構わず、オレもまた抱きしめ返してやるのでいっぱいいっぱいなのだった。
ま、いいよ。
今日のところは…ね。
このハグに免じてゆるしてやる。
あ。
今頃どろどろに溶けてしまっているであろう残りのアイスはどうするのかって?
そんなの“使う”に決まってんじゃんね…!
今日はイチゴを食べたい気がするへ続く。