(3)
朝になって、
今日も仕事だからとアカギが家を出ていってから数十分後。
―――――見計らったかのように、またチャイムが響いた。
アカギに散々ヤられたせいで気だるくなった腰を支えつつ、ドアスコープを覗いてみる。
したら、
「………」
とても堅気には見えないおっさんズが連なっているのが見えた。
一応スーツを着ているのがかえって怖い。
……オレなんかしたっけ?
古畑の件で懲りたので、もう借金の保証人にはなってない。
金の取り立てということは無いはずだ。
そもそもここは昭和だし。
なんかよく分からないけれど、
怪しいので絶対ドアは開けない。
そう決めた。
なのに。
怪しいおっさんズは帰る気配を見せない。
それどころか執拗にチャイムを鳴らしてくる。
しかも、
「伊藤開司くん…いるんだろ?」
オレのフルネームまで知っているよう。
ますます恐怖が募る。
そもそもこのアパートは、Y原組がアカギのことを気に入って買い与えたというものだ。
まさか同棲してるオレの存在が外部に漏れたのか。
それはまずい。
オレはこの昭和40年にいてはいけない存在なのだから。
本当ならまだ生まれてもいない。
だったら何故、昭和40年に21歳のオレがいるのかというと。
……オレ自身でもよく分かってない。
気づいたら昭和40年のとある道に転がっていた。
幸運にもそれをアカギに拾ってもらえたが、身分を証明できるものなど何一つ持ち合わせていない。
だから、
オレはあまり外部に存在を知られてはいけないのだ。
が……
もしかしてバレたのか?
「カイジくーん。こっちも手荒な真似はしたくないんだ。早くドアを開けてくれー」
そんなことを言われて誰が開けるか!と、
強気でいられたのも束の間。
気づけばおっさん数名がかりでドアを蹴り飛ばされ、怪しい集団の侵入を許してしまっていた。
その先頭にいたニヤケ顔のおっさんとしばらく睨みあう。
「これからさらわれる気分はどうかな?」
「……いいもんじゃねぇな」
後ろに控えていた黒服のおっさん数名に押し倒され、
あっけなく床に転がる。
薬の染み込んだタオルを噛まされて次第に意識が遠くなっていく。
(アカギ……アカギ……)
一体オレはどこに連れてかれちゃうのか。
まったく見当がつかない。
ただ、
おっさんにフワッと身体を持ち上げられたときに。
「乱暴に扱うとアカギが黙っちゃいねーぞ…」「…分かってる」なんて喋る複数の声が聞こえたものだから。
少なくともオレを傷つける気はないんじゃねーかな?なんて、ちょい楽観的な気分になってしまったのは事実だ。
それに……
たとえどっか遠くに連れてかれたとしても、必ずアカギが助けに来てくれるような気がしたから。
オレは比較的安らかな気持ちで、
意識を手放したのだ―――――――……
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