(4)



ふと目が覚めるとオレは布団に寝かされていた。

周りには誰もいない。
―――――や、いた。

あのニヤケ顔のおっさんが。

あろうことかオレの枕元で胡坐をかいていた。


「お、起きたか」なんて気軽に喋りかけてきやがる。
薬で強引に寝かせたのはそっちのくせに…!

とまぁ内心で毒づきつつ。

「…………」

とりあえず殺されてないことを確認し、ホッと安堵する。
とは言え油断はできない。

なんのためにオレはさらわれたのか。
是非ともハッキリさせておかないと。


「……あんた名前は」
「安岡…」

ニヤケ顔のおっさんは“安岡”と名乗った。
しかしそれを信じていいものか…。
下手したら偽名って可能性もある。

そんなオレの疑心暗鬼を汲み取ったのか、安岡さんは懐から革製の手帳を取り出した。
そしてそれを投げて寄こす。

―――――警察手帳…?
恐らく本物だろう。
身分証明欄の下には記章が貼りつけてある。


てことは安岡さん、

「警察の人なんですか…?」
「まぁな…刑事課に勤めている」

すげぇ…。
こんな怪しい風体なのに定職に就いてるんだ。

って、そうじゃなくて。
問題は、その刑事さんが何故オレをさらったのかってことだ。

また面倒なことに巻き込まれたのかもしれない。
思わず身構える。

けど、それを詳しく追及しようとしたら。

キュウ〜……

と腹の虫が鳴いたので、どうにも格好がつかない。


「……っ」

ひたすら羞恥に耐えていると、安岡さんは「いま何か持ってこさせる」と言ってくれた。

ヤバい。
ちょっと…いい人なのかも…?

オレをさらった張本人には変わりないけれど。
でもでも、ご飯を恵んでくれるところは優しい。

やはりオレを傷つける目的で誘拐したわけではなさそうだ。


悠長にタバコをふかしている安岡さんの横顔をなんとなく窺っていると、

目が。

合ってしまった。


「……カイジくん」
「は、はいっ?」
「……いや、なんでもない」
「はぁ…」

何か言いかけた安岡さんが気になったが、それよりも運ばれてきた食べ物たちに心を奪われてしまった。

やけに美味しそうだ。
焼き鳥にビール。そしてポテチに肉じゃが…!

黒服のおっさんたちが、オレのためにコンビニに行って買ってきてくれたらしい。
ありがてぇ…!


「いただきます……!」
「布団にはこぼすなよ」

早速いただくことにする。
―――――ただ、

どうしても安岡さんの視線が気になるのだけど…

「安岡さんも…食べますか?」
「や、オレはいい…」

そんなジッと見なくても…
オレ、こぼしませんよ…

た、多分…






◇◆◇◆◇


カイジくんはよほど腹を減らしていたらしい。
それはそれは美味しそうに焼き鳥に噛みついている。

そんなに焼き鳥だのポテチだの…
俗に言うジャンクフードが好きなのか。
若いんだな。


「うっまぁ……!サイコー…!」

いやまぁ。
そんなに喜んでもらえるとこちらも嬉しいけど。
一応オレのポケットマネーから出してるし。

……が。
美味しいものを食べて一気に緊張が緩んだカイジくんには悪いが、

説明させてもらおう。
何故オレたちがカイジくんをさらったのか――――。

その、理由を。





◇◆◇◆◇



安岡さんはズルい。
唐突にサラッと「カイジくんは言わば人質だ」なんて口にするんだから。

おかげで一瞬、焼き鳥の味が分からなくなった。

え?
オレ人質なの?

安岡さんの顔を茫然と見ていると、

こっくりと頷かれた。



「明日…料亭SでアカギがY原組の代打ちを務めることになっている」
「アカギが…?」
「そう。もしアカギが負けたら―――」


人質のカイジくんも生きてるか分からない。
恐らくオレの首も飛ぶ。
それくらいの金が行き来するはずだ…。


そう話すわりには、なんというか安岡さんに危機感が見られない。
その理由。なんとなく分かる気がする。

要するに、

アカギが勝つと確信してるんだろう。

だからこんなに余裕があるんだ。
きっと。

「カイジくんを誘拐して、アカギの闘争心に火を点けたかった…」

安岡さんはそう言うけれど。
オレを人質にしなくたって、アカギは絶対勝つのに。

そう。
絶対に。

アカギが負けるものか。


「じゃ明日、アカギも料亭Sに来るんですね…」
「そう。あとK田組の代打ちも来るはずだな」
「そのK田組の代打ちって強いんですか?」
「それなりに」
「………」

アカギはY原組の代打ちということだが、相対するK田組もそれなりの代打ちを用意するのだろう。



「でもアカギなら圧勝できますよ」
「あぁ」

安岡さんは横顔でニヤリと笑った。



そのあと、


安岡さんに言われてオレはアカギに電話を掛けることになった。
――――ちゃんと生きてるって伝えるために。

安岡さんの名前を出したら、

「クク…相変わらずとっぽい刑事だ…」と言っていた。


「とっぽい…?」
「ズルいってこと…」
「悪い人じゃなさそうだけどなぁ…」


好きなモノ食べさせてくれたし…とオレが安岡さんを庇うかのような発言をすると、

アカギはつまらなそうにフーンと相槌を打ったのだった。






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安岡さんのターンでした。

続きに矛盾点を見つけてしまったので修正中です…!




Oct. 20, 2012




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