(1)



ピンポ─────ン。
気が抜けるようなチャイムが響いた。

普通なら、人が来たと考えて応対しなきゃいけないはずなのに。

アカギは出ようともしなかった。


「出なくていいのか……?」

声を抑えつつ訊ねてみると、

「……出ない」と一点張りだ。

もし大事なお客さんだったら居留守はアウツだろうに。
アカギはそこら辺、平然としていた。


ピンポン、ピンポ────ン。

再度チャイムが鳴った。
訪問者もなかなか引き下がらない。

ホントに大丈夫なのか?と疑問に思ったのだけど、

「安心して。誰にも邪魔させねぇよ…」

などと甘く囁かされてしまっては、もう返す言葉がないわけでして。

それでなくとも正直、

「─────あ…ぁ…っ…!」

いきなりクン、と突き上げてくるアカギの気紛れさには、

もうお手上げ状態なのだ。


まったく。
強引というか、自由というか……
でもそんなアカギが好きなのだから仕方ない。


訪問者χはついに痺れを切らしたらしく、ドアをドニドニと叩き始めた。
が、アカギ動じず。


「─────……」

放っておいていいものかと不安になったが、

その思考を吹っ飛ばしてくれるのがアカギという男なのだ。


「こっちだけ見てて…」
「んっ……あぁ……っ」

アカギの長い脚がそっと絡んでくる。

ピタリと重なった肌が汗ばんで、吸いつくような錯覚さえ感じる。
───どこか遠くに感じていたアカギが、今はこんなにも近い。


「っく……ぅ……」

優しく揺さぶりをかけられて、オレはたまらず声をあげた。
粗末なベッドがギシリと軋む。

いつの間にか訪問者χはドアノブをガチャガチャと回し始めていた。

頭の隅で少し恐怖を覚える。
それが少なからず顔に出ていたらしい。

キスしていたくちびるをゆっくり離していったアカギは、

「大丈夫だから」

そう小さくほくそ笑んだ。
恐らくオレを安心させようとして。

これだけはっきり言い切るってことは、何かしら策を打っているって意味なんだろう。

おかげで少しは安心できた。

……が、訪問者χが電話をかけてくるという最後の手段に出たとき。

オレはハッと息を呑むしかなかったのだ。
────それすらもスルーすると思われたアカギが電話を取ったという、予想外の展開に。




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Aug. 31,2012


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