いやいや!
いくら同棲してる恋人とは言えこれはないわ…!と頑なに拒否するも、
「これもカイジさんの為だから」と言いくるめられ。
渋々アカギの提案を受け入れてしまったのは、
―――――明らかにオレのミスだ。
せめて変な声は出さないようにしよう。
そう決めて、くちびるを固く結んだ。
◇◆◇◆◇
「はい、入った」
「う……どうも…」
ほんの少し涙目になりつつオレは後ろを振り返った。
したらアカギが口元を僅かに緩ませていて。
その様子にかなりプライドを揺さぶられた。
「なに…が…っおかしいっ…」
迫力に欠ける掠れた声で追及するも。
「いや…ただ可愛いなと」
余計に恥ずかしくなることを言われ、もうノックアウト寸前だ。
「まさか座薬を入れただけでこんなカイジさんが見れるなんて思わなくてさ…」
「うわーっ!言うなぁ…っ!」
……そうなのだ。
オレはたった今、アカギに座薬を入れてもらったばかりなのである。
何故に座薬かと言うと、
季節の変わり目だからか…。
珍しく高熱を出してしまったため。
アカギに連れ添ってもらって病院へ行ったはいいが、座薬を受け取るところもばっちり見られてしまったのはまずかった。
おかげでこんなことに。
「まぁまぁ。結構スムーズにいってよかったじゃない」
「うぅ……っ」
―――――確かに、
アカギの協力はありがたかったけれど。
それ以上に何か大事なものを失ってしまった感は否めない。
「っ……寝る!」
オレはいたたまれなくなって毛布を頭からかぶった。
たとえ息苦しくても、アカギに今の真っ赤な顔を見られるよりはマシだと思ったから。
「……もう寝た?」
「……寝た」
「うそ。起きてるじゃない」
クツクツと静かに笑う声が聞こえて、心が落ち着かなくなる。
「カイジさんが起きてないと、つまんない」
「………」
「ヤることがない」
「………」
「南無阿弥陀仏」
「っ……オレは死んでねぇっ…!」
眠りにつこうとしてたペースを崩されて、思わず布団の中から声を振り絞った。
こんな身体がツラいときでさえいつの間にかアカギのペースにハマっている。
どういうことだと自分を小一時間ほど問い詰めたい気分だ。
とは言え。
こんなときに人が傍にいてくれるのは、悪くない。
おかげで寂しくないのだから。
そっと、布団から手だけを出した。
パタパタと指を動かす。
ほんの数秒後、
少し冷たい指がそっと絡んでくるのを感じた。
指の隙間をゆっくり包み込んでいく優しさがくすぐったくて、
ひんやりと心地いいんだけれども。
身体の熱はもっともっと上がってしまいそうだった。
それはもちろん分厚い毛布をかぶってるからじゃなく…
もっと、他の理由で。
……翌日。
だいぶ調子が整ってきたオレとは反対に、今度はアカギの具合が良くなさそうだった。
「わりぃ…うつしたか」
「……分かんないけど」
なんかドキドキする…。
そう零してオレの布団に素早く潜り込んできたアカギは。
もしかして恋の病にかかったのかもね…と、
どこか余裕綽々だった。
――――――そんなもん。
オレはもうとっくにかかってる…
この厄介な症状、
早くどうにかしないと。
例のシーンへと続く…。