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*本日の被害者は政宗様「佐助!某の嫁になってくれぬか?!」
──ありがちな求婚の申し出でだな、おい──
と、奥州筆頭伊達政宗は茶を啜りながら思った。
その傍らでは──竜の右目と名高い──政宗の側近・片倉小十郎が政宗の手に持つ湯のみに茶を注いでいた。
そんな2人の目の前には、顔を赤面しながら必死に愛の告白をする──虎若子──真田幸村と──真田忍隊長──猿飛佐助の姿があった。
違和感のありまくる光景を政宗と小十郎はただ見守るしか出来なかった。
ありがちな告白ありがちな光景にも関わらず
──政宗と小十郎の──2人が硬直してしまったのには訳がある。
勿論、幸村と佐助の両者が同姓同士という点もあるが、実を云うと政宗と小十郎も同姓同士でありながら恋仲という関係でもある為そういう理由で違和感を感じているのでは無い。
幸村が佐助に伝えた愛の告白、ごく一般的な求婚の1つにすぎない──いわば、ありがちな告白──驚く要点では無い。
ならば、何故2人が違和感を感じているかというと告白をする場所に問題がある。
「お前ぇら、作業の邪魔だから他所でやれよ」
緊張の糸を切るかのように、半ば呆れたような政宗の言葉が辺りに響き渡る。
幸村と佐助の恋の行方の一部を見ていた──政宗の──部下達は、一斉に政宗に視線を向ける。
「筆頭!真田の告白に水をさしちゃ駄目っすよ!」
「そうっす!男の勝負どころなんだから!!」
ブーイングが立ち込めるその場を制したのは──今まさに刀を抜き出そうと青筋を浮き出させた小十郎でも、自分の部下からブーイングを出された筆頭でも無い──真田幸村自身であった。
「皆さん、いいのです。確かに政宗殿の仰られる通りだ。某には佐助を娶る資格はございませぬ」
「いやいや、そういう意味じゃなくてだな……場所が場所だけに邪魔だから退いてくれって言ってるだけで」
話の噛み合わない幸村に政宗が幸村の言葉を否定したが、それも聞き流すかのように幸村は話を続けた。
「皆まで仰られるな、政宗殿。某は今まで散々佐助に甘えて育ってきた。その男が、今更”お前が愛しい。守りたい。だから某の嫁になってくれ”と云った所で受け止めてもらえる訳が無い」
判っておりますと小さく呟き幸村は俯いた。
俯いたせいで表情は伺えないが、その肩は小刻みに震えており時々小さな嗚咽が零れ落ちる。どうやら泣いているようだ。
静まり返った場に誰かの「筆頭が虎若子を泣かした」という呟きが聞こえてきた。
その瞬間、幸村を見守っていた男達の視線が政宗に突き刺さるように向けられた。
「酷いっすよ!筆頭!!」
「あんまりっす!自分は小十郎様とラブラブなくせに、他人の恋は応援出来ないって事っすか?!」
「俺だって小十郎様とラブラブになりたいのに!」
「筆頭は理解してあげられる子だと信じていたのに!」
聞き捨てなら無い言葉も聞こえてきたが、今はそれを攻める前にやらねばいけない事がある。
政宗は半ば今自分が置かれている状況が把握できずにいるのだが、取り合えず幸村の誤解を解かねばいけないと判断した。