スマートフォン解析 政小 短編 | ナノ
*ハロウィンの話。幸佐の「鳥食おう鳥」の続編ですが単品でも読めます。

trick or treat
お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!


前日はとても健やかな晴天だった影響か、朝一で畑に足を運べば自分の畑に山から降りて来たであろう猪の姿があった。
少し可哀想だが追っ払い野菜の被害は無いか確認していると、驚くべきことに野菜の中に迷彩服を着た忍びの姿を見つけた。

本人は同じ緑色で隠れていると思っていたのだろう。その腕の中には小十郎の畑で育てている野菜がちらほら。

「立派な盗人だな、おい」と佐助の首根っこを掴んで持ち上げると、佐助は困ったように笑みを浮かべ「見逃してよ」と呟いた。

「誰が見逃すか。野菜を置いてとっとと甲斐に帰れ!」
「しょうがないでしょ。これは慰謝料だと思って頂戴よ」
「…慰謝料だと?どういう意味だ」

小十郎の腕の力が緩んだ瞬間をついて、佐助はするりとその腕から逃れた。しかし逃げ出す事無く、寧ろ真っ向から対峙するように小十郎の目の前に立つと、ニッコリ喰えない笑みを浮かべこう云い放つ。

「鳥喰おう、鳥」
「………………は?」

佐助の言葉の意味が判らず唖然とする小十郎に、佐助はニンマリ笑みを深めもう一度呪文を呟いた。

──鳥喰おう、鳥と。

「…何でお前と鳥を喰わなくちゃいけねぇんだ、おい」

徐々に凄みを帯びていく小十郎の声に、佐助は怯む事無く飄々とした態度で口を開く。その様子は何処か小馬鹿しているようなモノで、どんどん小十郎の眉間の皺が深まっていく。

それでも尚、佐助はそれ以上の言葉を云うことは無く、ただニコニコと小十郎の様子を伺っているだけだった。

堪忍袋の緒が切れたのか、小十郎は手にしていた鍬を地面に叩き付けると、体中から青い稲妻を発し出し鍬を構えて佐助を睨み付けた。その姿は戦で修羅と呼ばれる鬼の小十郎そのままの表情である。

いい加減にしないとね、佐助は渋々と云った様子で小さくため息をつくと、降参とばかりに両手を肩まであげた。

しかし顔はニヤニヤ笑ったままだ。

「まあまあ、別に右目の旦那を馬鹿にしてる訳じゃないんだよ」
「黙れ!」
「…鳥喰おう鳥って言葉ね、昨日うちの旦那がアンタの主から教えられた言葉なんだよ」

そう一言述べた佐助の顔からストンと感情が消え、怒りを露にしていた小十郎はふっと我に戻った。
今目の前に居る佐助は、先ほどまでの佐助とは全く違う生き物に見える。
まるで感情すらない人形のような、だけど何処か冷たく周りを見つめる眼は恐怖すら感じられる。

小十郎の額に冷や汗がじんわり浮かび上がる。
ごくり──唾を飲み込み体勢を整え警戒心を露にする小十郎に、佐助は急にパッと我に戻ったかのように明るい表情を取り戻した。

「やだやだ!右目の旦那ったら、どうしちゃったの?俺様怖くてびっくりしちゃうよ」
「……本当に喰えない野郎だな、忍びって生き物は」

吐き捨てるような小十郎の言葉に、佐助は何処か困ったように笑みを浮かべた。
忍びが苦手な小十郎からしてみれば、今こうやって佐助と対峙するのも神経がいるのだろう。

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