/セカンド・デイ

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 the one day finishes

 タクシーのなかで眠ってしまったチビを抱えて自宅に帰り、二人掛かりで寝間着に着替えさせてやり、ベッドに押し込む。まだ俺たちにとってはそこまで遅い時間ではなかったが、明日も動くしさっさと寝るかと、交代でシャワーを浴びた。いっしょに・・は、黄瀬に閉め出されたので失敗。いいじゃねぇかよー。
 俺が風呂を終えて寝室に行くと、黄瀬はシーツの上に写真とファイルを広げてなにかしていた。
「なんだ?」
「あっお風呂あがったんスね。ごめん今片付ける・・」
「いや、いい。」
 真っ白なシーツにカラフルな写真。なにしてる?尋ねると、黄瀬は写真の選定、と厚手のファイルを掲げて言った。
 それだけで、黄瀬の言っていることが今では俺も分かる。大きな仕事の前なんかには時折見られる光景だ。
 モデルの商売道具のひとつに、"ブック"と呼ばれるものがある。"Book"、言葉そのままであるが、それは身ひとつで世界を渡り歩くモデルたちの唯一の持ち物と言っていい。
 このブックにはそのモデルのこれまでの仕事の写真たちやモデルのイメージを伝える為の写真が収められている。所謂ポートフォリオだ。クライアント――デザイナーやエディターに自身の売り込みや宣伝をする際にこれを見せる。
「どんな仕事なんだ?」
「次は、女性のフォトグラファーさんの作品集。人物を撮るのがすごくうまい人なんス。」
「へえ。」
「それに、色彩のとっても綺麗な写真で・・・彼女が撮ると男性も女性も不思議に中性的に映るんスよ。ほら、昨日リビングで観てた写真集があるでしょう?あれ、彼女の。」
「楽しみだな。」
「うん。」
 散らばった写真のなかから、彼女の心を掴んでくれるショットを選んで、ブックに挟んでいく。その写真の中には、色彩鮮やかなものもあれば、モノクロのシックなものもあった。
「それも選ぶのか?」
「ん?うん。彼女の写真は確かにカラフルだけど、白と黒だってカラーのひとつっスからね。彼女の作品に沿うものばかり選んでも、なんか媚びてるみたいでアレだしねー。"俺"を見てもらわないと。」
 そう言って黄瀬は透き通った笑みで笑った。
「ん?」
 写真を一緒に選定していると、扉のほうからカタン、と小さな音がした。
 なにかと振り返ってみると、ゆっくりとドアが開く。そこにはチビの姿があった。
「どうしたんスか?トイレ?」
「ううん」
 首を振ったチビが、こちらに近寄ってくる。枕を手に抱えていた。
「ねぇ、・・・」
「うん。」
 少し口籠ったチビを見て、黄瀬が優しく頷き返す。言い難そうにするのを静かに待って、そして耳をすます。チビは小さな声で言った。
「いっしょに寝て、いーい?」
 は、と俺たちは顔を見合わせて、思わず笑う。
「ああ。」
「もちろん。」
 嬉しそうにチビが笑う。ベッドから降りて、軽い身体を抱き上げる。いくらひとり寝が出来ると言っても、知らない家でひとり大きなベッドに転がるのは少し、寂しかったのかもしれない。
「なに?これ。」
 俺と黄瀬の間に降ろしたチビが、シーツに広がった写真を指して首を傾げる。
「これぜんぶ、きーちゃん?」
「うん。そう。」
「もでるさん?」
「うん。こうやって、写真に撮られるのがモデルさんのお仕事だよ。」
 きょろきょろと白いシーツのなかのカラフルを見回したチビは、ほんとうに小さな声でわあ、と呟いた。
 しばらく魅入ったように写真を手に取っていたチビは、ふっと黄瀬を見上げ、何も言わずににっこり、笑う。それに黄瀬もにっこり、笑った。
「さあ、眠ろうか。」
 写真を纏めファイルを閉じて、サイドボートにほうる。
 間接照明の淡い光を落として、3人、揃ってベッドの奥に潜り込んだ。


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