ツー・デイズ・アゴー
/黒桃要素があります。そしてふたりにお子さんがいます。
/未来設定、青黄はNY在住。青峰っちは安定のNBA選手、黄瀬くんは安定のデルモ。
/設定ですが、スタンド・アップシリーズと同世界であってもなくても、どっちでも読めます。そこらへんはお好きに妄想補完しちゃって下さい。正直なんも考えてなかったらいつのまにか青黄がNYに住んでました。
/時系列がちょいちょい飛びます。
 「/」←スラッシュ付きの章タイトルをちゃんとチェックしてね!





/ツー・デイズ・アゴー
 the day of expectation

 黄瀬の奴が、実に1ヶ月ぶりに帰ってきた。
 へとへとの態のあいつをベッドに引きずり込んでよりへとへとのぐずぐずにしてやったのが昨晩。――否、昨晩から今朝方にかけての事。俺のプレイオフでの戦いぶりを見届けてから慌ただしくフランクフルトを挟んでシュトゥットガルトへと飛んだ黄瀬から会えていなかった間の話を聞きつつ、とりあえずあいつの身体の隅々を舐めておいた。変態じみていることは認めるが、これは長らく会えない期間があった後のベッドインでの恒例行事である。
 最初の頃はぎゃーぎゃー騒いでいた黄瀬も、今じゃ平然とした様子でドイツでの日々を報告した。まあ、暴れる190の男を力づくで押さえる必要がないのはいいことなのだが・・だが、時折アノ頃の恥じらいが恋しくなるぜ、黄瀬よ。
 と、まあそんな感じで黄瀬がドイツにて仕事に勤しんでいた間のこちらの報告が昨晩はその後の行為によってうやむやになっていたので、翌日ふたりして朝寝坊した昼下がり、怠惰な午後の様相で裸のまんまシーツに包まりながら穏やかに談笑していた。
 さすが世界を股にかけるモデル(笑)なだけあり、裸体にシーツだけを纏ってしどけなくする様子は妙に様になっていた。その腰に手を伸ばしかけるが、不穏な気配を察知した黄瀬にはたき落とされる。チッ、据え膳め。

 今年もシーズンが終わり、オフに入った俺はこの1ヶ月チームとの契約の確認やらなんやらの事務作業をして静かに過ごしていた。と言っても、その大半はエージェントに丸投げしているので、俺がしたことといったらサインと判子押しくらい。年俸が地味にアップしていた気がするが、説明をほぼ右から左にしていたので、詳細額は忘れてしまった。まあ、長年の付き合いでばっちり弁えたエージェントは後でちゃんと黄瀬にも説明をしたのだろう。俺とチームとの契約状況の詳細は、俺よりも黄瀬の方が詳しい。
 その他には、チャリティやらイベントへの参加。NBAは結構慈善事業なんかにも力を入れているから、そこそこの頻度で人前に引っ張り出される。先日は地元のチビどもへのバスケ教室にチームメイトと二人で行って来た。ああいうのはなかなか楽しくて良い。もうちっと年齢層の高いティーン対象の教室なんかに行くと、なかには目を見張るような才能を持った奴に出会うこともある。数年後、こいつは必ず"クル"だろうな、という予感がする奴。こんなのがゴロゴロ転がってるんだ、アメリカってのは広くて、底が知れねぇ。
 黄瀬の方は、今回は数年前からモデル契約をしているカーメーカーの本社へと出向いていたらしい。ついでに来春発売予定の新車モデルの撮影。あとはドイツの古城でファッション誌の撮影やら、ヨーロッパ内を幾つか廻ったり何だり。因みに黄瀬の契約している車会社なんだが、なんとあのポルシェである。まじかよ。俺は最初それを聞いた時思わず奴を二度見したね。まじかよ。
 その関係でなんだろうが、黄瀬の車はやっぱりポルシェである。クラシックタイプ、一見ブラックかと見紛う上品な色合いの深いグリーンカラー。しかもコンバーチブルだ。屋根が開きやがる!確か契約前金の代わりに社長にキーを貰ったとか言ってやがった。なんだその映画みたいなやり取りは。
 黄瀬と俺、今となっちゃ自分で言うのもなんだがモデルにNBA選手と、結構な高給取りな訳だ。でも日本で平々凡々な男子中学生をやってた時からを知ってる奴がお互い隣にずっと居るもんだからか、なんかどうも、ふたりとも庶民感覚からいまいち抜け出せてねぇ感じがする。当然日本に居たときなんかより家やら家具やら持ち物はいいもの使っちゃあいるんだが、どうもな。黄瀬は未だに二枚重ねのトイレットペーパーは勿体ねーから、とか言ってシングル買ってくるしよ。
 着実に溜まっていく大金をどうやって消費したもんか、これけっこう真面目な悩み。ポルシェなんかで驚いてちゃだめだよな〜。・・・こんな事テツとかに言ったら、イグナイト決定だな。

 そんなもんで、相変わらず中坊んときとそう変わりねーんじゃねぇかって位のくだらなさでぐだぐだと喋っていたところに、唐突な鶴の一声。ならぬ一鳴き、かな。ベッド脇のサイドボードの上で黄瀬の携帯が振動した。
 黄瀬が、あいつのファンには到底お見せ出来ねぇような横着さで、その場を1mmも動かずに脚の爪先だけで取り上げたそれ。面倒くさそうに液晶を確認したその顔が分かり易くぱっと華やいだのを見て、俺は電話の相手に大方の見当がつく。
「くろこっちだあ」
 オフモード全開の、間抜け面に気の抜けきったソーダみたいな声。炭酸の鋭さと激しさがなりを潜めた、ただ甘くてぬるいだけの。とろりとした声。
 液晶をタッチして黄瀬がフォンコールに応える。久しぶりっスーと元気よく言った声には、既に少しのシュワシュワが復活し出している。
 俺はそのシュワシュワの増していく声をなんとはなしに聞いた。窓からレースカーテン越しに射し込む陽を浴びて、ほんの先程までのあの甘くてぬるいだけの、俺だけの声を頭の中で繰り返しながら。(俺の頭の中のあいつは、あおみねっち、あおみねっちと、まるでひらがなのようにばかみたいに俺のことをただ呼ぶんだ。いいだろう。)
 ――つまり、だから。黄瀬がシュワシュワ元気よく応対しているその会話の内容を、俺はちっとも聞いていなかったとそういう訳である。




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