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うちのクラスの委員長は、ザ・優等生だ。見た目は黒髪の三つ編みで眼鏡だし、その容姿に違わぬ真面目っぷりで先生からの信頼は絶大だし、頭も良い。まさに絵に描いたような優等生である。
俺はどちらかと言うとノリが軽くて部活以外は適当にやってるタイプだから、そんな委員長とはほとんど接点がない。たぶん、まともに喋ったこともない。委員長は堅物そうだし地味だし、友達いんのかって思ってたけど、意外にも交友関係に問題はないようで、色んな奴と普通に喋ってるっぽい。
まあ、俺とは関わることがないまま高校を卒業していくのだろう。そう思っていたのだけれど、俺はつい先日、委員長の秘密を知ってしまった。学校の誰も知らないであろう秘密を。


◇ ◇ ◇



その出来事があったのは2日前の月曜日。つまり部活がない日だった。普段ならいつものメンバーと寄り道しながら帰るか、早めに家に帰ってグダグダするかのどちらかだが、その日は違った。母親から知り合いの家に届け物を頼まれ、学校から少し距離がある隣町まで行っていたのだ。
本当なら断りたいところだったが、帰りに俺の好きなシュークリームを買って来て良いと言われれば、断る術はない。さすがは俺の母親と言うべきか。息子の扱い方を心得ている。
兎に角、俺はさっさと頼まれた用件を済ませ、お目当のケーキ屋に向かった。その店はいくつかの雑誌でシュークリームが美味しいと特集を組まれていて前々から気になっていたが、隣町ということもあって行くのは初めてだった。目的の店に入ると、いらっしゃいませー、という女性店員の声。
俺は店内に入るなりショーケースの中へと視線を落としていた。シュークリームがまだ並んでいることを確認し、店員の顔を見た俺は驚いた。その女性店員がすごくタイプだったからだ。
ぱっちりとした綺麗な瞳もふわふわした黒髪のポニーテールも、俺好み。若く見えるが、働いているということは年上か?
1人で思考を巡らせていると、相手の方も驚いていることに気付いた。俺が何かしただろうか。それとも、どこかで会ったことがある?いや、それはないか。こんなにタイプだったら覚えてるっつーの。


「名前ちゃーん、お客さんの方お願いねー」
「あ、はい!」


女性店員は名前ちゃんと言うらしい。名字は…胸のネームプレートをちらりと確認すると、名字、と書いてあった。
ん?名字名前?なんかきいたことあるような…?あ、そういえば俺のクラス委員長もそんな名前だったっけ?同姓同名とは珍しいこともあるもんだ。あの地味な委員長とは似ても似つかないんだけど……いやいや、待てよ。もしかして、委員長…?でも見た目違いすぎだろ。やっぱり別人?
1人でぐるぐると思考を巡らせていると、店の奥から出てきたおばさんが俺の思考を決定付ける言葉を放った。



「あら!その制服、名前ちゃんと同じ高校じゃない?こんなところまで来てくれるなんて珍しいわねぇ」
「ちょっと、おばさん!」
「ごめんなさい、つい…オススメはシュークリームだけど、ゆっくり選んで行ってね」


おばさんと呼ばれた女性は、クスクス笑いながら店の奥へと消えて行った。残されたのは俺と、彼女の2人だけ。店内にはイートインスペースもあるが、俺以外の客の姿はなかった。
俺は半信半疑ながら、声をかける。


「もしかしなくても、委員長?」
「……なんで花巻君がこんなところに来るんですか」
「まあ野暮用で。委員長こそ、なんでこんなところに…?つーか、働いてんの?バイト?もしかして学校に内緒で?見た目変えてんのって、関係ある?」
「質問が多いです。兎に角、私がここで働いていることは絶対に誰にも言わないでください。ご注文は?」


明らかに、私に関わるなオーラを出された。しかし、彼女への興味は尽きないし、色々なことが知りたくてたまらない。
ていうか、委員長。眼鏡外したら可愛いとか少女漫画かよ。その見た目だったら学校での男子生徒からの扱いも変わっただろうに…。


「委員長のこと教えてくれるまで注文せずに居座っちゃおうかなー」
「迷惑です」
「だろうネ。でも俺、気になりすぎてうっかり誰かに委員長のこと言っちゃいそうなんだけど」
「………。まだ仕事中なので」
「終わるまで待ってたら一緒に帰れるってこと?」
「…ご注文は?」


明確な返答は得られなかったけれど、肯定と見て良いだろう。俺はシュークリームとアイスコーヒーを注文すると、会計を済ませてイートインスペースに移動した。
彼女を待つ間に母親へ帰りが遅くなると連絡を入れる。彼女の勤務時間が何時までかは分からないが、高校生ならそこまで遅い時間まで働かされることはないだろう。その予想は的中し、19時頃になると彼女はいつもの三つ編み眼鏡の姿で現れた。


「さっきの方が可愛かったのに」
「私のことを話せば、誰にも言わないでくれるんですよね?」
「…ハイ。」


俺の褒め言葉はあっさりスルーされた。あまり話したことはないから分からないけれど、恐らく他のクラスメイト達にこんな威圧的な話し方はしないだろう。俺が少しばかり卑怯な方法で距離を詰めたことは認めるが、何もそんなに刺々しい態度取らなくてもよくない?
とは言え、彼女は渋々ながらも話をしてくれた。
彼女の家は母子家庭であり大学進学費用を自分で稼いでいること。学校からバイトの許可がおりなかったため、母親の反対を押し切って学校には内緒で隣町の親戚のケーキ屋でバイトをしていること。正体がバレないように容姿を変えていること。今まで誰にも見つからずバイトを続けてきたが初めて俺にバレてしまったこと。


「なんか、委員長すげーわ。ていうか頭良いんだから奨学金とかもらえるんじゃねーの?」
「奨学金だけでは1人暮らしできませんから。分かったらもう関わらないでください」
「んー…そっか。まあ秘密は守るけどさ、関わらないってのは無理かなー」
「はい?」
「だって俺、委員長―――名字サンのこと気に入っちゃったから」


すごくすごく迷惑そうな顔をされたような気がするが、あえて見なかったことにしよう。
こうして俺と委員長は、2人だけで秘密を共有することになった。嬉しいと思っているのは間違いなく俺だけだと思うけれど、それでも良い。
あの姿を知っているのは学校の中で俺だけなのだと思うと、自然と頬が緩んだ。


「とりあえずさ、その敬語やめない?」
「クセなんです。無理です」
「え、マジ?俺、堅苦しいの苦手なんだけど」
「知りません」


帰り道、彼女は相変わらず素っ気ない態度だったけれど、なんだかんだ言って一緒に帰っているわけだし。どうにかこうにか(卑怯な手を使いながらだけど)連絡先もゲットしたし。
あの日の夜、これから楽しくなりそうだと、柄にもなく心を躍らせて眠りについたのは、俺だけの秘密だ。


幸せな夢を見ました



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