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できることなら、もっと名前のことを抱き締めたままでいたかったのだけれど、のんびりしていたら母さんが帰って来てしまう。俺は名前の額にキスを落とすと、名残惜しくも身体を離した。


「名前はこのまま寝てて良いから」
「え、いや、でも、」
「結構無理させたし。汚れたものとか、洗ってこなきゃいけないし」
「いえ!それは!私が行きますので!」
「裸で?」
「……」
「良いから。俺に甘えて?」


名前は羞恥からか顔を真っ赤にして、けれど観念したようにコクリと頷くと布団の中に顔を埋めた。そんな反応も可愛くて俺は1人でニヤけてしまう。情事中の名前はどこへやら。今は完全にいつもの名前に戻っている。
俺はさっと事後処理を済ませて服を着ると洗濯機のところへ急いだ。服は勿論乾いているが、さっさと下着を洗って乾燥させないと名前が帰れなくなってしまう。とりあえず、洗濯が終わるまでは待っていてもらうしかない。俺は部屋に戻ると、いまだにベッドに潜ったままの名前に声をかけた。


「名前?そろそろ顔見せてくんない?」
「……今なら恥ずかしくて死ねます」
「ダメ。死なないで」
「だって、私、すごく、はしたないことを……」
「いーの。そういうもんだし。可愛かったから」


俺の言葉に少しは懐柔されたのか、名前はおずおずと布団から顔を見せてくれた。顔は相変わらず赤いままだけれど、指摘したらまた隠れてしまう気がしたのであえて何も言わない。代わりに微笑みながら頭を撫でてやれば、また少し落ち着いたのか、ゆるりと笑ってくれた。


「あの、きいても良いですか?」
「ん?何?」
「たかひろくんって、今も呼んで良いんでしょうか…?」
「っ!……うん。呼んで」


自分から名前で呼んでほしいと強請っておきながら、通常モードの時に冷静に名前を呼ばれるとかなりクるものがある。あの名前が。俺のことを名前で呼ぶ日が来るなんて、誰が想像できただろうか。
フツフツと湧き上がる嬉しさを噛み締めていると、名前がこちらをじっと見つめていることに気付いた。なんだろう。そんなにおかしな顔をしているだろうか。


「俺の顔に何かついてる?」
「あ、いえ、何も」
「すげー見てたじゃん。なんで?」
「……特に…意味は、ない、です」
「名前、嘘吐くの下手すぎ。俺に言えないこと?」
「……な、って、思っただけです…」
「ん?何?聞こえなかった」
「改めて見ると、カッコいいなって思っただけです」


照れまくりながらまた布団で顔を隠してしまった名前だけれど、照れるのはこっちの方だと言いたい。面と向かって真面目な顔でそんなことを言われて、嬉しくないわけがない。
俺は強引に布団の中に侵入し、名前のことを抱きすくめた。まだ何も身に纏っていない名前の素肌は、スベスベしていて気持ちがいい。


「な、ちょ、離れてください!」
「なんで?もう何もしないって」
「でも、私、服着てないですし…」
「うん。知ってる。何もしないからこうしてるだけ。だめ?」
「……ずるいです。そんなきき方されたら、断れないじゃないですか…」


お許しが出たので、俺は心置きなく名前の体温と身体の感触を堪能することにした。またヤりたくならないのかときかれれば、そりゃあそういう気持ちが全くないわけではない。けれど、俺は既に随分と満ち足りた気分だったし、名前のことを思うとこれ以上は何もしない方がベストだという結論に至ったのだ。
控えめながら、俺の服をキュッと掴み胸元に擦り寄ってくる様は、普段の名前からは到底想像できない。…可愛い。つい先ほどまできちんと機能していた理性がぶっ飛びそうになる程度には、可愛い。


「あの、」
「うん?何?」
「最初、バイトのことがバレた時、最悪だって思ってました」
「ああ…うん、だろうね。そんな感じだった」
「でも、今はバレて良かったって思います」
「まあ…ちゃんと秘密守れたし」
「そうじゃなくて。もしバレていなかったら、貴大君のこと、好きになれていなかったと思うから」
「は?」
「貴大君のこと、好きになれて良かったです」


いつもいつも思う。なぜ名前はこんなにも純粋で綺麗な言葉ばかり並べることができるのだろうか、と。俺の心をどろどろに溶かすような甘いセリフを溢すことができるのだろうか、と。
きっとそれは、名前の才能なのだ。邪な気持ちも下手な策略も難しい駆け引きも一切なく、ただ、真っ直ぐに潔く感情を伝えることができる。そんな、才能。


「俺も…名前のこと好きになって良かった」
「……恥ずかしいこと言わないでください」
「よく言うよ…散々恥ずかしくなるようなこと言ってくれたくせに」
「えっ…私、そんなこと言いましたか?」
「うん。いいよ。嬉しいから。名前はそのままでいい…俺の前でだけは、素直に色んなこと言って」


こんなにも誰かのことを愛おしいと思ったのは初めてで。俺は再び、その身体を抱き締めた。俺の気持ちが少しでも名前に伝わるように、きつく、優しく。


「貴大君、」
「ごめん、痛い?」
「いえ…私、幸せです」
「俺も同じこと思ってた」


そうして俺達はどちらからともなく笑い合って。甘い甘い時間を共有した。これからも2人で初めてを積み重ねて、こんな時間で染まっていけばいい。柄にもなく、そんなことを思ったのは、俺だけの秘密だ。


真っ白なキミとボク



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