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俺達の交際は順調そのものだった。クラス内だけでなく学年全体に、なんとなく俺達が付き合っていることは伝わっていたし、名前も2人きりの時はかなり素直になってきたと思う。以前の俺なら現状で十分満足していたのだろうけれど、人間とは欲深い生き物で、満たされれば更に上を求めてしまう。
俺は学校での名前に、もう少し素直になってもらいたいと思っていた。ベタベタしなくてもいいから、せめて話す時に笑いかけるぐらいはしてほしい。
そこで俺は名前の友達に頼んで、お昼ご飯を2人きりで食べさせてもらうことにした。名前は驚いていたが、拒否はしなかった。
教室で机を挟んで向かい合い、お互いにお昼ご飯を食べ始める。付き合っているのだから特に面白味もないのか、クラスメイト達の視線はそれほど気にならない。


「そういえばその弁当って名前…、名字の手作りだっけ?」
「そうですよ」
「へー。毎日作ってんの?」
「母は仕事で朝いないこともありますから。これぐらいは普通です」
「ふーん」


俺はコンビニで買ってきたパンを齧りながら名前のお弁当を見遣る。名前のことだから栄養バランスまで考えられているのだろう。彩りよく几帳面に並んだおかず達は、名前の性格を物語っている。


「美味そう」
「普通ですよ」
「ちょっとちょーだい」
「え?…ああ、パンだけだとお腹すきますよね」


そういう意味じゃないけど、まあいっか。
何がいいですか?ときかれお弁当箱の中を見る。どれも美味しそうだからどれでもいいんだけど、名前の手作りのやつがいい。そんなことを思いながら俺が選んだのは、ド定番の卵焼きだった。


「卵焼きでいいんですか?」
「手作りっぽいやつがいいから」
「唐揚げだって昨日揚げたんですよ。冷凍じゃないです」
「じゃー唐揚げちょうだい」


あーん、と。俺が口を開けると、名前は唐揚げを口に入れてくれた。
あれ。随分と素直にあーんしてくれたな。そんな恥ずかしいことできません!とか言われるかと思ったのに、拍子抜けだ。俺が唐揚げを咀嚼しながら、美味いなぁ、なんて思っていると、クラスの友達が近付いてきた。


「見せつけてくれるねぇ?」
「あ、バレた?」
「名字さん、あーんとかしなさそうなのにな」
「俺だけには特別にやってくれんの。ね?名前?」
「花巻君!そういうつもりでおかず欲しいって言ったんですか!」
「え?気付いてなかったの?」


どうやら名前は、その行為が恋人同士のイチャイチャだとは思っていなかったらしい。クラスメイトに冷やかされて、初めてその意図に気付いたようだ。
みんなの前では名前で呼ぶなと言われていたのに、俺がつい名前で呼んでしまったことは怒ってこない。それどころではないといった様子だ。
今更ながらに顔を赤く染めていく名前が、なんとも可愛らしい。クラスメイトは、今まで見たことのない名前の様子に興味津々だ。


「名前、顔真っ赤」
「誰のせいだと思ってるんですか…っ!」
「名前で呼んだのに、そこは怒らないんだ?」
「もう!勝手にしてください!」


名前はスネたようにそう言うとお弁当を食べることに集中し始めた。怒っているというより、これは照れ隠しだ。俺はニヤニヤしながら名前を見つめる。


「…なんですか」
「んーん、可愛いなぁと思って」
「そういうことこんなところで言わないでください!」
「照れてるー。かわいー」
「花巻君!」
「ごめんごめん」


名前の反応がつい可愛くてイジメすぎてしまった。これ以上言ったら機嫌を直してくれなくなりそうだったので、俺は口を噤む。俺がパンを食べ終える頃、やっと落ち着いてきた名前。そこで俺は、ダメ元でお願いしてみることにした。


「あのさ、明日から俺にもお弁当作ってきてよ」
「なんでですか」
「名前の美味しい愛情のこもったお弁当が食べたいから」
「…嫌ですよ」
「えーなんで?」
「また冷やかされるんでしょう?」
「んー、最初はそうかもしんないけど、慣れたら言われないんじゃね?」


名前はとても難しい顔をしたまま、返事をしてくれなかった。まあ、どうせダメだろうとは思っていた。作るのだって大変だろうし。俺はそれ以上、お願いすることはなかった。


◇ ◇ ◇



翌日。朝練を終えて教室に行くと、珍しく名前の方から俺の元にやって来た。その手には四角い容器。え、まさか。


「おはようございます」
「おはよ」
「これ、もし良かったら」
「え?これ弁当じゃねーの?」
「はい。花巻君のです」
「……嫌って言ってたじゃん」
「はい。でも、花巻君が食べたいと言ってくれたので。いりませんか?」
「いる!ありがと。すげー嬉しい」
「……良かった」


そう言ってふわりと笑った名前に、心臓がどくん、と跳ねたのが分かった。あーヤバイ。なんで名前っていつもこうなの。俺の方が仕掛けたはずなのに、結局、敵わない。


「名前のそういうとこ、すげー好き」
「っ!ここ、学校です!」


やられっ放しは性に合わないし悔しいので、仕返しと言わんばかりに耳元で囁いてみたら、名前は見事に真っ赤になって俺の元を去って行った。クラス中が見てたけど、まあ、付き合ってんだからいいだろ。
俺は1人優越感に浸りながら、どこでそのお弁当を食べようかと、昼休憩の過ごし方を考えるのだった。


あいをふりまくぼくら



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