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あの放課後の出来事から1週間が経過した。俺と名字さんは、全く話をしなくなっていた。今週の月曜日はあの店に行かなかったし、最近はLINEも一切していない。クラスでは俺達が別れたんじゃないかと噂が立っていたけれど、直接確認してくる奴はいなかった。
俺としては別れたつもりはないし別れるつもりもない。けれど、あれだけ拒絶されれば俺だってヘコむわけで、すぐにどうこうできる心境ではなかった。
おかげで部活に身が入らずミスってばっかりだったので、岩泉に説教をくらった。そして目敏い及川と松川に、名字さんと何かあったのだろうと勘付かれて質問攻めにあった。詳しいことは言わないまでも、うまくいっていないことだけは伝えた。


「へぇー…マッキーがフラれた感じってこと?」
「まだフラれてねーよ」
「まだ、なんだ」
「うるせー…」
「花巻ヘコみすぎだろ。また岩泉に怒鳴られるぞー」
「おー…」
「おい花巻!その辛気臭ぇ顔どうにかしろ!」
「マッキー傷心中なんだよ、岩ちゃん。優しくしてあげなきゃ」
「知るか!うだうだするぐらいならさっさとケリつけて来い!」
「さすが岩泉。男前ー」
「でもなぁ…そうだよなー…このままじゃ宙ぶらりんだし」
「マッキーファイト!フラれたら慰めてあげる!」
「お前にだけは慰められたくねーわ」


なんだかんだ言って俺のことを心配してくれる3人には感謝している。岩泉の言う通り、このままうだうだしていても何も始まらない。
俺は部活が終わると、急いで名字さんの家を目指した。うまくいけば、バイトから帰って来た名字さんに会えるかもしれない。話がしたい。ただその一心で名字さんの家に向かった。


◇ ◇ ◇



名字さんの家の前で待つこと30分。スマホで確認すると、時刻は夜の8時を過ぎようとしている。今日はもう帰ってきていて家の中にいるのかもしれない。LINEで確認してみようか。そう思い立ちスマホをいじり始めた時だった。


「花巻君…?」
「あ、名字さん!今日遅くない?」
「おばさんと少し話をしていて…それより、どうしたんですか?」
「話、したくて」


俺の言葉に、名字さんの表情が硬くなるのが分かった。帰れと言われるだろうか。不安になりながらも、俺は名字さんの返事を静かに待つ。


「うち、入りますか」
「え…いいの?」
「部活が終わって、ずっと待っていてくれたんですよね?お茶ぐらい淹れます」
「でもお母さんとか…」
「母は看護師なんです。今日は夜勤なので誰もいません」
「……あ、そう…」


一瞬、良からぬことを考えてしまった自分を叱責する。今はそれどころじゃないだろ。俺は、お言葉に甘えてお邪魔することにした。決して下心はない。……たぶん。
どうぞ、と通されたリビングは名字さんの家らしくとても綺麗だ。名字さんは先ほど言った通り、俺にお茶を淹れてくれた。自分のお茶も用意して、無言で俺の斜め前の椅子に座る。


「あのさ、単刀直入にきくけど。俺達って別れたことになってんの?」
「……分かりません」
「俺は別れたくないよ。名字さんのこと今でも好きだし、他の奴らに何言われても、俺は気にしない」
「花巻君」
「…何?」


凛とした声で俺の名前を呼ぶ名字さん。何かを決心したようにも見えるその表情が、俺を緊張の渦の中へ誘う。


「私、バイトを辞めようと思います」
「…え?なんで?もしかして、誰かにバレた?」
「いえ。元々、受験のことも考えて辞めようと思っていたんです」
「あー…そうなんだ…じゃあ、俺との秘密もなくなるね」


俺と名字さんを繋ぐ唯一の秘密がなくなる。そう思うと寂しくなった。でも確かに、受験勉強のことを考えればいつまでも続けられないのは当たり前だ。バレる前に辞めるのも賢い選択だと思う。


「バイトを辞めたら変装する必要はないので、明日からは眼鏡も三つ編みもやめます」
「ん?え?そうなの?」
「そうしたら、少しはマシになりますよね?」
「えーと、見た目が?ってこと?」
「そうです。少なくとも今までよりはマシになるはずです。そうすれば、花巻君と付き合っていても認めてもらえるかもしれません」
「……は?」


名字さんはつまり、俺と付き合っていたいってこと?そのために頑張ろうとしてくれてるってこと?そんなの、まるで、


「名字さん…俺のこと、好きなの……?」
「好きになったら、駄目なんですか」


恥ずかしそうに視線を逸らしながらそんなこと言われて、駄目なんて言うわけねーじゃん。つーか、好きになってもらうために今まで頑張ってきたんだから、好きになってもらえてすげー幸せなんですけど。何これ、夢じゃねーよな?
俺は堪らず、名字さんを抱き締めた。


「良いに決まってんじゃん。俺、何回も言ってるけど名字さんのことすげー好きなんだから」
「…知ってます」
「ね、名字さん。両想いになったんだからさ、俺のお願いきいてくんない?」
「内容によります」
「名前って呼んでいい?」
「〜っ!」


名前を呼んだ瞬間、俺の腕の中で見たこともないぐらい顔を赤くしている名字さんがいた。そんな反応されたら可愛すぎてヤバいんですけど。これって、呼んで良いってことで良いのかな?


「名前?」
「…っ、恥ずかしいので、駄目です…っ、」
「そんな可愛い理由、認められません」
「……せめて、2人の時だけにしてもらえませんか……」
「ん、分かった」

俺は名字さん…いや、名前の眼鏡をそっと外す。やっぱり綺麗な眼だ。
きょとんとした顔の名前が可愛くて、今まで抑えてきたものが爆発する。気付いたら、名前の唇に自分のそれを重ねていた。


「ごめん、」
「……、いえ、」
「嫌じゃなかった?」
「〜っ、花巻君、急に色々するの、やめてください…心臓、もたないので……」
「そういう反応するから抑えらんないの。ごめん、もう1回だけさせて…名前」


ワタワタしている名前に、もう1度だけ優しくキスを落とす。真っ赤になる姿が堪らなく愛おしい。ヤバイ…これは止まりそうにない、けど、今日はここまでで我慢。これ以上幸せになったら、俺の心臓もヤバイから。


幸福に溺れた



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