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confusion et egare


どうもおかしい。何がって、私が。黒尾といると楽だし気を遣わなくていいし良い男友達だと思っていたのに、最近は急に胸が苦しくなったりドキドキしたり、いつも通りにできないのだ。こんなことは今まで1度もなかった。理由を考えても全く分からない。
こういう時は頼れる人に相談するのが1番だ。そこでパッと思いついた人物。…うん、適任。私はその人物に連絡をし、相談を依頼したのだった。


◇ ◇ ◇



「ねぇ。私が誘ったのって赤葦だけなんだけど」
「ヘイヘイヘイヘーイ!そんなこと言うなよ!俺達の仲だろー?」
「タダ酒飲めるってきいたんで」
「いや待って、赤葦には奢るって言ったけど2人のことは知らないよ!」
「まあ2人のことは置いといて、相談って何です?」


私にとっては置いておける問題じゃないんだけど、とは思ったけど、テーブルを囲む残りの3人は私の相談内容に興味津々の様子なので話さざるを得ない状況である。
3人―――赤葦、木兎、月島は、黒尾の高校時代のバレー仲間だ。私とは黒尾を交えて何度か飲みに行ったことがあり、あれよあれよと言う間に仲良くなった。黒尾の友達や後輩というだけあって3人とも癖が強いけれど、なんだかんだでみんな良い奴。そこも黒尾と似ている。
そんな、黒尾と共通の知り合いだからこそ、私の悩みを相談したら解決できるのではないかと思った。特に赤葦は分析能力に長けていると思うし、冷静に的確なアドバイスをくれるだろうと踏んでいる。木兎はちょっと馬鹿だし(ごめん、でも本当のことだと思う…)、月島は私の悩みを嘲笑ってきそうだったから敢えて呼ばなかったのに…まあこの際、仕方がない。
私は最近の黒尾とのことについて洗いざらい話をした。新入社員歓迎会のことも、2人で飲みに行った時のことも、先日の合コンのことも、全て。意外にも3人は真面目に私の話をきいてくれている。


「…で、なんか最近おかしいんだよねー私。なんでだと思う?」


最後にそう締めくくった私を、3人はそれぞれ気難しそうな顔で見ていた。何?そんなに深刻な問題?木兎までそんな鳩が豆鉄砲食らった、みたいな顔しないでよ。


「あのー、名字さん……それ、最近になって初めて感じたんですか?」
「うん?そうだねー…悩みだしたの最近だもん」
「信じらんない」
「え?どういうこと?ちょっと月島!面倒臭がらずに教えてよ!」
「…五月蠅い…」
「ヘイヘイ名字!青春だなー!」
「はあ?何言ってんの木兎。酔った?」
「木兎さんでも分かってることが分からない名字さんに俺は絶望してます…」


赤葦と月島が憐みの眼差しを向けてくるのはなぜだろう。ていうか、みんな私の相談内容ちゃんと分かってる?私は黒尾と今まで通り楽しくやっていきたいだけなのだ。この胸のモヤモヤを解消する方法を教えてくれる…ただそれだけで良いのに。


「私はね、黒尾と楽しいお酒を飲みたいわけ。こんなモヤモヤしたままだと、2人きりで飲みに行くのも微妙な感じなの。私にとってそれは死活問題なの!日頃の鬱憤を発散させる場所を失うわけにはいかないの!分かる?」


私が力説すると、月島はものすごく怪訝そうな顔をした。赤葦は頭を抱えているし、木兎でさえも若干引いているような気がする。さっきからなんなんだ。私が何か言うたびに空気が澱んでいく。
その空気を払拭するように、木兎が豪快にビールを飲み干した。空になったジョッキをドンと机に置きニカっと笑うその顔は、おもちゃを見つけて喜ぶ子どもみたいだ。


「大丈夫だ!名字は黒尾とうまくやれる!」
「何それ…説得力ないし。私の悩み、解決してないし」
「だって名字、黒尾と一緒にいるのが良いんだろ?それなら何の問題もない!」
「木兎さんの言うことも一理ありますけどね」
「え?赤葦どういうこと?全然分かんない」
「自分で考えたら?いつか分かるんじゃない?」


月島は嘲笑しながらそんなことを言った。会うたびに思うけれど、月島って私の後輩なんだよね?そりゃあ私は尊敬できる先輩じゃないかもしれないけれど、仮にも先輩の私にこの態度ってひどくないですか?大体、いつか分かるんじゃない?ってなんだ。いつかじゃなくて今解決したいんですけど!


「なんか3人は私の悩みの原因が分かってるっぽいよね?じゃあ助けてよー…」
「ここで僕達が答えを言ったら黒尾サンに怒られるんで」
「はあ?なんで黒尾?」
「月島、喋りすぎ。…名字さん、残念ながら俺達には話をきくことしかできないみたいです」
「赤葦ー…」
「でもまあ…木兎さんじゃないですけど、大丈夫だと思いますよ。2人なら」
「そうそう!よーし、話まとまったな!今日は飲むぞー!」
「ちょっと木兎!まだ話まとまってない!何も解決してないから!」


私の発言はあっさりと無視され、3人はお酒やつまみを注文し始めた。
何なの?私のために集まってくれたんじゃなかったの?さっき良い奴らって思ったの撤回する!こうなったら今日は飲みまくってやるんだから!
私は大好きな芋焼酎を注文する。3人に、女子力ないなーって顔をされたけど、別にどうでも良いし。そこで、ふと考える。
この3人と飲むのも黒尾と飲むのも同じように楽しい。でも、赤葦や木兎や月島とそれぞれ2人きりで飲みに行くことはないし、飲みに行こうと思ったこともない。別に飲みに行っても良いのだけれど、3人の顔を思い浮かべるとなぜか黒尾の顔も一緒に思い浮かんでしまって、結局黒尾と飲みに行っているというのが現状だ。うーん、なんでだろう。やっぱり同じ会社だし誘いやすいからかな。
気付けば考えているのは、トサカ頭の無駄に背の高い男のこと。ああもう!なんでかなあ!私は頭の中からその男を追いだすべく、焼酎を一気に飲み干すのだった。



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confusion et egare=混乱と迷走


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