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essayer


黒尾の発言のおかげで、私達の関係は社内でも公認となっていた。最初こそ冷やかされたものの、慣れてしまえばどうってことはない。高校生じゃあるまいし、いつまでも男女の関係を弄っていられるほど大人は暇じゃないのだ。そんなわけで、私と黒尾がほぼ毎日のように一緒に退社するようになっても、誰も何も言ってこなかった。
今日は金曜日。1週間の仕事から解放される最高の瞬間である。私と黒尾はいつものように2人で退社した。平日は基本的に黒尾が私の家まで車で送ってくれるか、駅まで歩いて行ってそこで別れるかのどちらかだ。たまに飲みに行ったりもするけれど、最近は仕事が忙しくてそんな元気もなかった。
そうだ、今日は楽しい金曜日!飲みに最適な日ではないか!飲みに行こう、と誘おうとして、私は自分の財布の中身を思い出した。そう、今日は楽しい金曜日だが、悲しいことに給料日前なのだ。でもどうしても飲みたい気分。
そこで思考を巡らせた私は、名案を思いついた。家飲みにしたら良いのだ。コンビニかスーパーでお酒とおつまみを買ってうちで飲む。よし、これでいこう。


「ねー黒尾、飲もうよ」
「給料日前だから金ねーだろ」
「だからね、家飲みにしようよ。うち来たら良いじゃん」
「…は?」
「え?だめ?」


てっきり、おー良いじゃん、とか言ってノってくると思っていたのに、黒尾はすごく怪訝そうな顔をしている。そんなにおかしなことを言っただろうか。我ながら良い提案だと思ったんだけど。


「あのなぁ…お前、それがどういう意味か分かってんの?」
「ん?意味?」
「そうだよな…まぁ、そうだと思ってたけど」
「何よ、はっきり言いなさいよ」


頭が痛いと言いたげな表情でため息を吐く黒尾に、私は食ってかかる。そんな馬鹿なやつを見るような目で私を見てくるのはやめてほしい。


「俺ら付き合ってんだろ」
「うん」
「付き合ってる男と女がどっちかの家行くっつーことは、そーゆーコトするかもって考えはねーのか」
「そーゆーコト………えっ、は?ちょ、違う!」
「やっと分かった?やっぱり何も考えずに誘ってきたワケね」


含みのある物言いをする黒尾が言わんとしていることが分かって、私は思わず全力で否定してしまった。無意識とはいえ、私はなんて軽率なことを言ってしまったのだろうか。
ここ数年、男の人とお付き合いをしたことがない私はすっかり忘れていた。付き合ってる男女なら、所謂、体の関係があってもおかしくない。黒尾とは友達の延長みたいに付き合っているから、そんなこと考えもしなかった。でも、よくよく考えてみればキスだってしたし、一応私だって大人の女なんだからそういうことがあってもおかしくはないのだ。
どうしよう。今更恥ずかしくなってきた。


「あー…いや、いいから。そんな焦ってどうこうしようとか思ってねーし」
「う、うん…」


気まずい。気まずすぎる。私のせいで微妙な空気になってしまった。どうしたらいいんだろう。
私は真剣に考えてみた。黒尾と、そういうことをしても良いと思えるか。答えは決まっていた。嫌がる理由なんかない。黒尾となら、そういうことをしても良いと思える。
でも、黒尾はどうなんだろう。あっちからその話題を振ってきたということは、少なからずそういうことを考えてくれていた、ということになるのだろうか。
けれども、残念ながら相手はこの私だ。スタイルが良いわけでもなければ肌のお手入れを入念に行なっているわけでもない。そこら辺のお姉さんと比べたら魅力のカケラもない。自分で言っていて悲しくなるけれど、女磨きを怠っていたのは事実だから仕方がない。こんな私に、果たして黒尾は欲情してくれるのだろうか。
黒尾が今まで付き合ってきた人は私よりずっと綺麗だっただろうし、そういうこともそれなりにしたんだと思う。比べられたら、つらいな。私は考えすぎてだんだん落ち込んできた。


「どうした?」
「……黒尾」
「ん?」
「うちで、飲もう」
「は?お前、今までの話きいてた?」


呆れられているのは分かってる。でも、思ってしまったのだ。もしも黒尾が私とそういうことをしたいって思ってくれているなら、その気持ちに答えたいと。私だって覚悟はできてるんだってことを伝えたかった。


「ちゃんと、分かってるよ」
「…ホントかよ」
「うん。私、黒尾となら良いと思ってるもん」
「は……お前…、」
「お酒飲みたいし。黒尾が嫌じゃなかったら一緒に飲もうよ」
「あー…もー……、どうなっても知らねーからな!あとで文句言うなよ!」


黒尾はいつものような飄々とした態度ではなく、少し余裕がなさそうだった。人のことは言えない。私だっていっぱいいっぱいだ。
けれども、もう後戻りはできない。私と黒尾はなんとなく緊張しながら近くのスーパーに入り、お酒とおつまみをカゴの中に放り投げていくのだった。



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essayer=試す


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