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#??




「ツムが結婚て。信じられへんわ」
「嘘やないで」
「そら知っとるけど」
「羨ましいん?」
「別に」


俺とそっくりの顔をした兄弟は本当に興味なさそうにそう言うと目の前のハンバーガーを頬張った。相変わらず可愛くない。もっとも、可愛いやつだと思ったことなど生まれてこのかた1度もないのだけれど。
社会人になってからというもの、兄弟2人で食事をしたことは数えるほどしかない。お互いに仕事が忙しいというのもあるけれど、男兄弟2人で仲良くお食事、なんて寒すぎるというのが正直なところだ。そして何より俺達は双子なわけで、2人揃って食事をしていたらそれなりに目立つらしく、他人からの視線が気になるというのもある。恐らくそれはコイツも同じ考えを持っているだろう。
そんな考えが根底にあるにもかかわらず、どうして今わざわざ2人で食事をしているのか。本来ならばここには婚約者の、否、つい先日入籍したから妻の名前がいるはずだったのだけれど、仕事の急用で来るのが遅れているのだ。


「で?わざわざ飯奢るて言うてくるぐらいやからそれなりの話があるんちゃうん?」
「ああ、それなんやけどな…」
「遅くなってごめんなさい」


あっという間にハンバーガーを食べ終えたサムに本題を切り出そうとしたところで、タイミングよく名前が現れた。元々2人でお願いしようと言っていたから丁度いい。俺の隣にするりと腰をおろして、もう話しました?と確認してくる名前に首を横に振ることで答え、今から、と伝える。


「俺らの結婚式ん時にな、ちょっと協力してほしいことがあるんやけど」
「……嫌な予感しかせぇへんわ」
「私はやりたくないって反対したんですけど侑さんが絶対面白いからやりたいってきかなくて…すみません」
「名前やって面白いと思わへん?」
「面白いとかそういうのいらないんですってば…普通の結婚式で良いって何回も言ってるのに…」


俺発案の計画に対して、確かに名前は難色を示していた。けれども最終的には、治さんが良いと言ってくれたら良いですけど…と折れてくれたわけで。そんな気はしていたけれど、サムにも話をしたら眉を顰めて、お前バカか?と言わんばかりの表情を向けられ頭にきた。しかしここで喧嘩になんてなろうものなら断られて計画丸潰れになるのは目に見えているのでぐっと我慢した俺を褒めてほしい。
そんなこんなで(色々と飯を奢るという条件付きで)どうにか協力してもらえることが決定したところで、その日は解散となった。あとは当日までに話を詰めれば良いだけだ。上機嫌な俺とは逆に、名前は少しばかりの不安と多くの諦めを孕んだ表情を浮かべている。


「そもそも結婚式なんて親族で細々やれば良いと思ってたんですけど…」
「一生に1回しかできへんのにそんなん勿体ないやん!どうせならパーっと派手にやらんと」
「まあ…思い出にはなるかもしれませんけど…」
「せやろ〜?」


俺の満面の笑みに吊られるようにして薄っすらと微笑んだ妻の顔は、初めて見た時よりも随分と柔らかい雰囲気になったものだと、僅か見惚れた。


◇ ◇ ◇



そしてあれよあれよと言う間に迎えた結婚式当日。親族に加えて会社の関係者や学生時代の友達なんかが集まってくれて、結婚式は順調に進んでいた。名前のウェディングドレス姿は(俺が選んだのだから当然だが)文句なしに綺麗。ついでにその隣に立つ俺もパーフェクト。会社の同僚達による余興も宴を盛り上げてくれている。


「それではこれより新郎様もお色直しのために一旦退席されます」


一足先にお色直しへ向かった名前を追うようにして俺も退席し、さて、ここからがお楽しみのサプライズ。サムと合流し作戦決行の時である。


「今更やけどほんまにやるん?」
「ここまできてそれ言うんはなしやろ」
「…奥さんプレッシャーやろなあ」
「そこは愛の力を信じとき」
「さっむ」
「なんやて?」


衣装チェンジをしながら小さな兄弟喧嘩。それでもどうにかこうにか準備は整った。鏡に映る俺とサムは髪型から髪色、服装まで瓜ふたつ。さすがプロだ。
俺の考えた面白いこと。それは、俺とサムという瓜ふたつの人間を前にして、妻である名前がどちらが本物の俺かを見極めるというものだった。ヤラセなしのぶっつけ本番。これで間違えられたらかなりショックだし会場の雰囲気がヤバくなることは分かっている。だからこそ名前はずっと渋っていたのだろうけれど、俺には自信があった。名前は絶対に間違えたりしないと。
普通なら新郎新婦が揃って再入場する場面で、音楽に合わせて開いた扉から入場したのは俺とサム。騒つく会場内で司会の人が段取り通りに綺麗な声でナレーションしてくれる。


「大切な新郎様がお2人!私達には本物の新郎様がどちらか分かりませんね…でも大丈夫!新婦様ならきっと愛する新郎様はどちらなのか、分かることでしょう!」


ハードルを上げまくった司会の言葉に煽られてカクテルドレスに着替えた名前が登場。ウェディングドレスとはまた違った雰囲気でよく似合っている。やはりこのドレスを選んで正解だった。俺とサムは打ち合わせ通りに全く同じ動作で名前の足元に跪くと、これもまた全く同じセリフを言う。


「「お手をどうぞ。お嬢さん」」


賑やかだった会場内は嘘みたいに静か。名前がどちらを選ぶのか、皆が注目しているのが分かる。名前はゆっくりと俺達に近寄ると交互に視線を彷徨わせて。やがて、片方の手を取った。俺の手じゃない。サムの方の手を。え。いやいやそらあかんやつやろ!ちゃう!そっちは俺ちゃう!内心で焦ってはいたけれど、その焦りを露わにはできない。
サムは、こんなん打ち合わせとちゃうで!と言いたげな雰囲気を醸し出しているけれど、俺だってこんなはずではなかったのだ。それでもここで固まっているわけにはいかず、サムは名前の手を握って立ち上がる。


「なんで分かったん?」
「……瓜ふたつの言動で正直迷いましたけど、やっぱり間違ってなかったですね」


いや間違えとるけど。
得意げな名前の表情が逆に俺の心を抉る。わあっと盛り上がる会場。このまま披露宴が進むなんて冗談じゃない。幸せいっぱいであるはずの結婚式でなぜこんなことに。いや、俺が言い出したことやけど!それはそうやけど!


「あなたは、治さんですね?」
「…!」


サムの手をやんわり離した名前は、いまだに跪いたままだった俺の手を取ってゆるりと笑った。本日2度目の驚き。なんなんこれ。ドッキリ?ポカンとして暫く動けなかった俺は、名前の声で我に返る。


「侑さん、エスコートしてくれないんですか?」
「…ほんま、びっくりさせんといてや」


状況が理解できていない周りの人達はザワザワしているけれど、サムだけは安堵の色を浮かべていた。名前の手を握り歩き出した俺を見て、漸く状況を理解できたらしい周りの人達から拍手と歓声が上がる。少し、否、かなり焦りはしたけれど、なんだかんだで俺の考えた計画は成功ということで良いのだろう。披露宴は最終的に大盛り上がりのうちに幕を閉じた。


◇ ◇ ◇



「最初間違えたやろ」
「いいえ。最初から治さんだって分かって選んだんですよ」
「なんでやねん!」
「侑さんが焦るところ見られるかなと思って」
「嘘やん…」


二次会も無事に終わりやっとのことでホテルに到着。堅苦しいネクタイを緩めながらずっと気になっていたことを問いかければ、名前は何食わぬ顔で反論してきた。


「お2人は確かにそっくりですけど全然違いましたから」
「…どこが?」
「手の差し出し方も、私を見る時の眼差しも、浮ついたセリフの言い方も。全然違いましたよ」


ついでに手の温度も違いました、と付け加えた名前は、二次会用に借りた衣装を着替えるからと言って部屋を出て行こうとした。勿論そんなの俺が許すわけはないので背後からしっかり抱き留めてやったけれど。
名前、俺のことだいぶ好きやんなあ?
揶揄うつもりで耳元で囁いた言葉。いつもなら、何言ってるんですか、と一蹴されるはずなのに、今日の名前は特別な日だからサービスしてくれているのか、お酒が入っているせいがあるからか、やけに甘ったるかった。


「好きですよ。だから結婚したんでしょう?」
「…それ、誘っとる?」
「さあ?どうでしょう」


重なった唇は熱かったから、たぶん誘っている。俺はそんな勝手な解釈をした。どうやら夜は長くなりそうだ。


相思相愛のく末