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引き続き夏休み。バレー三昧であることに変わりはないけれど、一応俺達3年生は受験生でもある。勉強は嫌いだし全くやる気は起きないけれど、夏休み中の課題がこれでもかと大量に出されたので、勉強せざるを得ないのが現状だ。そこで、バレー部のいつものメンツで集まり、うちで勉強会をすることになった。
どうせなら名前ちゃんも呼ぼう。そう思って電話をかけたのが1時間前。勉強するなら行く、と返事をもらい、俺は上機嫌だ。会うのはうちに泊まってくれた日以来だから少し緊張するけれど、会える嬉しさの方が何倍も上だ。
早く来ないかなーと玄関前でうろうろしていると、先に来たのは男3人。なんとなく落胆してしまったのが表情に出ていたのか、まっつんに怪訝そうな顔をされた。3人は何度もうちに来たことがあるので、勝手に俺の部屋へ入っていく。母さんもいちいち出迎えたりはせず、台所から、いらっしゃーいとだけ声をかけてきた。
さて、そろそろ名前ちゃんも来る頃かなーと玄関の扉へ視線を送った時、ちょうどチャイムが鳴る。俺はすぐさま扉を開けて、そこに立っていた名前ちゃんを笑顔で出迎えた。清楚な水色のワンピースがよく似合っている。


「待ってたよ」
「うん。お邪魔します」
「名前ちゃん、いらっしゃい!暑いから早く入って」
「はい。ありがとうございます」
「徹。みんなの分のお茶、持って行ってね」
「はいはい」


母さんは名前ちゃんのことがお気に入りらしく、先ほどの男3人が来た時とは打って変わって、わざわざ玄関まで走ってきた。俺はお盆に人数分のお茶をのせて、名前ちゃんと2階に上がった。部屋に入ると3人の視線が俺と名前ちゃんに注がれる。


「おー名字さん、久し振り」
「ホントに来てくれたんだ」
「及川に呼び出されたんだろ?名字も大変だな」


まっつん、マッキー、岩ちゃんのそれぞれに声をかけられ、名前ちゃんは、久し振り、とだけ返す。ちょっと岩ちゃん、なんで大変とか言うの!マッキーも、来てくれたんだって何!
俺は心の中でぶつぶつ文句を言いながら、空いたスペースに腰を下ろした。名前ちゃんもそれに倣って俺の隣に座る。お茶を配り終えて、それぞれの課題を机の上に広げれば、勉強会の開始である。
みんなスラスラと手を動かし、時には分からないところを教え合ったりして真面目に取り組む。名前ちゃんは、何度も転校する度に色々な学校のテストを受けているからなのか、かなり頭が良い。質問すれば分かりやすく説明してくれて、他の3人も名前ちゃんに質問しては手を動かし、順調に課題をこなしていく。
そうして机にむかうこと1時間。徐々に集中力が切れてくる時間帯。こういう時に脱線してしまうのは、大体俺かマッキーだ。今日も例の如く、マッキーが真面目モードを一蹴する。


「なぁ、及川と名字さんって、普段2人の時どんな感じなの?」
「あ、俺もそれ気になる」
「えー?ききたい?ききたい?」
「及川!勉強中!」
「お前ら、勉強しに来たんだろ」


なんだかんだで集中力が切れていた俺と、その手の話にノリノリなまっつんはマッキーのフリに食いつくものの、やはりというべきか、真面目な岩ちゃんとツっこまれたくない名前ちゃんはいまだに課題と向き合っている。


「ちょっと休憩。で?どうなの?」
「んー…ラブラブかな!」
「漠然としてる上にうぜー」
「まっつん、男の嫉妬はカッコ悪いよ」
「岩泉こいつ殴って」
「ウルセェから黙れ!クソ及川!」
「なんで俺だけ!?マッキーとまっつんも喋ってたじゃん!」
「お前はウルセェ上にウゼェ」
「間違いないわ」
「ちょっとひどくない!?」
「みんなウルサイよ」
「「「「ごめんなさい」」」」


名前ちゃんの一言に、大の男4人が揃って頭を下げる。岩ちゃんまで怒られるって、なかなかレアだ。しかし、完全に勉強モードを逸脱してしまった俺達は、もはやシャーペンを持つことすらしていない。勉強中に母さんが持って来てくれたクッキーを食べながら、まっつんが口を開いた。


「俺、噂できいたんだけど。夏休み入る前、教室で抱き合ってたってホント?」
「あー!それ!及川から何も言ってこねーから忘れてた!」
「そんな噂あったか?」
「あったって。あのクールビューティーな名字さんがとうとう及川に毒されたってクラスの奴らが騒いでた」
「名字が…教室で……?」
「ちょっと、毒されたって表現おかしくない?俺達付き合ってるんだけど」
「じゃあマジなの?」
「マジだよ!ね!名前ちゃん!」
「及川。私帰っていいかな」
「ちょっと待って!ごめんってば!でも噂になってたし!今更嘘吐くのもおかしいじゃん!」


立ち上がろうとする名前ちゃんを必死に食い止め、なんとか落ち着かせる。分かりにくいけど、結構照れているらしい。
否定しない上に逃亡を図る名前ちゃんを見て、3人は噂が真実だったと理解したのだろう。なかば感心したように俺達を見つめている。どうだ!ラブラブだろ!俺は少し得意げに笑ってみせた。


「そういえば及川、誕プレも貰ってたもんな。すげー見せびらかしてきてさ」
「あー、あのキーホルダーか。確かにセンスいいけど、及川ウザかったな」
「俺なんか帰り道ずっとその話だぞ。地獄だろ」
「マジか。俺なら走って1人で帰るわ」
「岩ちゃん結局、話の途中で俺のこと殴ってきて、ちゃんときいてくんなかったじゃん!」
「岩泉グッジョブ」
「キーホルダーだけでそんなに話題盛り上がるか?」
「公園行って、おめでとうって言われて……なんかその後言ってたような…」
「え?そこからが大事じゃね?」
「岩泉思い出せ!」
「あー…なんだったっけ…」
「ふふーん。俺が教えてあげよっかー?その後はねー…」
「及川!……私、もうこの家来るのやめるよ?」
「だめ!それはだめ!」
「じゃあ黙って」


俺達の会話を無視して課題に取り組んでいた名前ちゃんだったけれど、さすがに堪忍袋の緒が切れたのか、もの凄い威圧感で睨まれた。分かってるよ、元々言うつもりなかったもん。
俺はシュンとして口を噤んだ。3人も、名前ちゃんのあまりの剣幕に何も言えずにいるようだ。
さて、そこで話を終わらせて勉強に戻れば良いものの、話し出してしまうと止まらない。真面目な岩ちゃんでさえ、もう完全にシャーペンを置いてしまっている。


「手は繋いだろ?ハグもしたらしいし、たぶんキスもしてんだろ。で?そこからは?」
「おー。花巻ツっこむねー」
「及川のことだから手ェはやいと思うじゃん。でもそういう雰囲気ねーなぁって」
「そういえばそうかもな」
「マッキー、そこはデリケートな問題だから」
「お、じゃあまだなんだ?」
「お前ら!名字もいるってこと忘れてねぇか!」
「あ、ごめん」
「ごめん名字さん、もう聞かないから怒んないで」
「悪ぃな名字。こいつら調子乗ってて…一発ブン殴って……名字?」
「名前ちゃん?」


今までの流れからして激怒してもおかしくないタイミングなのに、名前ちゃんは驚くほど静かで逆に心配になる。みんなも俺と同じことを思っているのだろう。どうしたのかと名前ちゃんへ視線を注いでいる。
と、その時だった。名前ちゃんはシャーペンを筆箱に片付けると、課題をバサバサとカバンに仕舞い始めたではないか。いよいよヤバいと焦り始めて、ふと、名前ちゃんの顔を見ると、まるであの日の夜を彷彿とさせるような赤い顔をしていることに気付く。
え、ちょっと待って。もしかして俺達の会話をきいてあの日のこと思い出しちゃった?それで照れてる?だとしたら、すっごい可愛いんですけど。


「やっぱり帰る。ごめん」


その声もその表情も、普段見せる凛としたそれではなく。俺と2人きりの時にしか見せない、乙女な名前ちゃんのそれだった。
逃げるように部屋を出て行った名前ちゃんを、俺達はただ呆然と見つめる。


「……あれはヤベーな」
「普段とのギャップハンパない」
「名字、あんな顔するんだな」
「ちょっとみんな!今の忘れて!あれは俺だけのものなの!」
「いやー貴重なもん見せてもらったわ」
「写メっときゃ良かった」
「おい、課題やるぞ」
「俺の話きいてる!?」


3人は、俺を無視して勉強を再開し始める。可愛い名前ちゃんの姿は他の奴らには見せたくなかったんだけど仕方ない。俺は諦めて、3人同様、勉強を再開したのだった。


◇ ◇ ◇



その日の夜、名前ちゃんからLINEがきた。
及川のせいで私おかしくなっちゃったじゃん。次みんなと会う時どんな顔すればいいの!
そんな文面を見て、思わず頬が緩む。そんなつもりはないと思うけど、これって、結構な殺し文句だよ。俺を意識して名前ちゃんがあんなに可愛い反応してくれるなんてさ、名前ちゃんが俺のこと大好きだって証拠だよね?
俺はだらしなく緩んだ表情のまま、スマホに指を滑らせるのだった。


ねぇ、「  」だよ


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