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季節はすっかり夏になった。登下校の際はじっとりと汗が噴き出す程度には暑い。東北は少しぐらい涼しいのかなぁと思って期待していたのに、やっぱり夏は日本中どこでも暑いらしい。
夏休みを目前に控えた7月20日。今日は及川の誕生日だ。本人にきいたわけではない。バレー部の3人が教えてくれたのだ。私は彼氏の誕生日を知って祝わないほど、白状ではない。現にこうして、茹だるような暑さの中、体育館に来て及川の部活が終わるのを見学しながら待っている。
及川は2階席にいる私に気付くと、それはそれは嬉しそうに手を振ってきた。本当に犬みたいだ。


「部活終わるまで待っててね!一緒に帰ろうね!」
「分かったから、練習戻って」


他にもギャラリーがいるのにそんなことを大声で言ってくるのは、付き合う前から変わらない。周りからの視線も、いちいち気にしていたらキリがないので気にしないことにした。
この暑い中、少しも手を抜かずに練習に打ち込む及川の姿を見て、思う。やっぱり及川はカッコいいやつなんだなぁ、と。調子に乗るから絶対に本人には言わないけど。


◇ ◇ ◇



部活が終わり、私は部室棟の前でスマホをいじりながら待っていた。付き合う前にもここで待っていたことを思い出して、少し恥ずかしくなる。あの時は及川が告白されているのを見て逃げ出してしまったんだっけ。今思えば、とんだ恋する乙女である。
恥ずかしい過去を払拭すべく、再びスマホに視線を落とそうとしたところで、部室棟の方が騒がしくなった。視線をそちらに向ければ、及川が部室から飛び出してきていて、それを3人が呆れたように見送っている。何をそんなに焦っているのだろう。私は逃げも隠れもしないのに。


「お待たせ!良かった…待っててくれたんだ…」
「逃げないよ」
「前は帰っちゃったじゃん」
「それは付き合う前の話でしょ」


数分前に思い出していた恥ずかしい過去を掘り返され、私は及川から視線を逸らす。見なくても及川が嬉しそうに笑っていることが分かって、心がふんわり温かくなった。
2人して歩きながら、私は当初の目的を思い出す。今日は及川の誕生日。こんな時じゃないとプレゼントなんて渡さないし、きちんとお祝いしようと決めていたのだ。


「及川、」
「うん?どうしたの?」
「今日、誕生日なんでしょ?」
「え?名前ちゃんに言ったっけ?」
「岩泉くん達にきいた」
「そうなんだ。知らなかった」
「それでね、これ…欲しいものとか分からなかったから、いらないかもしれないけど」
「もしかしてプレゼント?これ渡すために部活終わるの待っててくれたの?」
「……うん」


及川は、それはそれは驚いた顔をして私の顔をまじまじと見つめてきた。元々大きな瞳をさらに大きくまん丸に見開いていて、そんなに驚かなくても、と思ってしまう。
確かに私は、こういうことをするキャラじゃないし驚かれるのも無理はないけれど。


「ありがとう。すっごく嬉しい」
「それは良かった」
「…ねぇ、開けてもいい?あそこの公園寄ろうよ」
「いいよ」


及川の提案に頷いた私は、近くの公園に寄り道した。陽が長くなってきたとはいえ、20時をすぎれば辺りは薄暗い。
私達は備え付けのベンチに腰をおろした。及川は早速ラッピングをほどき、中身を確認している。


「タオル!使う使う!大事な試合の時専用にするね!」
「好きなように使って」
「あとこれは……え?すごい!これ特注なの?」
「そういうの作れるってネットで見たから。及川、バレー大好きでしょ。喜ぶかなーと思って…」


及川の手元で揺れるのは小さなキーホルダーだった。ただのキーホルダーではない。ホワイトとペールグリーンの青城ユニフォームに背番号1が印されている、世界に1つしかない及川だけのキーホルダーだ。プレゼントに何を贈ろうか考えている時にたまたまネットで見つけたサイトで、オリジナルキーホルダーが作れることを知って思いついた。


「いらなかったら捨てて」
「捨てるわけないじゃん!一生持っとくよ!」
「そこまでは……ちょっと…」
「ねぇねぇ、どう?似合う?」
「キーホルダーに似合うとか分かんないけど…いいんじゃない?」


早速自分のスマホにそれをつける及川は幸せそうで、悩んだ甲斐があったと安堵する。暫くそのキーホルダーを眺めていた及川だったが、ふと、その視線を私に向けてきた。


「本当に嬉しい」
「誕生日おめでとう」
「うん。ありがとう。…名前ちゃん、大好き」
「……私も、好きだよ」


及川は一瞬驚いて、けれどすぐに優しく笑って、流れるような動作でキスをした。普段だったら怒るところだけど、今日は及川の誕生日。たまには及川と同じように、素直になってみても良いかもしれない。
私がほんの少し笑ったのを見て、及川は再び口付けを落としてきたのだった。


キミのクオリアと同化


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