×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

※「気持ちは満点ですよ」続編


俺には最近彼女ができた。特別可愛いってわけではないけれど見れないってほどでもない、つまり見た目は普通の女の子。運動もできないってほどではないけれど秀でているわけではなさそう。頭は…どちらかというと悪い方だと思う。こうして言い並べてみると、なぜ名前のことを好きになったのか、自分でもよく分からない。けれど、馬鹿は馬鹿なりに一生懸命勉強している姿を見ると、なんとなく放っておけなくなってしまったのだ。分かりやすい名前は俺のことが好きだってバレバレだったけれど、そんなところは、まあ、可愛いと思えなくもなかった。
なんだかんだで俺と名前は付き合い始めたが、俺は部活優先の生活を送っているから名前に割ける時間はほとんどない。それゆえに、俺と名前が付き合っているという事実を知っている人間はほとんどいなかった。俺としては、バレー部の面々にバレるのはどうしても避けたかったから好都合だ。特に天童さんなんかにバレたあかつきには、どんな冷やかしをされるか分かったもんじゃない。名前は幸いにも、俺と付き合っていることを言いふらすような性格ではなかったから、凄く仲の良い友達ぐらいにしか話していないらしいし、きっとこのまま穏やかに付き合い続けることができるだろう。
そう思っていたのに、ある日、事件が起こった。事件といっても、名前が天童さんと瀬見さんに出くわしただけで、それ以上のことは何も起こっていない。が、胸騒ぎがする。場所は放課後の部室棟前。名前はどうやら、担任が配布し忘れたというプリントを届けに来ただけのようだった。なぜよりにもよって名前が届けに来るんだ、とは思ったが、来てしまったものは仕方がない。俺は名前からプリントを受け取ると、さっさと帰るよう促す。が、そうさせてくれなかったのはその光景を見ていた天童さんだった。


「クラスメイト?」
「え?私ですか?」
「そうそう」
「はい…そうですけど…それが何か…?」


名前は明らかに戸惑っていて、天童さんから距離を取るように1歩後ずさった。なぜ急に名前に絡み始めたのか。俺にはさっぱり分からないが、隣にいる瀬見さんも天童さんを止める気がないようなのだからおかしなことだ。


「白布が女の子と喋ってるの、珍しいもんな」
「英太君もそう思うよねー?しかもなんか…雰囲気違うような気がするし…?」
「何言ってるんですか。早く練習行かないと監督に怒られますよ」


俺は平静を装って早くその場を離れさせようと監督の名前を持ち出す。しかしこういう時の天童さんはなかなか俺の思うように動いてくれない。それどころか、名前の顔を覗き込んでじっくり観察し始めた。一体何だというのだろう。


「名前は?」
「名字名前と言います…」
「ふぅーん…名前ちゃんか。決ーめた!ね、名前ちゃん、俺の彼女にならない?」
「え?」
「は?」
「おい天童…急に何言ってんだよ」


天童さんの思わぬ発言に、その場にいた天童さん以外の3人は呆気にとられる。やりとりを見た限り、2人は初対面のはずだ。それなのに、天童さんは何を思ったか名前を彼女にしようとしている。俺が数ヶ月かけて確立したポジションを、天童さんは出会って数分でいとも簡単に奪おうとしているのだ。これにはさすがの俺も黙っていられない。


「何言ってるんですか天童さん」
「んー?なんかこう…びびっときちゃったんだよねー。一目惚れってやつ?」
「え、でも、あの…」


名前は明らかに動揺していて、助けを求めるかのようにちらちらと俺の方に視線を向けてくる。きっと、付き合っていると言っても良いものかどうか迷っているのだろう。こうなったら仕方がない。バレて色々詮索されるのは面倒だし、できればこのまま隠し続けていたかったけれど、このままでは天童さんが引き下がってくれそうもない。
なぜ名前に一目惚れなんかするのかと少し苛々してしまったが、俺はその苛々を覚られないようにいつも通りの口調で、そいつはダメですよと、言おうとした。が、その前に、天童さんがおどおどしている名前の頭をするりと撫でて、可愛いね、なんて言ってのけた。
俺にはあんなこと到底できないし、可愛いなんて甘いセリフを言ってやったこともない。だからだろうか。名前は満更でもなさそうに肩を竦めて、照れたように笑っているではないか。俺の、ものなのに。なんでそんな顔するんだよ。内心穏やかではないけれど、こんなところでいちいち熱くなるなんて格好悪い。俺は先ほど言おうとした言葉を、できるだけ冷静に紡いでみることにした。


「そいつはダメですよ」
「うん?どうして?」
「俺の、彼女なんで」


瀬見さんの驚いた顔と、名前の申し訳なさそうな顔が並ぶ中、天童さんは数回瞬きをしただけで、特に表情の変化がない。マジかよ、と呟く瀬見さんの声は聞こえたけれど、続いて天童さんが言った言葉があまりに衝撃的だったものだから、俺は思わず思いっきり眉を顰めてしまった。


「そんな気はしてたよ」
「…分かっててあんなこと言ったってことですか」
「そんな怖い顔しないでよ」
「はっきり言って不愉快です」
「最初に彼女ですって言わなかったから、別に良いのかなーと思って」


天童さんの発言に、俺は何も言い返せなかった。名前は俺のただならぬ雰囲気を感じ取って少しオロオロしているけれど、いつものように冷静ではいられなかった。
こんなの自分らしくない。そんなことは分かっているけれど、俺は自覚なく名前のことを結構好きになっていたみたいで、気付いたらその肩を自分の方に抱き寄せていた。


「これでも結構好きなんで。諦めてもらって良いですか」
「……なーんだ。そういう顔もできるんだネ?」
「天童…いい加減、それぐらいにしてやれよ」


急に空気が軽くなって、天童さんがニヤニヤと笑う。もしかして、最初から本気じゃなかったのだろうか。俺がどんな反応をするか見たくてあんなことをしたのだとしたら、相当恥ずかしいことをしてしまった。
唐突に現状を理解した俺は、抱き寄せていた肩を離して名前に謝ろうとした、が。その顔を見て、思わず口を噤んでしまった。なんでそんな、嬉しくて堪らないって顔してんだよ。調子狂うだろ。


「天童、行くぞ」
「邪魔者は退散しまーす」


やりたい放題やってから満足したらしい天童さんは最後まで楽しそうに笑いながら瀬見さんと去って行った。まったく。何がしたかったんだ、あの人は。
俺はいまだに締まりのない顔でそわそわしている名前に、ごめん、とだけ零した。


「なんで謝るの?」
「…らしくないことした」
「嬉しかったよ。ありがとう」


言葉通り嬉しそうに笑う名前を見ると、たまにはらしくないことでもしてみるものだな、と思ったりして。俺は周りに誰もいないことを確認してから、もう一度名前の肩を抱き寄せた。


「ど、どうしたの、」
「たまにはこういうのも良いかと思って」
「バレちゃって良かったの?」
「仕方ないだろ。名前を取られるわけにはいかなかったし」
「え」


言った後で、とんでもない発言をしてしまったことに気付くがもう遅い。名前は、それはそれは幸せそうに笑って、またもや嬉しいと呟いた。
俺の彼女はどこにでもいるような普通の女の子だけれど。それでもなぜか、笑った顔はどんな子よりも可愛いと思えてしまうのだから恋は盲目ってやつなのかもしれない。
馬鹿な子ほど可愛いらしい

しぐれ様より「1万打記念短編「気持ちは満点ですよ」続編、白布視点でバレー部に彼女の存在がバレないようにあくまでクールに振る舞っているが実際は余裕が無い白布」というリクエストでした。クールに振る舞いきれませんでした…すみません。密かに彼女溺愛でツンデレな白布も良いなと思って書きました笑。キャラ崩壊気味で申し訳ありません…。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.04.28


BACK