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白布賢二郎は頭が良い。バレー部で唯一スポーツ推薦ではなく一般入試で白鳥沢に入学しただけあって、学年でもトップレベルの成績を誇る。
そんな白布と同じクラスの名前は、どちらかというと落ちこぼれの部類だ。一般入試で入学したのは白布と同じだが、もともと努力家でもなければ天才でもない名前は、少し勉強の手を抜いただけであっと言う間に成績を落としていった。親にとやかく言われることはないけれど、さすがに学年でビリにはなりたくない。名前は差し迫るテストに向けて、密かに少しずつ復習を始めた。
テストまで1週間となったある日。名前は学園内の図書室にある自習スペースで勉強をしていた。少し前から復習を進めていただけあって、勉強の進み具合は順調だ。
名前が勉強している自習スペースは、テスト期間中であるにもかかわらず人がほとんどいない。実は白鳥沢学園には他にも沢山の自習スペースが設けられており、そんな中でもこの図書室の中に併設されている自習スペースは穴場なのだ。名前は1人で勉強することも多く、静かな自習スペースがお気に入りだった。
ガラリ。珍しく自習スペースの扉が開く音がして、名前は何気なく音がした入り口の方へ目を向ける。そこにいたのは、白布だった。同じクラスとは言え挨拶程度しかしたことのなかった名前は、白布の姿を確認しても声をかけることなく参考書に視線を戻す。すると、意外なことに、白布の方から名前に近付いてきた。


「隣、いい?」
「え?あ、うん…どうぞ」


席は沢山空いているのだから、わざわざ自分の隣に座らなくても良いのにな、と思いながらも、名前が断る理由はない。白布は名前の了承を得ると、がたりと椅子に座ってノートや参考書を開き始めた。それを見て、名前も勉強を再開する。
暫く、静かにペンを滑らせる音と参考書のページをめくる音だけが響いていた室内。名前は数分前からペンが止まっていた。何度解説を読んでも、数学の問題が解けないからだ。面倒ではあるが、先生のところに行って教えてもらうしかないか。名前がそう思って席を立とうとした時だった。隣から妙な視線を感じて顔を向けると、白布と目が合う。


「ペン、止まってる」
「ああ…うん。解説読んでも分からなくて…今から先生のところ行こうかなって思ってたところ」
「どの問題?」
「え?えーと…これ。問7」
「これはこの公式使って展開。で、こっちの公式に当てはめて…」
「あ!分かった!ここでこの定理が使えるから……こうだ!」
「そう」


白布の解説によって、それまで全く分からなかった問題が嘘のようにサラサラと解けていく。名前は感動した。難題が解けたこともだが、白布の教え方の上手さに、だ。もしかしたら先生よりも分かりやすいかもしれない。
白布は礼を強請るわけでもなく、名前が理解したことが分かると、解けて良かったね、とだけ言って自分の勉強を再開し始めた。なんとカッコいいのだろう。よく考えてみれば白布は頭が良いだけではなく、強豪バレー部で2年生ながらレギュラーとして活躍している体育会系でもある。その上、今のようにただのクラスメイトでしかない自分に、さりげなく勉強を教えてくれる優しさも持ち合わせているなんて、完璧じゃないか。
名前はこの時初めて、白布賢二郎という男にときめきを覚えた。そしてそのときめきは、次第に恋心へと変貌を遂げる。というのも、テスト期間中、名前と白布はずっと図書室の自習スペースで一緒に勉強していたのだ。
待ち合わせをしていたわけでも、約束をしていたわけでもない。けれど、白布は毎日、同じ席、つまり名前の隣の席に座って自習を始める。しかも名前の手が止まっていることに気付くと、白布は決まって、どこ?と声をかけて教えてくれるのだ。これで、好きにならないわけがなかった。
自習スペースで一緒に勉強するようになっても、教室では特に今までと変わりないため、話すことはほとんどない。だから余計に、名前としてはこの自習スペースでの時間が楽しみで仕方がなかった。
けれども残念なことに、一緒に勉強できるのはテスト期間中だけである。テストが終われば、白布は勿論部活に行ってしまうわけだから、必然的に自習スペースには来なくなる。テストは嫌いだ。けれど名前は、ずっとテスト期間でも良いと思ってしまうほど、白布と過ごす時間が好きになっていた。
しかし時間は止まってくれない。いつの間にかテストは明日に迫っていて、名前は、今日で楽しい時間も最後かぁ、と物思いに耽っていた。


「また分かんないの?」
「へ?あ、ううん。ちょっと考え事」
「ふーん…」
「明日、テストだね」
「そうだね」
「今回は白布君のおかげで良い点数が取れそうだよ。ありがとう」


名前はそう言って、にこりと笑みを向ける。すると白布は、ハァ、と大きく溜息を吐いた。その行動の真意が掴めない名前は、今のやり取りで何か不愉快にさせることがあっただろうかと不安を募らせる。


「名字って頭悪いよね」
「え?まあ…うん……そうだね…」
「俺、人に教えるのってあんまり好きじゃない」
「そうなの…?」
「勉強も1人でやりたいタイプだから、今まで自習スペースなんて使ったことないし」
「え、じゃあ…なんで……」
「なんでだと思う?」


白布が言っていることが本当だとしたら、この1週間の言動は矛盾だらけだ。そもそも自習スペースに来た時点で、白布の考えに反している。なんで、ときかれても名前に答えが分かるはずもなく。押し黙っている名前を見た白布は、また大きく溜息を吐くと、握っていたシャーペンを置き名前の方に身体を向けた。


「答え分かんないの?」
「……うん」
「やっぱり頭悪い」
「ごめん…」
「馬鹿な好きな子に勉強教えるため」


正面から名前を見据える白布の瞳は真剣で、冗談を言っているとはとても思えない。名前は信じられない展開に、はくはくと口を動かすものの何も言うことができなかった。まさか、白布が、自分のような人間を好きだなんて思わないじゃないか。
自分も好意を寄せている。そのことをどう伝えようかと名前が悩んでいると、白布が再び口を開いた。その表情は、ほんの少し楽しそうだ。


「明日のテスト、自信ある?」
「え?あ、今までよりは…?」
「俺より良い点数取れる教科ある?」
「それは……ない、かな…」
「どの教科でも良いから俺より良い点数取って」
「無理無理!」
「もしひとつでも俺より良い点数だったら、ちゃんと告白してあげる」


白布はきっと、自分の気持ちに気付いている。そうでなければ、今のようなことは言えないだろう。名前は迷いながらも、微かに首を縦に振った。白布はそれを満足そうに確認すると、名前にゆっくり近付いて


「俺が教えたんだから、頼むね」


と、耳元で囁いた。
一瞬心臓が止まったかもしれない。そんな風に考えてしまうほどドキドキしている名前を尻目に、白布は何食わぬ顔で勉強を再開している。
こうなったら、何が何でも良い点数を取らなければならない。名前はその日、かつてないほどの集中力で勉強に励んだのだった。


◇ ◇ ◇



全教科のテストが終了し、解答用紙の返却も終わった。名前は自分のテストの結果があまりにも良すぎて信じられなかった。何度も自分のものか確認したほどだ。これなら、もしかしたら白布よりも良い点数を取れた教科があるかもしれない。
名前は意を決して窓際の席に座る白布に近付くと、自分の解答用紙を全て机の上に広げた。突然の出来事に少し驚いていた白布だったが、解答用紙を見て、意図を理解する。


「入学してから今までで、どれも最高得点だったよ」
「ふーん。良かったね」
「……白布君より良い点数の教科、ある?」
「………、ない」


全ての解答用紙の点数を見た白布は、はっきりとそう告げた。あんなに頑張ったのに、まだ届かないのか。名前は自分の頭の悪さに落ち込みつつ、白布に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。告白してもらえないことが残念という気持ちは確かにあるけれど、それ以上に、折角白布が時間を割いて教えてくれたのに期待に応えられなかったことが、何より悔しかったのだ。
俯く名前を、白布は下から覗き込む。そして何を思ったか、やや乱暴に前髪払いのけると、その額に触れるだけのキスを落としたのだった。


「白布、くん…、」
「頑張ってたのは知ってるから、ご褒美」
「でも私、白布君より良い点数の教科、1個もなかったよ?」
「うん。だから告白はまた今度ね」
「え?」
「次のテスト、期待しとく」


白布はゆるりと笑いながらそう言って、机の上の解答用紙を集めると名前に手渡した。


「私、頑張るから、」
「うん」
「また勉強、教えて」
「いいよ」
「あの、私、白布君のこと好きかも」
「だろうね」
「次のテストで良い点数とったら、その時は、」
「彼女にしてあげても良いよ?」


悪戯っぽく言われたセリフをきいた名前は、白布の手から解答用紙を受け取ると、自分の席に戻って間違えた問題を復習し始めた。白布の気が変わらない内に、絶対、彼女になってやる。必死に勉強する名前を見て、白布は1人、口元を緩ませるのだった。
努力の甲斐もあってか、その後のテストで、名前はなんと1教科のみ白布より良い点数を取ることができた。大興奮の名前に、白布は一言。


「俺も名字のこと、好きだよ」


名前が待ち侘びていた言葉を、愛おしそうに奏でたのだった。
気持ちは満点ですよ

10000hits記念お礼の白布夢でした。どうやってもキャラを掴みきれず迷走状態。もはや妄想でしかない。