[6] ep.06[Liar] 結局なんの音沙汰もないまま、一日、二日、そしてとうとう五日が過ぎた。 その日もエリスは仕事に来なかった。相変わらず電話も繋がらない。 「なあ、そろそろ治安局に捜索願を出したほうがいいんじゃないか?」 「故意だとしたら罷免モノだぞ」 などと騒ぎ立てる者も増えてきて、局内は一層混乱を極めている。 エリスの代わりは、若いおどおどした青年が務めてくれていた。本来ならば代理は人事部が決めることになっているのだが、アンリが自ら「経験を積ませてやりたいから使わせてくれ」と申し出たのを渋々ながら承諾してもらっている。 その彼が、たった今血相を変えて部屋に飛び込んできた。 「た、たいへんです議長!」 「どうした、そんなにあわてて?」 「アンリ・フェレールどの。少しお時間よろしいですか?」 続いて現れたのは強面な中年の憲兵だった。局内のざわめきは一層大きくなる。 「今は少し…三時からではだめですか」 「いや、結構ですよ。では三時にまたお伺いします」 そう言って帰っていく男。若い青年は「アンリさん、何かしたんですか?捕まっちゃうんですか?」とわけのわからない心配をしておろおろしていた。 約束の時間丁度に先ほどの憲兵は再び現れた。 「どうも。今なら大丈夫そうですか?」 「ああ、今行く」 クロークを脱いでジャケットを羽織る。連れてこられたのは東本庁の小会議室だった。二人は対面する形で着席する。 「まず、今回の事はお気の毒さまでした」 「今回の事?」 首をかしげるアンリに憲兵は驚いた様子で「ああ、知らなかったんですね」とこぼす。 「今朝、法制局東八区の、エリス・キャンベル氏が自宅で亡くなっているのが見つかりました」 机の上で手を組んで、まっすぐアンリを見つめたまま淡々と述べる姿はまるでアナウンサーのようで、告げられたその事実を現実の物として受け入れる事は容易ではなかった。 「数日前から、本庁人事の方に催告がなされていたようですね」 「ああ……それで、死因は──」 「急性アルコール中毒だったそうです。」 ふと異和感に気づき眉をひそめる。その様子に気付いたのか否か、憲兵は内情に踏み込むように軽く身を乗り出した。 「それで、音信不通になる前日の夜、一緒に飲みに行かれたというあなたに、少し話をお伺いしようと」 「私を疑っていると?」 「いいえ、事故は事故です。あなたは特にキャンベル氏と親しくしていたようですから。状況によっては自殺の線も探ってみなければなりませんので」 彼は自分を疑っている。アンリは直感でそう感じた。人を暴露するようなその鋭い視線はしっかりとアンリを捉えている。 「分かりました。全て話しましょう」 アンリはゆっくりと、記憶を手繰るフリをして言葉を選びながら、当時の事を話し始めた。自分たちがロジックだということを決して知られてはならないから。 [mokuji] [しおりを挟む] Copyright (C) 2015 あじさい色の創作ばこ All Rights Reserved. |