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ep.06[Liar]

「それは、判事としての見識か、それとも俺個人の?」
「どちらでもいい。できれば個人的な感想が聞きたいが、体裁としての逃げ道は大事だろう」

 それを聞いたアンリは口元に僅かな笑みを浮かべた。椅子に深く腰掛けて完全に受け身体制だったのを改め、机に乗り出すようにして交渉人の前傾姿勢を取る。

「私──は今の政府を良しとは思わない。独裁が完全悪とは言えないが、能力者だというだけで規制するのは人権規約を根本から否定することに他ならない」
「それは個人としての意見?」
「ご想像におまかせする」

 クロード、エリス、リトの三人はアンリを──イルという名の男をただ黙って見つめる。

「そもそも、人権規約の一部をこの国は批准して──そうか、いや、何でもない」

 途中まで言いかけてクロードは笑いながら頭を振った。エリスもその意図に気づいたようで納得したように小さく頷いた。一人理解が追いつかないリトは「どういうこと?」と顔に『ハテナマーク』をうかべながら目をぱちくりさせている。

「彼がそんな一般教養を知らないはずがない──ってことでしょう?」

 アンリは満足そうに椅子に深く座り直した。

「それで?俺の本心を尋ねるということは何らかの協力を求めているのか?正直眠いので早く帰りたいのだが」
「ああすみません、すぐ終わります!つまりは私達、ロジックに協力してほしいのです」
「ロジック……」

 ロジックは東を拠点に活動する能力者組織。──といえど、ロジックには能力を持たない一般の者や俗にセミノーマルと呼ばれる者も所属していることは今や広く浸透している。

「皇族政府へのクーデターでも企てているのか?法制局だからという理由で協力を仰ぐつもりなら俺は協力はしない」
「まさか。君のその能力を買っているんだ。ついでにいうと、君に研究への協力を持ちかけていたのも君の本心を確かめたかったからで、頑なに拒み続けるところを見て僕はエリスに君をここに連れてくるようお願いしたんだ」
「まて、ちょっと待て」

 アンリは手を降って制止し唖然として尋ねる。

「じゃああれは何だったんだ!?こちとらお前のとこの研究員に拉致されそうになったというのに…!」
「拉致未遂だって?上は本気ということか……」

 クロードは表情を曇らせる。僕はそのつもりはないんだけど、と独り言のように呟いて渋い顔でエリスを見る。目線を受け取ったエリスも真剣な表情でこれは急いだほうが良さそうだと相槌を打った。

「猶予はあと二年しかない。二年後の冬までに態勢を整えないといけないのに」
「パパ、今日のことユウナに教えた方がいい?」
「もう少し様子を見よう。今はイノセンスの動向が気になる。彼らの働きかけが吉と出るか凶と出るか……」

 二年後の冬。他のところでもそんなことを聞いたような気がする。なぜそんなに二年にこだわるのか、今のアンリはさして気にも留めなかったしワケを知る由もなかった。



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