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01


凍った空気に、降りしきる粉雪。あたり一面真っ白な雪に覆われた、北の国。そのとある地には、古い時代の町並みがそのまま残っていた。北の国で朽ちることなく残っているのは珍しい。しかしそこに人々は住んでおらず、寂しい町並みがあるのみ。
その街並みの奥には、大きな城が聳え立っていた。町並みは古いが、城はそこそこ新しい作りをしている。

人が寄り付かず、奇妙な噂のあるこの地を、人々は『眠れるの古都』と呼んだ。
さらに、この町に聳え立つ城を『眠れるの城』と囁き、古い魔女が住み着いていると噂された。



● 〇 ●



「こんにちわ。様子を見に来ました」


結界を張られた町や城をものともせず、我がもの顔で現れたのは、赤髪が印象的な男――ミスラだった。
ミスラは勝手に、城の主であるターリアの自室に空間を繋げ、無遠慮に足を踏み入れる。いつものことで気にはしていないものの、繋げられた空間の向こうは吹雪だ。冷たい空気が部屋に入り込む。


「寒いわ。扉を閉めてちょうだい、ミスラ」
「ああ、すみません」


ベッドから上半身を起こして言い放てば、ミスラは素直に空間を閉じた。再びベッドに身体を預けると、ミスラはベッドの隅に腰を下ろしてターリアを覗き込んだ。


「大丈夫ですか」
「あら、心配してきてくれたの、ミスラ」
「はぁ、まあ」


悪戯っぽく笑って聞き返せば、曖昧にミスラは頷く。それにまた笑みんだ後、ターリアはふぅ、と深呼吸をするように息を整えた。

ターリアは現在療養していた。
賢者の魔法使いとして数年前に選ばれたターリアは、つい先日、仲間と共に<大いなる厄災>を撃退した。今年の<大いなる厄災>の力は凄まじく、10人もの仲間を失った。ターリアはその奮闘の結果、深手を負い、マナエリアでの魔力回復のために一時的に療養生活を送っていたのだ。

そんなターリアの様子を見て、ミスラはさらに顔をのぞかせた。


「あなたも死ぬんですか」


じっと、お互いを見つめ合う。エメラルド色の瞳と黒水晶のような瞳が交差した。相手を見極めるように見つめられた瞳を最初に崩したのはターリアだった。


「なあに、早く石になって欲しいとでもいうの」
「いえ。あなたにまで死なれるのは、少し、困るので」


すこし揶揄うように言ってやると、ミスラはうーんと考えながら違うと首を横に振った。「それに、他の魔法使いたちを守って石になるなんて死に方はやめてください。だったら俺が殺してします」強気に言うミスラに、クスリと笑みながら「・・・・・・そうね」としっかりと頷いた。


「まだまだ世話のかかる子たちがたくさんいるからね。まだ死ぬわけにはいかないわ」


目を離せない子がたくさんいる。まだまだ心配な子たちがたくさんいる。だからまだ死ぬ気はないと言えば、満足そうに微笑んだ。


「そうですよ。まだ俺の世話を焼いてください」
「ふふ、もう」


吹雪が吹き付ける窓の音も気にせず、室内には温かい、穏やかな空気が流れていた。