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他愛ない日々の中の特別



いつも通りに少し退屈を覚えながら過ごしていると、ふと周りが少々騒がしいことに気づいた。シルバーやセベクはいつも以上に忙しなく働いており、すぐにどこかへ行って姿をくらますマレウスも珍しく居る。何か用事でもあっただろうかと、忙しくしている2人を引き留めるのは気が引け、魁はマレウスに尋ねた。


「なあ、なんだか今日は忙しいが、なにか用事でもあるのかえ?」


ソファに腰を掛けたマレウスに尋ねれば、マレウスは少し驚いた様子でじっと見つめた後「ああ」と続けた。


「明日がリリアの誕生日だからな。その準備をしている」

「おお、そうだったか!」


マレウスに言われ、魁は思い出したかのように声を上げる。そういえばもう1年が終わり、新しい年が始まる時期だったか。退屈な日々もあっという間に過ぎ去るが、楽しい日々はもっと早く過ぎ去るように感じる。

しみじみと感じ入る魁を見て「僕が言うのもなんだが、リリアも魁も自分の生誕に関しては無頓着だな」と零した。2人ともマレウスやシルバーそしてセベクの誕生日はしっかりと覚えており盛大にお祝いをするというのに、自分たちのことになると無頓着になる。


「長年生きていると無頓着にもなるさ、生きた年数を数えているようなものだしなあ。それに、リリアもわっちも実際に誕生した日なのか定かではない」


学園に入学する際にそう書いたとリリアも言っていたし、実際がどうなのか自分すらも分からない。それぐらい遠い昔なのだ。「しかし・・・・・・」魁は煙管を手に携え、一息つく。「祝ってくれる者がいるというのは、嬉しいものだ」フッと笑みを浮かべた魁を、マレウスは横から眺めた。



* * *



「おめでとうございます、親父殿」

「おめでとうございます! リリア様!!」

「うむ! やはり祝われるというのは嬉しいのう」


リリア誕生日当日。それはそれは盛大にお祝いがなされた。ディアソムニア寮談話室は品格を落とさぬ程度に飾り付けられ、テーブルには誕生日ケーキなどご馳走が並べられた。小さい頃から見てきたシルバーやセベクやマレウスに祝われ、寮生たちからも祝いの言葉をもらったリリアはとても嬉しそうに笑っていた。

その様子を隅で眺めていると、それを見つけたリリアと目が合った。リリアはニコニコと満面の笑みを浮かべながら寄ってくる。


「誕生日おめでとう、リリア。また1年重ねたな」

「うむ! 1年とは早いものじゃ。して、おぬしからのプレゼントはまだ貰っておらぬのだが」

「ふむ・・・・・・実は昨日気づいてた。残念だが用意していない」

「なんと! 薄情なヤツめ」


リリアは分かりやすく肩を落として落ち込んだ。その様子に魁はフッと笑う。「人のこと言えんだろうに」そう言うと「まあ、そうじゃの。わしらほどになると無頓着にならざるをえない」とリリアは言う。長く生きた2人だからこそ、言えた言葉であり、深みがあった。


「まあ良い。祝いの言葉は貰ったからのう。それだけで十分じゃ」

「・・・・・・そうか」


嬉しそうに笑みを浮かべるリリアに釣られ、魁も柔らかい笑みを浮かべた。



* * *



リリアの誕生日会は1日中続き、楽しく騒がしい日となった。当人のリリアも盛大に喜んでいたことで、準備を張り切っていたシルバーやセベクはとくに嬉しかっただろう。落ち着きを取り戻したのはその日が終わるころだった。夜型のリリアはまだ起きているだろう。

魁はまだ日付が変わる前の夜、リリアの部屋を訪ねた。ノックをすればリリアはすぐに出てきて、魁を見るなり不思議そうに首を傾げた。


「やあリリア、わっちからの贈り物だ」


魁はそう言って、片手に携えた酒瓶を掲げて見せた。

リリアを連れ、魁たちは寮を出て外へと出た。今夜は運が良いことに満月だ。月見酒をするのにちょうどいい。2人は学園校舎の屋根に上り、腰を下ろして器に酒を注いだ。此処に居るのは、長い時を生きた2人だけ。


「まさかおぬしからのプレゼントがコレとは・・・・・・『プレゼントはわ・た・し』とかいうやつか?」

「そんなわけあるか。2人で月見酒をしてるだけだろ」

「そんなわけあるじゃろ。こうしておぬしと過ごす時間を貰っておるのだからな」


上機嫌に笑うリリアを横目に、酒を飲む。用意したのは東洋の酒だ。こちらの酒は味が濃く魁はあまり好みではない。リリアも東洋の酒は飲みやすく美味いと評価していたので、魁のお気に入りの逸品を用意した。リリアも美味しそうに飲んでいる。


「わっちからの贈り物は、変わらぬ日々だ」


ぽつりと、魁は零した。


「わっちらにとっては、ありきたりで他愛ない日々が何よりの幸せだ。この楽しい日々が、何よりの贈り物だ。だからわっちはいつも通りの時間を贈る。そこにほんの少しの特別を添えてな」


目を丸くしたリリアは、杯を掲げニッと笑みを向ける魁を見つめた。

特別な何かが欲しいわけではない。長く生きたからこそ、平和で、ありきたりで、他愛ない日々が何よりも愛おしく、何よりも幸福なのだ。2人で夜に酒を交わしたことは何度もある。2人で昔話に花を咲かせたこともある。そんなありきたりで他愛ない、しかしそこにほんの少しだけ添えられた特別に、変わらぬ幸福を感じた。


「・・・・・・そうじゃの。おぬしに出会えてよかった、魁」

「わっちもだ。お主に出会えたのが、わっちの転機となった。生まれてきてくれてありがとう、リリア」

「・・・・・・うむ。最高の贈り物に感謝する、魁」


――どうかこの変わらぬ日々が、長く続きますように。