戯れるように愛をささやく



「よし、こんなもんか」

「うん、なかなかいい出来ですね」

「めっちゃマジカメ映えじゃん! 写メ撮って良い?」


ハーツラビュル寮のキッチンで、アリステアとトレイそしてケイトが1つの皿にのるホールケーキを覗き込んでいた。よくできたそれにトレイやアリステアは満足感を味わい、ケイトはスマホのカメラでそれを撮っては早々にマジカメにアップした。


「お、すげぇ良い匂いじゃん」

「エース! 勝手に・・・・・・!」


すると、たまたまキッチンのそばを通りかかったエースとデュースが香ってくるそれに気づき、キッチンを覗き込んだ。「はは、早速嗅ぎつけてきたな?」そんな2人にトレイは笑って向かい入れる。「なに作ってんすか?」と聞いてくるエースに「今度のなんでもないパーティ用の新作ケーキを作ってたんだよ」とアリステアが応える。

「恒例のトレイくんとアリステアちゃんの新作考案会だね」マジカメにアップし終えたケイトが新入生の2人に付け加えて教える。「クローバー先輩とリーン先輩が毎年作ってるんですか?」デュースがそう聞けば「俺んちはケーキ屋で、アリステアの実家はカフェなんだ」とトレイが頷きながら答える。「店に出す新作とかにも役立つから、必然的に僕たちが請け負ってるんだよ」ね、とアリステアはトレイに同意を求めた。


「エースとデュースも試食してく?」

「やった! いただきまーす!」

「いただきます!」


2人を試食に誘えば、嬉しそうに頷いて上機嫌になる。可愛い後輩を持つのは良いことだ。出来上がった新作ケーキを取り皿に分けようとしていると、今度は「おや。キミたち、みんなで集まって何をしてるんだい?」とリドルがやってきた。


「新作のケーキを作ったから、みんなで試食してるところだ。リドルもどうだ?」

「なるほど。なら、ボクもいただくよ」


「ケイト先輩もどうぞ。今回はわりと甘さ控えめですよ」ケーキを切り分け、1人1人に配る。「ホント? じゃあ貰おっかな〜!」甘いものが苦手なケイトも、アリステアのそれを聞くと喜んでケーキを受け取った。

最後に作った本人であるトレイとアリステアがケーキを受け取り、みんなで一斉にケーキを口に含んだ。


「ウンマッ! 何皿も行けそ〜!」

「これは、美味い! とくにクリーム層の舌触りがまろやかだ」

「うん、とても美味しいね。流石だね、トレイ、アリステア」

「美味し〜! これなら俺でも食べれそう!」


4人はそれぞれケーキの感想を述べる。4人の反応から、このケーキは大好評らしい。「はは、それはどうも」「作り甲斐があるねぇ」嬉しそうにケーキを頬張る4人を見て、トレイとアリステアも嬉しそうに笑った。

「にしても、ここ最近では一番の出来じゃないか? 店の新作案に入れとくか」一口ケーキを食べ、トレイはそれを見詰めながらそんなことをつぶやく。「確かに、そうですね。うちの店で出すにも丁度いい甘さだし、僕もリストに入れとこ」アリステアのカフェは年配の方が多いから、甘さ控えめは好評なのだ。

ケーキを食べながら雑談をしばらくしていると、ふとアリステアが壁にかかった時計に目を向けた。


「・・・・・・あ、もうこんな時間。僕、そろそろ行かないと」ちょうどケーキを食べ終え、流し台にお皿を置く。「何か用事があったのか?」そんなことを聞いていなかったトレイが聞き返す。


「うん? ああ、ラブレター貰ったんだ」

「「「「「は?」」」」」


ふふ、と笑ってなんでもないように言うアリステアの言葉に、全員が口をそろえた。目を丸くし、ポカンと大口を開ける。
「そろそろ呼び出し時間なんだ」そんな彼らを気にせずお皿を洗い、後片付けをする。それらを終えると「それじゃあ、またあとでね」と言って、そそくさとキッチンを後にした。

アリステアのいなくなったキッチンで、トレイのため息が響いた。


「・・・・・・はあ、またか」

「うーん、アリステアちゃんを好きになっちゃう気持ちもわかるけど・・・・・・」

「同寮としてアリステアを知っている分、相手が可哀想になるね」


エースとデュースに至っては3人の言葉の意味も分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべる。「ボクの寮で不純な交際など許さない。全員でアリステアのもとへ行くよ」リドルはそう言って4人に指示をする。「相手が逆上して暴行する可能性もあるしね」とケイトが付け足し、とりあえず5人はアリステアの後を追うことになった。



* * *



アリステアの後を追った5人は、学園の目立たない場所へたどり着いた。物陰に隠れ、アリステアとラブレターの差出人を伺う。「人の告白現場を覗き見なんて・・・・・・」デュースに至っては居た堪れなく思っていたが、エースに至っては「いいじゃん別に。先輩たちもいるんだし」とノリノリで覗き見をしていた。


「そういや、アリステア先輩って、そんな頻繁に告白とかされるんですか? 此処男子校なのに」

「あー、うん、まあ・・・・・・」


3人の言い方から、この状況が何度かあることは予想がついていた。エースがそう聞くと、ケイトは歯切れ悪くうなずいた。

「2人はアリステアちゃんがどうして寮長でも副寮長でもないのに1人部屋なのか知ってる?」ケイトは突然、エースとデュースにそう聞いた。基本的に、寮長と副寮長は1人部屋だが、他の寮生たちは同室だ。しかし、脱落者のいない人数の多いハーツラビュル寮の1人であるというのに、アリステアだけは1人部屋だった。「アリステアと同室になった寮生は、しばらくすると部屋を変えさせてくれと頼みこんでくるんだ」続けてトレイがそう言うと、2人は首を傾げた。


「・・・・・・? どうしてですか?」

「なんでも、自分の理性が持たないんだと」

「「え」」


思ってもみなかった言葉に、2人はそろって声を上げた。固まった2人に、ケイトが軽い調子で続ける。「・・・・・・とまあ、アリステアちゃんて童顔で顔結構可愛いじゃん? そのうえ何でも受け入れちゃうタイプだから、男子校ってのもあってそっちに走っちゃう子が多いんだよね〜」ハハ、と笑いながらケイトは言うが、リドルやトレイの様子を見る限り、笑い事ではないぐらいそれが多いらしい。

すると、視界の隅でアリステアたちが動き出したのが見えた。話はそこまでにして、5人は黙って彼らを除き見る。


「好きです、付き合ってください!」とラブレターの差出人は、顔を真っ赤にして一世一代の告白を成し遂げる。そんな彼にアリステアは「ありがとう。でも僕は君のこと、好きでも嫌いでもないんだよね」と愛想の良い笑顔で答えた。その言葉で相手はがっかりとするが、アリステアはニコリと笑って提案を出す。


「たぶん僕は君のことを好きにならない。それでもいいなら、2ヶ月くらい付き合ってみる?」


いわゆるお試しということ。それを聞き、相手は嬉しそうに笑顔になって「是非!」とその提案を受けようとした。しかし、それは邪魔が入ったことで打ち消されることになる。


「はーい。ちょ〜っとごめんね〜」

「悪いな」


アリステアの背後から割り込んできたのは、ケイトとトレイ。2人は笑顔を浮かべて相手を見た。相手はそれを見て、顔を真っ青に変貌させる。相手が笑顔を浮かべた2人に連れ去られていくと、今度はリドルやエースやデュースまで姿を現す。


「あれ、みんな揃って此処に居るなんて。覗き見が趣味かい?」


クスクスと笑いながらアリステアは言う。

「アリステア・・・・・・いつも言っているだろう。真剣に交際するつもりがないならはっきり断るべきだ」目を吊り上げていつものお説教をするリドルに、アリステアはやれやれとした表情を浮かべる。「だから断っているじゃないか。それでも相手が僕と付き合いたいっていうんだよ。僕は短期間なら別に構わないし、お互い損がなくていいんじゃない?」自分は何も悪くないというアリステアに、リドルはまたしても目を吊り上げお説教を続ける。毎回コレの繰り返しだ。少し面倒そうにしながら、2人は言い合いを続ける。

そんな2人をはたから見ていたエースとデュースは、お互い目を合わせた。


「・・・・・・なんか、意外だったな・・・・・・」

「僕には予想外すぎて言葉が出ない・・・・・・」


思わぬアリステアの恋愛事情を知ってしまい、2人はアリステアの印象を改めた一件であった。