脈柄のない遊戯



※サバナクロー寮男主登場



「マジフト部に入部?」

「はいっ!」


目の前のエペルは期待に満ちた瞳をキラキラとさせて頷いた。

談話室で暇な時間をダラダラ過ごしていたところ、通りかかったエペルを見つけた。声をかけてみれば、入部届をもっていて、今からそれを持っていくのだという。それを手に取り見てみると、そこにはマジフト部と書かれていた。


「マジフト部は基本、筋肉隆々のサバナクローで構成されているが」

「はい、知ってます!」


マジフト部は大々的な大会もある、人気のあるスポーツだ。この学園でもそれは行われ、毎年サバナクロー寮が優勝している。ゆえに、この部活のほとんどがサバナクロー寮生で構成されていた。

「ヴィルは・・・・・・って、流石に個人の部活動まで煩く言わないか」ポムフィオーレ寮は美意識が高すぎて煩い。大会では化粧直しにタイムを取るほどだ。エペルに何かと目を光らせているヴィルが何か言うかもしれないと思ったが、流石に部活動まで個人の自由を縛りはしないだろう。


「ぼ、僕がマジフト部に入るのに問題が・・・・・・?」


雅の言葉にドキリとしたエペルは、不安そうな顔をして雅の顔を伺った。そんなエペルを横目に、雅は談話室の時計を確認する。


「そろそろ部活勧誘時間か。ほら、さっさと運動着に着替えてこい」


「俺の気が変わらないうちに早くしろ」入部届を返し、ソファに身体を沈め、煙管に口をつける。「え? あの・・・・・・」エペルは意図が察せず、首を傾げた。「言っただろ。ガタイの良い奴ばっかでなおかつサバナクロー寮生で構成されてるんだ」雅はそう言って、煙を吐き出す。


「お前ひとりで言っても追い返されそうだからなぁ、俺が付き合ってやる」



* * *



運動着に着替えたエペルと共に、マジフト部が使っているコロシアムに向かった。新入部員の1年生がずらりと集まっており、そのほとんどがサバナクロー寮生か、ガタイの良い如何にも運動神経の良さそうな生徒が集まっていた。

エペルをそんな輪の中へと送り出し、雅は端の方で煙管を吹きながら様子を眺めていた。


「えっと、エペルくん? でしたっけ?」

「はい!」


案の定、エペルを見て部員たちは固まった。新入部員に対して動いていたのは部長のレオナとラギーで、2人はエペルを見るなり目を丸くした。そんなことも気にせず、エペルは期待に満ちた眼差しを向けている。


「此処、マジフト部なんスけど・・・・・・間違えてたりなんかしてないッスか?」

「・・・・・・? マジフト部の入部に来ましたけど」

「えっ!? えっとー、結構泥だらけになったり汗だくになったりするッスけど・・・・・・」

「はい、全然大丈夫です!」


ポムフィオーレ寮生は泥だらけになったり汗でまみれるなんて言語道断という奴らの集まりだ。それに加え、エペルは儚げな美少年のような顔立ちをしている。実際中身は違くとも、初対面ではそう思ってしまっても仕方がない。

「ポムフィオーレのヒト入っても平気なんスか」ラギーはヒソヒソと隣のレオナに耳打ちをする。「俺が知るかよ」面倒そうにしながら、レオナは素気なく応える。そして視界の端に入った雅をレオナは見つけた。


「おい、雅!」


レオナはエペルと同じ寮である雅を呼び出した。こうなることを予想していた雅は、面倒そうにしながら煙管を吹いてレオナたちの所へ足を進める。


「フゥ・・・・・・俺に用か?」

「お前、こいつの付き添いだろ。入部させていいのか? ヴィルに煩く言われんのはご免だぞ」

「ヴィルも部活動まで口は挟まん。怪我をしても、怒られんのはエペルだけだろ」


雅の言葉を聞いて、エペルは「えっ!?」と凄く嫌そうな顔をして肩を落とした。


「ポムフィオーレにしては珍しい人材でな。なんでも筋肉隆々な男に憧れ、サバナクロー寮に入りたかったそうだ」

「へ、へぇ〜・・・・・・い、意外ッスね・・・・・・」


口には出さなかったが、ラギーはこんなに綺麗で可愛い顔立ちをしているのに、と言いたかったのだろう。エペルは見た目だけは儚げな美少年なのだから。

「部活動は個人の自由だ。問題がないなら入れてやれ」雅は後押しをするようにレオナに言う。レオナはため息をついたのち、ガシガシと頭を掻いて「ここは実力主義だ。ついて来れねぇなら置いてくからな」とエペルにくぎを刺す。エペルは「はい!」とはっきりと大きな声で返事をし、なんとか入部ができそうだった。


「あの、ありがとうごさいます。雅サン」


後押しをしてくれたことに、エペルは嬉しそうにお礼を告げ、頭を下げた。エペルにとってポムフィオーレ寮生たちは理解できない人たちばかりの集まりだったが、雅だけは違っていて、エペルの雅に対する信用は増々上がっていった。


「ていうか、雅さんも部活動あんでしょ。そっちはいいんスか?」

「あ。そういえば・・・・・・」

「勧誘なんて面倒だ。俺が行かなくても、あとは2人が・・・・・・」

「おぉ〜! 雅ではないか〜っ!」


すると突然、能天気な声が降ってきた。「数日ぶりじゃのう〜!」声の主はそう言って、気安く雅の背後から首に腕をまわして飛び乗り、スリスリと頬に擦り寄った。「・・・・・・貴様、巴。背中に勢いよく飛びかかるな」雅は目を向けずにうんざりとしたように言う。「おお、これはすまんのう」巴はそれを気にした様子もなく、そそくさと身体を離した。

「ちょ、巴さんまでなんでいるですか」巴の姿を見たラギーは目を丸くし、耳をピンと立てた。「お前、部活に行ったんじゃねぇのかよ」続けてレオナがそう言うと「いやぁ、遠くから雅が見えたのでなあ。途中で引き返してきたのじゃ」とのんきに巴は言いやる。


「ところでおぬし、なぜマジフト部におるんじゃ? おぬしは妾と同じ部活じゃろう」

「俺はそこの付き添いだ」


雅はエペルを指さして言った。その指先をたどり、巴もエペルを見やる。「おお、可愛い子じゃのう! ポムフィオーレの新入生かえ?」ニコニコと巴がそう言うと「か、かわ・・・・・・っ!」とエペルは凄く嫌そうな顔をする。そんなエペルを見て「お世辞でもかっこいいと言ってやれ」と雅は告げる。


「ここにおるということは、おまえさんも入部が決まっておるのか・・・・・・このままでは、また妾らの部活動は新入部員が来ずに終わりそうじゃ」

「別にいいだろ。ただのお遊びだしな」

「というか、興味があっても入れないっていうかー・・・・・・」

「あんなトコに入る物好きはそうそういねぇだろ」


ラギーとレオナは酷い言い草を言う、と巴はシクシクと泣いたふりをした。実際、あの空間を見た者は、よほどの物好きでなければ入りたがらないだろう。者が乱雑におかれ、何かもわからないモノが無残に放置された、異質な場所だ。

「雅サンは、なんの部活に入ってるんですか?」それを知らないエペルは、雅を見上げて問いかけた。「フゥ・・・・・・極東魔術同好会」煙管を吹いて教えてやれば「きょく・・・・・・え?」とエペルは聞きなれず、聞き返した。

「極東魔術同好会じゃ。部員は妾と雅、あともう1人魁というやつがおる。部活内容は・・・・・・あー、なんじゃろう?」代わりに巴が応え、部活についておしえようとしたが、その内容に行き詰まり、雅に助けを求める。「表向きはアジアの魔術研究、実際は俺らの溜まり場だな」雅ははっきりと正直に言った。


「まあ、部活勧誘は魁に任せるかのう」

「言ったのか? 部活勧誘を任せるって」

「あー、うぅー・・・・・・言ってないのう・・・・・・」

「部室には誰もいないだろうな」

「さすが、『アジアン問題児』って呼ばれるだけあるッスわ」


はは、と雅と巴の様子を見てラギーが言う。『アジアン問題児』という単語に疑問を持ちながら、エペルは雅と巴を交代に見詰めた。


「んじゃ、そろそろ部活動はじめますか」


ラギーの合図で、部活が開始される。一度エペルは雅に振り返った。雅は煙管を咥えながら行けというように顎を突き出す。それを見て、エペルは頷いて部活動に参加していった。

エペルの付き添い件保護者の雅は、コロシアムの部活動の邪魔にならない場所へ移動し、観客席に座った。それについてきた巴も、その隣に腰を掛ける。


「随分あの子に懐かれておるではないか。面倒くさがりのお主が珍しい・・・・・・どういう風の吹きまわしじゃ?」


巴は珍しいことをする雅に、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら問いかけた。雅はそちらに一切視線を向けることなく、煙管を吹く。


「・・・・・・なに、ただの暇つぶしだ」