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029


オクタヴィネル寮の一件以来、ジェイドやフロイドそしてアズールからも懐かれるようになった。


「あっ、小エビちゃ〜ん!!」
「うわっ!! フロイド先輩」


学園内のどこでも姿を見つけるとフロイドはこうして勢いよく抱き着いてくる。高身長の大きな体で容赦なく抱き着いてくるため、毎回夜月は倒れそうになる。しかし実際は倒れそうになるたびフロイドに支えられ抱きしめられるため、転んだことはない。


「フロイド、そんなに勢いよく抱き着いてはヨヅキさんが怪我をしてしまいますよ」
「あ、ジェイド先輩」
「こんにちわ、ヨヅキさん」


フロイドがいると基本的にジェイドもあとからやってくる。ニコリと笑みを浮かべ、礼儀良くあいさつを交わす。背後からはフロイド。前方からはジェイド。最近はよくこうして挟まれることが多い。どうやらあの一件以来2人に気に入られてしまったみたいで、ことわるごとに2人は夜月のもとにやってきた。

それはフロイドやジェイドに限ったことではない。

その日はたまたまトレイン先生にノートの回収と提出を任されていた。1人じゃ大変だから誰かに手伝ってもらうようにと言伝をもらい、エースやデュースに頼もうとしたが2人はそれぞれ外せない用事があって頼むことができなかった。山積みのノートを仕方なく1人で持って職員室を目指す。


「おや、こんにちわヨヅキさん」
「こんにちわ、アズール先輩」


ちょうど廊下の曲がり角からアズールが姿を現し、夜月に微笑みかける。夜月も同じように朗笑した。「重そうですね、半分お持ちしますよ」両手に持った大量のノートを見て、アズールは半分のノートを夜月から掬った。「ありがとうございます」重さが半減され、素直にお礼を告げた。「これは魔法史のノートですね」手に持ったノートを見下ろしした。「はい、集めて持ってくるよう頼まれたんです」頷いた夜月に「それでは、職員室まで急ぎましょうか」と言い、2人並んで廊下を歩き始める。

アズールと夜月は歩きながら他愛のない話を繰り返した。最近あった出来事、今日の授業でのことなど。なんの利益にもならないくだらない話だが、楽しそうに話す夜月を見てアズールは顔をほころばせていた。


「そういえば、『モストロ・ラウンジ』の新メニューを考案したんです」
「新しいメニューですか?」
「はい。まだ考案途中なので、是非試食をなさってくれませんか?」


「もちろん、お代は要りません」アズールの提案に夜月は喜んで頷いた。『モストロ・ラウンジ』のメニューはどれも美味しい。それをタダで試食させてくれるなんて、夜月には嬉しくてたまらないものだった。


「それじゃあ今度、お邪魔しま――っわ!?」
「ッ! 危ないっ!!」


つい嬉しくて浮かれていたら足を躓いてしまった。身体を傾けた夜月を咄嗟に庇おうと、アズールが腕を伸ばした。バサッと手に持ったノートは床に落ちて散らばる。なんとか夜月は咄嗟に伸ばしたアズールの腕を支えに転ぶことは免れた。


「ご、ごめんなさい!」
「まったく。気を付けな・・・・・・さ・・・・・・」


やれやれとしたアズールの表情が固まる。アズールは困惑していた。咄嗟に伸ばした腕で夜月を転ばせずに済んだことは良かった。だが触りどころが悪かった。いや、本来ならそんなに気にする必要もない。だって何もないのだから。だというのに、おかしい。手袋越しから、制服越しから柔らかい感触が伝わる。これは、どういうことだ。アズールは混乱し、徐々に体温を上昇させ顔を赤く染め上げた。

「あの、アズール先輩?」硬直したアズールを不思議に思い、夜月は覗き込んだ。「い、いえ! これからは気を付けてくださいね」ハッとなったアズールは夜月の体勢を元に戻し、取りつくように目をそらして眼鏡を指で押し上げた。


「あれ〜? 小エビちゃんとアズールじゃん」
「偶然ですね、どうかしましたか?」


偶然廊下を通りかけたジェイドとフロイドが2人を見つけて近寄ってきた。散らばったノートを見て問いかけたジェイドに事情を説明すると「でしたら、僕たちも手伝いますよ」と笑いかけ床に落ちたノートを拾い集めた。拾い集めたノートはジェイドとフロイドが全部持ち、職員室へ向かおうと足を踏み出す。「アズールは行かないの?」硬直したままのアズールにフロイドが呼ぶ。「も、勿論。僕も行きますよ」アズールはすぐに答え、4人は一緒になって職員室に向かった。

ノートを無事提出して、ジェイドやフロイドそしてアズールに手伝ってもらったお礼を言う。いまだにアズールは挙動不審だった。「それじゃあ後日、『モストロ・ラウンジ』にお邪魔しますね」夜月が言う。「え、ええ」詰まりながらアズールが答える。「はい、お待ちしております」ニコリと愛想よくジェイドが笑いかける。「じゃぁねぇ、小エビちゃん」バイバイと手を振るフロイド。夜月は3人に一礼をして、足早にこの場を立ち去った。

夜月の姿が見えなくなってから2人は隣にいるアズールを見下ろした。「んで、なんでアズールは茹ダコみたいに真っ赤なの?」フロイドは耳まで真っ赤にしたアズールに言い放つ。「こ、これは別に・・・・・・」アズールは眼鏡を押し上げて誤魔化そうとする。「ふふ、もしかしてようやくお気づきになられたんですか? 彼女が女性だということに」意地悪な顔をしてクスクスと笑ったジェイドをアズールは目を丸くして見上げた。


「き、気づいていたんですかっ!?」
「ふふ。ええ、勿論。最初から気づてましたとも」
「なんで教えてくれなかったんです!! いつでも伝えられたでしょう!?」
「えー? 普通に気づくじゃん。気づかないのアズールぐらいじゃねぇの?」


まさか2人が最初から気づいていただなんて思ってもみなく、ようやく知った事実に困惑しながらアズールはさらに顔に熱を集めた。「良かったじゃないですか、彼女が女性で」真っ赤なアズールにクスクスと笑みをこぼしながらジェイドが言う。「これで、誰に憚れることなく健全に恋愛ができますよ」ニコリと告げたジェイドにアズールはさらに顔を赤く染め上げ「っ! うるさいですよっ!!」と怒鳴った。ジェイドとフロイドはついに涙目になってしまったアズールを見て楽し気な表情を浮かべた。

アズールは耐えきれずに顔を隠すようにして頭を抱えた。これからどうやって彼女と付き合っていけばいいのか。初心なアズールは混乱する頭で悶々とそんなことを考えていた。