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2限目は魔法史の授業。先生はモーゼズ・トレインといい主に文科系科目を担当している。いつも膝の上に大きな猫をのせている。魔法史の授業はトレインの落ち着いた声も相まって眠気を誘うものがあり、歴史を追う授業であるせいもあって、グリムやエースとデュースは退屈そうだ。
授業が始まった時、一瞬トレインが夜月に視線を向けた気がした。夜月は首を傾げ、その時は授業に専念することにした。

3限目は体力育成の授業。飛行術や体力育成などの主に体育系科目を担当するアシュトン・バルガスは、まさに体育会系の熱血教師という感じだった。少し苦手だ、バルガスは#生徒にまずグラウンド20周や腕立て伏せ100回など凄い量のメニューを言い渡した。しかし夜月にだけ別メニューを言い渡し、運動に自信がない夜月にとっては嬉しいものだった。

どうやら先日クロウリーが言っていたように、教師陣には夜月の素性が伝わっているらしい。魔法が使えないことはもちろん、此処へ来た事情や女であることも知らされているようだ。事情を知っている大人がいるだけで、少しばかり夜月の不安は和らいだ。

その後、思っていたより普通の学校と変わらない退屈な授業にグリムが逃げ出した。初日でサボりなんて、夜月はため息を落とす。グリムを捕まえるためエースとデュースに昼食を奢るという交渉をするはめにもなった。

駄々をこねるグリムを捕まえ、昼休みになって大食堂へと向かう。大食堂でテンプレともいえる不良の先輩にも絡まれ、初日からこれでは先が思いやられる。


「ところでオマエたちの寮は今朝見たけど、他の寮ってどんなのなんだゾ?」
「あぁ、確かに。まだハーツラビュル寮しか見たことないし」
「グレート・セブンの7人に倣って、この学園には7つの寮があるんだよ」


疑問に答えた声に振り向くと、そこには今朝会ったケイトと知らない男子生徒がいた。「げっ! アンタは今朝の!」エースとグリムはケイトを見て自分たちを騙したと指さした。「寮の決まりで仕方なくやってるだけで」ケイトは人聞きが悪いとそういう。「めちゃくちゃ笑顔でしたけど・・・・・・」「まあまあ、デュースちゃん」ケイトはおちゃらけた様子で笑いかける。


「はは、それはケイトの愛情表現だからな」
「つか、隣のアンタは誰?」


エースはケイトの隣にいた人にそういった。彼は「おっと、悪い」と一言と言ってトレイだと名乗った。「トレイ・クローバー。ケイトと同じくハーツラビュルの3年だ」人の好さそうな人だ。


「君はオンボロ・・・・・・ゴホン、使われてなかった寮の監督生に着任した新入生のヨヅキだろう?」


「ケイトから聞いてる」トレイは不審に思われないようにそう付け足した。「はい、よろしくお願いします」夜月は一礼する。「昨日はうちの寮の奴らが迷惑かけて悪かったな」ちゃっかりとエースの隣に座っていた夜月の隣に腰を下ろすトレイ。「いえ、そんな」


「まーまー。せっかくだしみんなで仲よくしよーよ。とりまアドレス交換で〜!」


向かいの席に座っていたグリムとデュースの隣に腰を掛けたケイトはそういって、ポケットからスマホを出した。「あ、すみません。私もってないです」夜月が一言入れると「えっ、スマホ持ってないの!?」とケイトはひどく驚いた。実際には持っているのだが、こちらの世界に来た時に手ぶらだったため今はない。


「最新機種安くしてくれるお店、紹介したげるよ〜。今度スマホ選びデートとかどお?」
「えっ、デー・・・・・・いや、でもそんなお金ないし・・・・・・」
「ケイト。新入生が引いてるから、ほどほどにな」


トレイが助け舟を出してくれて助かる。ごめんごめんと笑った後、話を戻そうと「寮のはなしだっけ?」と口にする。ケイトは気兼ね良く教えてくれるという。けれど他の寮の前に自分の寮を知りたいというエースの要望に応え、まずはハーツラビュルについて聞くことにした。


「伝説のハートの女王についてはお前たちもよく知ってるだろう?」
「そんなハートの女王をリスペクトして我がハーツラビュル寮生は、ハートの女王のドレスの色である赤と黒の紋章を付け、ハートの女王が作った法律に従うのが伝統ってわけ」


ハートの女王は規律を重んじ、厳格なルールを作ることによって変な奴らばかりの不思議な国を治めていた。だからあまり意味のない法律まであるのだろう。グリムの言う通り肩が凝りそうだ。

どれくらい厳しく伝統を守るかは寮長の気分次第で変わるらしい。どうやら前の寮長はかなり緩かったそうだが、現在寮長であるリドル・ローズハートは歴代寮長の中でも飛びぬけて真面目らしく、最大限その伝統を守ろうとしているらしい。


「他にはどんな寮があるんですか?」
「まずは・・・・・・」


夜月の問いにトレイが丁寧に答えてくれる。

先ほども言っていたように、この学園にはグレート・セブンに倣った7つの寮がある。まずは今の説明でもあった、彼らが所属している、ハートの女王の厳格な精神に基づく『ハーツラビュル寮』。
百獣の王の不屈の精神に基づく『サバナクロー寮』。
海の魔女の慈悲の精神に基づく『オクタヴィネル寮』。
砂漠の大賢者の熟慮の精神に基づく『スカラビア寮』。
美しき女王の奮励の精神に基づく『ポムフィオーレ寮』。
死者の国の王の勤勉な精神に基づく『イグニハイド寮』。
そして、いばらの魔女の高尚な精神に基づく『ディアソムニア寮』。


「たくさんありますね」
「どの寮に入るかは入学式の時闇の鏡が決めるとされてるが・・・・・・なんとなく、寮ごとにキャラが固まってる感じはあるな」
「キャラ?」
「それはあるねー。めっちゃわかる」


トレイの言葉にケイトがうんうんと頷いた。ちょうどお昼時でみんな食事をとるために大食堂に集まっている。トレイは大食堂にいる生徒を指さしながら説明した。

たとえば、耳や尻尾が生えているがたいのいい人。運動とか格闘が得意なタイプが多いのがサバナクロー寮。黄色と黒の紋章だ。灰色と薄紫の紋章がオクタヴィネル寮。臙脂と黄色の紋章がスカラビア寮。どちらも頭脳派揃いで筆記テストは2寮がトップを占めるらしい。紫と赤の紋章のポムフィオーレは美人が多く美容意識が高く、魔法薬学や呪術が優秀な生徒が多いらしい。青と黒の紋章のイグニハイド寮は、大人しい人が多いらしく悪く言えば根暗みたいだ。魔法エネルギー工学などデジタル系に強い人が多いらしい。そして最後に、ディアソムニア寮。黄緑色と黒の紋章でセレブというか、近寄りがたい雰囲気を醸し出しているみたいだ。


「あれ? 子供が混じってる」
「いや、彼は子供じゃないぞ。俺たちと同じ3年生の――」
「リリアじゃ。リリア・ヴァンルージュ」


向こうで座っていた小柄な生徒がいつのまにか真上に居た。さかさまに飛んでいて「遠くから見るだけでなく気軽に話しかけに来ればよかろう」と笑んで地面に降り立った。「クフフ。食事中、上から失礼したな」リリアはそういってディアソムニア寮生のいるほうへ戻っていった。


「軽く20メートル離れてんのに、オレらの話が聞こえたってこと? コワッ!」
「ま、まあ・・・・・・そんなわけでディアソムニア寮は少し特殊なイメージだな」


トレイは苦笑した。ディアソムニア寮は魔法全般に長けた優秀な生徒が多く、なかでも寮長のマレウス・ドラコニアは世界でも5本指に入る魔法士と言われているそうだ。


「そんなすごい人がいるんですね」
「マレウスくんはヤバイね。つか、それを言うならウチの寮長も激ヤバだけど〜」
「ほんっとにな! 心の狭さが激ヤバだよ」
「ふうん? ボクって激ヤバなの?」


聞き覚えのない声に目を向けると、そこには目を吊り上げ腕を組んでいた赤髪の男子生徒が立っていた。グリムとエースの首輪をつけた人だ。この人がハーツラビュル寮長のリドル・ローズハートに間違いないだろう。
エース以外は彼に気づいて顔をギョッとさせていた。


「そーだよ。厳格と通り越してただの横暴だろ、こんなん」
「エース、少し黙ったほうが・・・・・・」
「エース! 後ろ!」
「・・・・・・でぇ!? 寮長!?」


振り向いた先に話の話題だったリドルがいてエースはぎょっとする。ケイトはうまいこと口をまわして逃げようとしていた。「コイツ、入学式でオレ様に変な首輪つけたやつなんだゾ!」グリムはリドルを見て叫んだ。「キミたちは、昨日退学騒ぎになった新入生か」4人にひとりずつ視線を向けるリドル。「ボクのユニーク魔法を変な首輪呼ばわりはやめてくれないか」


「まったく、学園長も甘い。ルールに逆らったやつはみんな、ひと思いに首をはねてしまえばいいのに」
「顔に似合わず、言うことこっわ・・・・・・」


エースは小さな声で聞こえないように呟く。

エースはリドルに首輪を外してもらえないかと尋ねたが、今の話で反省の色は見えないと判断し、しばらくは外さないと言い放つ。幸いにも1年生の授業は基本的に座学ばかりで、実践はあまりない。支障はきさないだろうという。

ハートの女王の法律・第271条『昼食後は15分以内に席を立たねばならない』ために次の支度をせかすリドルを含寮長であるトレイが宥め、なんとかその場を乗り切る。リドルはハートの女王の法律・第339条『食後の紅茶は必ず角砂糖2つを入れたレモンティーでなければならない』を守るため席を外すと言い、立ち去った。
本当にどうでもいい変な法律だらけだ。


「寮長は、入学してから1週間と経たずに寮長の座についた。少し言葉はきついが、根は悪い奴じゃないんだ」


トレイはリドルについて弁解する。エースとグリムは微妙な顔をするが、できるだけ寮の伝統を守ろうとしている姿勢は悪いわけではない。少し、やはりきつすぎる気はするけれど。


「あの、ユニーク魔法って何ですか?」
「リドルくんのユニーク魔法のこと?」
「一般的にその人しか使えない個性的な魔法のことを『ユニーク魔法』と呼ぶ」


トレイはそのうち授業で習うと言った。リドルのユニーク魔法は『他人の魔法を一定時間っ封じることができる魔法』。その名も『首をはねろオフ・ウィズ・ユアヘッド!』。魔法士にとっては魔法を封じられるのは首を失うのと同じだ。だから逆らわないほうが良いという。

ルールに従っていればリドルも怖くない。エースはルールに従うためにタルトを準備しなくてはいけない。タルトのホールは高く、作ったほうが安いのではないかと提案に、トレイに協力してもらうため、取引に栗を拾うことになった。