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3


「ところでエースちゃん、お詫びのタルトは持ってきた?」
「え? いや、朝一できたから手ぶらですけど・・・・・・」


一通り薔薇を塗り終わった後、寮長はまだいるかと尋ねた。ケイトはまだいるだろうと答えた後、そんなことを聞いてきた。ケイトは何も持っていないのを聞くと「あちゃ〜」と言葉を零した。「何か問題でも?」と夜月が問いかける。


「それじゃあハートの女王の法律・第53条『盗んだものは返さなければならない』に反してるから、寮には入れられないな」
「はあ? なんだそりゃ!?」


ハートの女王は規律を重んじるとは聞いていたが、ここまでルールで縛られているのか。おかしな法律もあるし。「この寮にいるからにはルールに従わないと。見逃したらオレも首をはねられちゃう」ケイトはそういってマジカルペンをこちらに向けた。


「悪いけど、リドルくんが気づくまえに出てってもらうね」



◇ ◆ ◇



「タルトをもって出直してきてね〜」と手を振ってケイトは4人を寮から追い出した。追い出す際、ケイトは何人もの分身を出して、倒しても倒しても起き上がっって来た。きっとケイトの魔法なのだろう。

次はタルトをもって出直すことにしようと話していたところ、デュースがハッと予鈴の時間が過ぎていることに気が付いた。クラスは4人とも1年A組。4人は急いで教室へと走った。



◆ ◇ ◆



「お前たちが今日から俺の担任クラスに入った新顔か」


一限目は魔法薬学だ。制服のブレザーを脱ぎ白衣を羽織って両手にはゴム手袋を、そしてゴーグルをつける。向こうの世界で言う理科の実験に近いようだ。


「俺の名前はデイヴィス・クルーウェル。気軽にクルーウェル様と呼んでいいぞ」


1年A組の担任であり魔法薬学など主に理系科目を担当しているクルーウェルは、片手に持った鞭のような指示棒をペチペチと叩きつけながら言った。全体的に黒と白のコントラストでワンポイントに赤を置いている。モフモフとしたコートが印象的だ。そのお洒落な格好と彼から発せられるきつい口調で、怖い人なのかもしれないという印象を受けた。

クルーウェルが視線を移したとき、バチリと視線が交わった。驚いてビクリと肩を揺らしてしまった。「おい、そこの仔犬!」クルーウェルはまっすぐに夜月を見詰めてそう放った。ズカズカと夜月に近寄ってくるクルーウェルに、夜月はもちろん、両隣に居たエースやデュースそしてグリムもギョッとする。


「ほう・・・・・・お前が例の監督生か」
「え、っと・・・・・・」


目の前で立ち止まったクルーウェルは夜月を上から見下ろすように見つめる。目をそらすこともできず、かといって上手く声も出ず、夜月は固まったまま黙ってクルーウェルを見上げるしかできなかった。

「ふぅん」下から上まで品定めをするように視線を動かしていたクルーウェルが、手に持ったそれの先で夜月の喉を撫で顎を持ち上げる。


「珍しい毛色をしているな、悪くない」


「日頃から手入れを欠かさないように」と笑むクルーウェルに夜月は訳もわからず「あ、ありがとうございます・・・・・・」とか細い声で答えた。満足したのか、クルーウェルは元居た場所へと戻っていく。
立ち去る背を固まったまま見つめていると、両隣にいたエースとデュースがコソコソと耳打ちをする。


「監督生、もしかしたらクルーウェル先生に気に入られたんじゃないか?」
「な、なんで・・・・・・」
「オレたちと監督生ってなんか系統が違うし、変わってるからじゃん?」


そんなことで気に入られるのか、まだ初日なのに。「席につけ、授業を始める」授業の始まる合図に、3人は視線をクルーウェルに向ける。夜月は少しばかりの不安を胸に、なんとか乗り切らなければと心に決め授業に集中した。