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IX


なんとか怪物から逃げ出し、家のあったあたりまで引き返した。全力疾走で逃げ出したために、4人の息は切れきれだった。「あんなん居るなんて聞いてねーよ!」エースが愚痴をこぼす。確かにあんな怪物がいるだなんて聞いていない。知ってか知らずが、4人にはわからない。


「もう諦めて帰ろーよ。あんなんと戦うくらいなら退学でいいじゃん、もう」
「なっ! ざっけんな! 退学になるくらいなら死んだほうがマシだ!」


諦めの言葉を吐いたエースにデュースは突っかかる。先ほどまでの丁寧口調はどこへやら、柄の悪い口調になっていた。


「オレより魔法ヘタクソの癖に何いってんだか、行くなら1人で行けよ」
「あぁ、そうかよ! なら腰抜け野郎はそこでガタガタ震えてろ!」
「はぁ〜? 腰抜け? 誰に向かって言ってんの?」


また2人の関係が不穏になっていく。「ほ、ほら。デュースもいったん落ち着いて、ね?」パキパキ手の関節を鳴らすデュースに声をかける。「オマエなんかキャラ変わってる気がするんだゾ?」グリムの言葉にハッとなって、デュースは落ち着きを取り戻す。


「魔法でどうにかすることはできないの?」
「魔法は万能ではない、強くイメージできなければ魔法は具現化しないんだ。大がかりな魔法も使用には訓練がいる」
「だから魔法学校があるんだけどね」


どうやら思っていたよりも魔法は万能ではないらしい。得意な魔法なら感覚で使えるが、思い浮かべたとおりに魔法を使うにはかなりの練習を積む必要がある。慌ててたり、てんぱっていたりするとミスをしやすい。まさに今の状況がそうだ。


「とにかく、僕はなんとしてもあいつを倒して魔法石を持ち帰る」
「さっきから全然羽柄らなかったくせに『なんとか』って何? 何度やっても同じだろ?」
「なんだと!? お前こそ・・・・・・!」


そうしてまた喧嘩が始まる。
いつまでたっても言い合いを続ける2人にしびれを切らし、夜月は大声で怒鳴りつけた。


「いい加減にしなさいっ!!」
「「!!」」


まさか夜月が怒鳴るとは思っていなかったのか。呆気にとられ、2人は言いあうことをやめて驚いて夜月を見詰めた。「2人ともこんな状態で歯が立つわけないでしょう」夜月は目を吊り上げ、呆れたように言い放つ。


「ぐっ・・・・・・し、しかし・・・・・・一体どうしろっていうんだ」
「無謀なことはやめて、ちゃんと作戦を立てよう」


そう提案する夜月をエースは鼻で笑う。「それってみんなで仲良く協力しろってこと? よくそんなダセェこと真顔で言えんね」エースは嫌だと否定した。「同感だ。こいつと協力何かできるわけない」デュースも腕を組んでそっぽを向いた。


「入学初日で退学なんて、それこそダサイんじゃない?」
「うっ、それは・・・・・・」
「・・・・・・」


否定もできず、2人は黙り込む。
じーっと2人の顔を見詰めていれば、耐えかねたエースが声を上げた。「あーもう! わーったよ、やればいいでしょう、やれば!」よかった、と夜月はほっと胸を撫でおろした。


「――で、どんな作戦?」