III
――誰かが・・・・・・歌ってる?
――どこかで、会ったような・・・・・・
目が覚めた。また夢を見たようだった。どこか知っているような夢。
グリムは「う〜っ、寒みぃ〜っ!」と身震いをしていた。確かに一段と冷え込む。
自分も登校の身支度をしようとベッドから出たところで、部屋に掛かった鏡を見つめる。そういえばあの日以来、彼が話しかけてくることも鏡が光ることも無い。
「ん? ヨヅキ、どーしたんだ? ジーッと鏡なんて見つめて」
「え? あ、えっと・・・・・・」
「そんなに真剣にチェックしなくても、寝ぐせなんてついてねぇ。そろそろ出発するんだゾ」
「うん・・・・・・」夜月は鏡を気にしながら、制服に手を伸ばした。
◇ ◆ ◇
「おーっす、ヨヅキ、グリム。オハヨー」
「おはよう、2人とも」
「おはよう、エース、デュース。今日も寒いね」
メインストリートまで行くと、いつものようにエースとデュースがいた。おはようと挨拶を交わして、校舎へと向かって歩きだす。いつものように他愛のない会話を繰り返しているその時、ふとメインストリートにおかれているグレート・セブンの像が目に入った。それを見て、夢で見てきた記憶を想起させた。
――このひと、夢で見た・・・・・・
「あいでっ! ヨヅキ、急に止まるんじゃねぇんだゾ!」
急に立ち止まった夜月に気づかずにぶつかったグリムは文句を垂れる。
「なに? グレート・セブンの製造じっと見て、どーかした?」
エースも急に立ち止まった夜月を不思議がるが、それに夜月が反応する余裕はなかった。
――今日だけじゃない。前にも、どこかで・・・・・・
夜月は石像一つひとつに目を向ける。ハート女王、サバンナの百獣の王、海の魔女、砂漠の魔術師、そして美しき女王。どれもこれも、いままで見てきた不思議な夢にいた。
サァ・・・・・・と、血の気が引いた気がした。
「おい、ヨヅキ? 突然ぼーっとして・・・・・・具合でも悪いのか?」
「おま、顔真っ青じゃん! 大丈夫かよ」
「保健室行くか!?」
慌てだした2人を落ち着かせるように「だ、大丈夫。ありがと」となんとか笑ってみせる。「そ、そうか? 気分が悪いなら無理せず言ってくれ」そういうデュースに改めてお礼を言う。
そんな夜月を見て「コイツ、朝からちょっと変なんだゾ」とグリムが告げ口をする。それを聞いたエースが「えぇ? なに。ホリデーの間に、なにかあったの?」と夜月お顔を覗き込んだ。
夜月は心配してこちらを見つめてくる2人を見て、戸惑いがちに口を開いた。
「あ、あのね・・・・・・」
◆ ◇ ◆
夜月は教室に向かいながら、エースたちに今まで見てきた夢の話をした。夢の中でのグレート・セブンたちは、伝説とは少し違う様子だった。そして最近には、夢ではなく現実で、オンボロ寮の鏡に丸い耳をした『ミッキー』が現れるようになった。
エースもデュースも、その名前は聞いたことがないらしい。
「うーん。夢じゃないなら、ゴーストの仕業・・・・・・とか?」
「あっ、じゃあさ。学園長からもらった『ゴーストカメラ』で写真撮ってみれば?」
「カメラで?」
ゴーストカメラは魂の形を写す魔法道具だ。だから相手がゴーストでも写るはずだとエースは言う。「なるほど。写真があれば『ミッキー』が何者か突き止められそうだな」デュースが名案だと言う一方で「ま、なにも写ってなあったらヨヅキが寝ぼけてただけってなるけど〜」とエースは揶揄うように言う。
するとチャイムが鳴り、教室にクルーウェルが入ってきた。それを合図に、生徒たちは自分の席についていく。
ホームルームでクルーウェルから2月中旬に『全国魔法士養成学校総合文化祭』が開催され、その会場が此処ナイトレイブンカレッジに決定したことを告げられた。なんでも文化部がメインになる祭典らしく、様々な発表や展示が行われるらしい。またナイトレイブンカレッジの4年生は外部に実習しに行って普段は学園に居ないが、その4年生たちも戻ってきて成果発表をするらしい。4年生を見ない理由はそういうことだったみたいだ。さらにこの文化祭は大学や企業、芸能界といった様々なメディアが注目するらしい。話を聞くだけでも、とても大々的なものらしい。
「文化部の祭典か〜」
「運動部の僕らには関係ないな」
「私とグリムも部活入ってないしなぁ」
グリムは美食研究会と自称してはいるけれど。
この時は関係ない話だと、3人とも流していた。