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17


あの後、今夜だけは特別にとモストロ・ラウンジの客室を貸してもらい、一晩過ごした。早朝に起こされれば3人はすでに手土産をもってスカラビアへ行く準備を始めていた。嫌そうにするグリムや微妙な顔をする夜月を引っ張り、オクタヴィネルの3人はスカラビアへ足を踏み入れた。


「こんにちわ、お邪魔します」
「うわー、あっつ。マジ夏じゃん」


スカラビア寮生たちは彼らを見てぎょっとする。「ああ、みなさん。昨晩は失礼しました」アズールがそれに気づき、口を開いた。「オンボロ寮の2人はスカラビアから魔法の絨毯を盗みだして窃盗犯ということがわかりまして」アズールは続ける。「間違いに気づいた僕は、責任もってこの窃盗犯を引っ捕らえ、魔法の絨毯をお届けに上がったというわけです」スラスラと言うアズールに「うぬぅ・・・・・・不本意なんだゾ」とグリムが愚痴を零した。「そ、それは・・・・・・」「ご協力ありがとうございます・・・・・・?」


「おい、お前たち。そろそろ朝の特訓の時間だぞ。集合に遅れるとまたカリムに・・・・・・!!??」
「おや、ジャミルさん! こんにちわ、ご機嫌いかがです?」


「アズール・アーシェングロット・・・・・・! それに、リーチ兄弟。一体、何故ここに?」現れたジャミルは3人を見て目を見開いた。「僕たちの故郷は、冬は帰省が困難な立地でして」それについてジェイドが口を開き「毎年ホリデーは寮で過ごしてるんだぁ〜、あはっ」フロイドが続けた。「なん、だって・・・・・・?」ジャミルが眉間にしわを寄せる。


「ところで、カリムさんはどこにいらっしゃいますか? 魔法の絨毯をお届けに上がったのですが・・・・・・」
「えっ、あ、ああ。届け物なら俺が預かろう」
「いえ! 結構。後々傷などが発見されて『オクタヴィネルの奴らのせいだ』などとクレームを付けられては困りますから。直接カリムさんお渡しして、しっかりと検品していただきたい」


「カリムはそんなことは気にしないはずだ。だから俺が預かって・・・・・・」ジャミルが絨毯を受け取ろうとすればひょいっとそれを遠ざける。「ご安心ください。落とし物の20%にあたる報労金を要求したりもしませんから」アズールはニコリと笑って言う。「昨晩スカラビアのみなさんに働いた無礼についてもお詫び申し上げたいですし」ジェイドが言う。「手見上げのシーフードピザも持ってきたしぃ」持ってきた手土産を見せながらフロイドが言う「とにかく、絶対直接会ってお渡ししたいのです。彼はもう起きていらっしゃいますよね?」アズールはそう言って勝手に進んでいく。「だから、今日は都合が悪いと・・・・・・勝手に入っていくな! アズール!」ジャミルがそれに気づき、先に進むアズールを追いかける。


「さ、ヨヅキさんも参りましょう」
「遅れないで付いてきてねぇ」
「は、はい!」


そのあとをフロイドとジェイドに続け夜月たちも向かう。「オクタヴィネルのヤツら、なんつー強引さなんだゾ・・・・・・」でも味方につければ、これ以上ない強い味方かもしれないと夜月は思った。



□ ■ □



「あれ、アズール? なんでウチの寮にいるんだ?」
「こんにちわ。ご機嫌いかがですか、カリムさん」


談話室に現れたアズールたちを見て、カリムは首を傾げた。「今日はあなたの魔法の絨毯を捕まえたので、お届けに上がったんです」アズールの話を聞き「えぇっ? アイツまた勝手に逃げ出したのか? それは手間をかけたな」とカリムは申し訳なさそうにした。「ところで、今年スカラビアはホリデーを寮を過ごされるとか」アズールの質問に頷く。「ああ。もしかしてお前たちも?」そう聞き返せば「そうなんです! いやー、奇遇ですね」と答えた。


「そこで、これを機にオクタヴィネルとスカラビアで親睦を深める合宿をいたしませんか?」
「なっ・・・・・・!?」
「そりゃいい! オクタヴィネルの寮長がウチの寮に滞在してくれるなんて、願ってもない」


「・・・・・・カリム、俺は反対だ」ジャミルは反対を申し出た。「えぇ? なんでだよ」カリムはジャミルに目を向けた。ジャミルは、他の寮においつくためにわざわざ冬休みをつぶして特訓をしているのに他寮の寮長を招き入れては敵に手の内を明かすようなものだ、と進言する。「敵なんて大げさだな。それに、オンボロ寮の2人はお前が連れていたんじゃないか」カリムがそう言うと「それは・・・・・・っ、そうだが」ジャミルは否定できずに言葉を濁す。

「俺はお前たちのためにも言ってるんだぞ、アズール・・・・・・!」ジャミルがアズールに目を向けて言い放つ。「ジャミルさんの意見はごもっとも」アズールもそれには頷いた。「残念ですが、僕らはこれでお暇しましょう。カリムさん、ジャミルさん、特訓頑張ってくださいね」アズールやジェイドやフロイドは背を向け、談話室を出ようとする。


「はぁ・・・・・・極寒の中、今年も3人ぼっちのホリデーですか・・・・・・ま、仕方ないですけど・・・・・・」
「頑張って魔法の絨毯を捕まえたんですがねぇ・・・・・・」
「モストロ・ラウンジもめちゃくちゃになったのになぁ・・・・・・」


「「「はぁ〜〜〜・・・・・・ションボリ」」」ガクリ、と3人は肩を落とす。「うわぁ・・・・・・」思わず夜月が口を零す。「な、なんてあからさまな“引き留めてほしい”って態度なんだゾ」この人たち、目的のためならこんなしょうもない演技もするだ。


「――ちょっと待った!」
「・・・・・・はぁ〜〜」


「アズールはこの学校でもトップレベルの魔法士だ。スカラビアの成長のためにも、滞在してもらったほうがいい!」カリムは3人を引き留めて続ける。「それに、せっかく訪ねてきてくれたヤツを無下に追い返すなんて、アジーム家の名折れだ」ニッコリと笑って言うカリムに「あぁ・・・・・・カリムさん! なんて懐が深くてお優しい方なんでしょう!」アズールも嬉しそうな声音で言った。


「もちろんですとも。僕が教えられることであればなんなりと!」
「料理や掃除のお手伝いなら、僕たち双子にお任せください」
「そーそー。いつも店でやってるから、得意だしぃ」
「そいつは助かる! ジャミルの負担も減るだろう」


「俺のことはいいから・・・・・・! ああもう! 全然聞いてないな」ジャミルの話を聞かずに、カリムはさっさとオクタヴィネルの3人の滞在を許してしまう。「よし、早速だがアズールの胸を借りて特訓だ! 荷物を置いたら庭に来てくれ!」と言ったカリムに頷き「了解しました。スカラビアのみなさん、どうぞお手柔らかに。フフフ・・・・・・」アズールは薄ら笑いを秘かに浮かべた。