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14


その日の夜、カリムが寝静まったあと寮生たちや夜月やグリムはジャミルに談話室へ集められた。


「それで、話って?」
「もうオレ様、ヘトヘト・・・・・・一刻も早く寝かせてほしいんだゾ」
「みんな同じくらいキツいんだ。静かにしてろ」


「お前たちがカリムのやり方に不満があるのは分かってる」冬休みに寮生たちを寮に縛り付け、朝から晩まで過酷な特訓。不満を持たないわけがない。「俺もカリムのやり方が正しいとは思ってない」と言ったジャミルの言葉に「じゃあなぜ止めないです!?」と寮生は声を荒げる。「止めたさ、何度も。聞く耳を持ってもらえなかったけどな」


「オマエら、そんなにブーブー言うなら、ジャミルじゃなくてカリムに直接文句言ってやればいいんだゾ」
「確かにね。リドル先輩の時も、エースが直接文句言ってたし」


まあ、あれはエースの性格上の問題でもあるだろうが。「それは・・・・・・その・・・・・・」寮生たちは口を濁らせた。「なんだ、オマエら。ジャミルには言えてもカリムには言えねぇのか?」グリムの言葉に「ち、違う! 俺たちだって言おうとしたさ、何度も!」寮生は声を上げて続けた。様子がおかしくなる前は、寮生全員がカリムを尊敬していた。度の寮より素晴らしい寮長だと思っていた。親身になって話を聞いてくれ、朝まで特訓にも付き合ってくれて、少し頼りないがみんなカリムのことが大好きだった。慕っているからこそ、踏ん切りがつかないわけだ。突然のカリムの変わりように不満がたまる一方、寮生たちの心もついていっていないのだろう。

「カリムのヤツ、医者にでも見せてもらったほうが良いんじゃねーか。言ってることがコロコロ変わるし、正確がまるで別人みてーになっちまうんなんて、ちょっと変だろ?」グリムの言う通りだ。情緒不安定を通り越している。「なんか悪いモンでも食っちまったんじゃねーのか」それこそ毒か。「もしくは・・・・・・精神的な、心の問題とか」夜月が呟く。「確かに、その可能性も否めないな」グリムと夜月の意見にジャミルは頷いた。しかし熱砂の国に帰ればお抱えの医者はいるが、連れ帰るまでが一苦労だろうとおとす。

「今のスカラビアが抱えている問題は、つい先日までハーツラビュルが抱えていたものと似ている」ジャミルは夜月やグリムに向けて口を開いた。ジャミルは続ける。ハーツラビュルも寮長の圧政に寮生たちが苦しめられていた。向こうは寮長であるリドルのユニーク魔法が怖くて誰も逆らえなかったんだろう、と。「そこで、ハーツラビュルの問題解決に活躍した君たちにアドバイスをもらいたい」


「俺たちはどうしたらいいと思う?」
「ジャミルがカリムに決闘を挑んで寮長になっちまうのはどうだ?」


また物理的解決。決闘は手っ取り早い解決方法だし、ジャミルは決してカリムより劣っているわけではなさそうなため問題はないだろうが。「カリムはリドルと違ってユニーク魔法も大したことねーし、楽勝な気がするんだゾ」


「――それだけは、絶対できない」


ジャミルははっきりと告げる。「どうしてですか?」と問えば「俺の一族・バイパー家は先祖代々アジーム家に仕えている。家臣が主人に刃を向けるなんて、許されるわけがないだろう?」とジャミルは答える。「悪いが、俺の身勝手で家族全員を路頭に迷わせるわけにはいかないんだ」それがバイパー家に生まれた者の宿命だ、とジャミルは静かに続けた。「でもよぉ、寮長があんな調子じゃ寮生みんなが振り回されて参っちまうんだゾ」その予兆は目前だ。すでにみんなついていけていない。支離滅裂な分、リドルより酷く感じる。


「俺たち、もうカリム寮長には付いて行けません!」
「今のカリム寮長は、寮長の条件を満たしていない! スカラビアの精神に反しています!」
「スカラビアの精神?」


「スカラビアの精神とは、砂漠の魔術師の熟慮の精神」夜月の疑問にジャミルが答えた。ナイトレイブンカレッジにある7つの寮における寮長の条件は『寮の精神に一番相応しい者であること』。逆に、寮で一番でないのなら寮長の資格はない。決闘はわかりやすく一番を決める方法と言えるそうだ。7つ寮、それぞれふさわしい条件も異なる。たとえば、ポムフィオーレ寮は『誰よりも強烈な毒薬を作れる者』が寮長になる条件だ。

「じゃあ、カリムはなんでスカラビアの寮長に選ばれたんだ?」グリムの問いに、前寮長の指名でカリムのそれまでの働きぶりと人徳が寮で一番だと評価された、とジャミルと話した。「・・・・・・アイツが指名されたときは、俺も嬉しかったよ」ジャミルは少し目を伏せて呟いた。

「それも、ジャミル先輩の助力あってモノじゃないですか!」「なんで前寮長はジャミル先輩を選ばなかったんだ!?」寮生たちは次々に声を上げる。同じ寮である以上、普段の2人の関係を知っているからこそ言える言葉だ。


「アジーム家に親戚筋の人間が本家の跡取りカリムを差し置て俺を選べるわけが・・・・・・あっ!」
「はぁ〜!? また“アジーム家”なんだゾ!?」


ジャミルはしまった、と顔に出す。「そんな事情があったなんて、知らなかった・・・・・・つまり、コネじゃないですか!」「汚ねぇ・・・・・・汚すぎるぜ、アジーム家!」寮生たちはふつふつと怒りを募らせる。「頼む。どうか今の話は聞かなかったことにしてくれ」ジャミルは急いでそう言った。しかし寮生たちは止まらず、ジャミルを寮長にと声を上げる。

「待ってくれ。オレだって特別優秀なわけじゃない。成績だって、いつも10段階でオール5の平凡さだ」寮長にはふさわしくないよ、とジャミルは続けた。「寮の精神にふさわしいかどうかは、魔法力じゃない」寮生たちが声をそろえる。


「お前たちはどう思う? 俺たちの仲で、誰が寮長にふさわしい?」
「え? え、っと」
「そんなの、ジャミル先輩のほうが寮長にふさわしいに決まってる!」


突然問われたかと思えば、他の寮生が答える。「そうだ。カリム先輩より、ジャミル先輩のほうがスカラビアん寮長にふさわしい!」「無能が寮長でいていいわけがない!」「そうだそうだ! スカラビアに無能な寮長は要らない!」カリムへの不満を募らせ、寮生たちは声をそろえて声を荒げて言う。

なんだろう、この違和感は。なんだかトントン拍子に事が進んでいる。まるで掌で転がされているみたい。この不信感は、一体なんだ。


「――お前たち、こんな時間に集まってなにをしてる?」
「「――!!!」」
「げげっ、見つかっちまった!」
「カリム先輩・・・・・・」
「カ、カリム・・・・・・!」


目を向ければ、眠っていたはずのカリムの姿がそこにあった。「どうやらお前たちには昼間の訓練では物足りなかったようだな」寮生たちを一瞥し、カリムは目をつりあげる。「ジャミル! 今すぐ寮生を庭に出せ! 限界まで魔法の特訓をする」その言葉に目を見開く。「そんな・・・・・・!」あんなに過酷な特訓をしたというのに。「オレ様、すでに疲れが限界なんだゾ〜!」グリムもさすがに涙目になった。


「聞こえなかったのか。早くしろ!」
「・・・・・・わかった。お前たち、外へ出ろ」


ジャミルは仕方なくうなずき、寮生たちに声をかける。不満はあるし従いたくもないが、カリムをいざ目の前にするとひるんでしまう寮生たち。それに従うジャミルの言葉に従い、寮生たちは重い腰を上げ庭に足を向けた。