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最後に笑ったのはいつ?



「何を見ておるんじゃ?」

「おはよう、零。今日もよく眠れたかい?」


軽音部の部室に置かれた棺の蓋をずらして、寝起きの零が起き上がる。零は椅子に座って一枚のプリントを見つめていた夜月に視線を向けるが、窓から差し込む日差しの光に顔を歪めた。
いつもなら部室の窓にはカーテンがかけられ部屋を真っ暗にしているが、夜月が此処に来ると、零が寝ている間はカーテンを開け、窓辺に椅子を設置して暇な時間を過ごしていた。

夜月はカーテンを閉め、代わりに部屋の明かりをつける。日の光でなければ零も平気だ。


「して、先ほどは何を熱心に見ておったんじゃ?」

「ああ、これの事かい?」


手に持っていたプリントをひらひらとさせる。


「知ってる? 今度来る転校生のこと」


再度椅子に座り、プリントの表面を零に見せる。
零も棺の上に腰を下ろし、足を組んでそのプリントを見つめた。


「おぬしと同じ、プロデュース科に転校してくる女子生徒の事じゃな」

「そう。私と同じ新設プロデュース科の生徒。私以外にも、テストケースを入学させる予定は前々から聞いていたけど」


夜月はもう一度プリントに視線を落とす。
零はそんな彼女の姿を見つめる。そこか楽し気な彼女を。


「ねえ、どう思う?」

「はて、どうとは?」

「また楽しくなるかしら?」

「さてのう。じゃが、その嬢ちゃんの存在で学院に転機が訪れるやもしれん」

「ええ、ええ、そうね。きっとそうなるわ」


口端をあげ、声色も高くなり、嬉々として楽し気に笑みを浮かべる彼女の様子は、まるで新しい玩具を見つけた子供のようだ。
零はやれやれと片手をあげた。しかし、楽し気な夜月を見て嬉しい気持ちもある。


「さて、じゃあ私は帰るわ」


パチン、と手を叩いて立ち上がる。設置したパイプ椅子を片付け、部室の隅に置いたバッグを手に持つ。


「もう帰ってしまうのかえ?」

「もう放課後だ。そろそろ、君の愛しい後輩たちが来てしまうだろう? 誰にも会わないうちに退散するよ」

「そうじゃのう」

「面白いことがあったら連絡して頂戴。仲間外れは嫌よ、零」

「わかっておる。ではまた明日にでも会おうぞ、夜月」

「ええ、バイバイ」


手を振った夜月が出ていき、部室の扉がパタリと閉まる。
一人取り残された部室の中、朔間零は夜月が出ていった扉を見つめた後、赤い瞳を閉じ思いふける。

はてさて。最後に彼女が楽し気に笑ったのはいつのことだったか。
老いた吸血鬼は過去に思いをはせる。


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