「その宝具・・・・・・フ、なるほど」
盾を見て、セイバーは噤んでいた口端を上げた。
この場にいる全員が感じ取っていた。目の前の英霊に、強敵に、全身を駆け巡る息苦しいほどの緊張感を。
「構えるがいい。名も知れぬ娘。その守りが真実であるかどうか、この剣で確かめてやろう」
セイバーは真っ先に、マシュに向かって黒く染まった聖剣を振り下ろした。マシュもそれに応え、自ら向かって盾で防御する。これはサーヴァント同士の戦いだ。魔術師もそのマスターも、これに加わる力はない。
「どうした、その宝具は飾りか」セイバーの振り下ろす聖剣の重力に耐え切れず、マシュは吹き飛ばされる。
「マシュ!!」
駆けだそうとする立香を阻むように、オルガマリーの腕が伸びる。「足手まといよ。いいえ、それ以下だわ」冷たく言い放つオルガマリーに、立香はなおも叫ぶ。「貴方の気持ちは痛いほどわかる。けど、貴方はあの子のマスター。あの子は貴方のサーヴァントなのよ」魔術師でもない、ただの一般人。それでも、立香はその言葉を受け止めなければいけない。
「藤丸立香」
唇を噛む立香の肩に手を置き、視線を合わせる。
「覚悟を決めなさい、藤丸立香」
「ッ!」
「前を見据えなさい。逸らさずに、目の前を受け止めなさい」夜月は続ける。これを乗り越えるために、この先を生き抜くために、立香の覚悟が必要だ。「マスターとして戦う覚悟を。あの子の、マシュのマスターとして、立ち続ける覚悟を」彼にとって、とても惨いことをしているだろう。それでも、生きるために、未来のために。
「あなたはどうする、藤丸立香」
「っ、俺は・・・・・・!」
そのとき、セイバーの聖剣に魔力が集まった。濃度が高まるそれを目に、オルガマリーは焦りを見せる。セイバーは宝具を解放しようとしている。それを、宝具も展開できていない盾で受け止めなければならない。事態は深刻だった。
「宝具・・・・・・」
「耐えてマシュ!!」
すると、立香は一目散にマシュの下へ向かって駆けだした。止める暇もなかったのだ。「止まりなさい! 藤丸立香!」無謀だ。焦ってオルガマリーは引き留めようとするが、立香はただ、マシュだけを目に移して駆け出した。
「・・・・・・そう。貴方は”一緒”に戦うことを決めたのね、藤丸立香」
未熟でも、凡才でも、真っ直ぐに、純真に。
その背は、もう1人のマスターとして立っていた。
「マスター、どうか指示を!」
「あの攻撃を防ごう! 行くぞ、マシュ!」
――仮想宝具疑似展開。
――『人理の礎』
「それが君の応えなんだね、マシュ」
それは、不可能を切り拓き、未来へ歩み続ける人類の願い。