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「うわっ!?」


魔法陣から放たれる眩しいほどの光や、突然発生した突風に慌てふためき後ずされば、足を山積みに重ねた本に引っ掛け、盛大に転んだ。けれど痛みに気をはらっている余裕はなく、目の前の光景に目をやるだけで精一杯だった。

事の始まりは、単純な好奇心に過ぎない。

家に帰って、山積みに増えた本を本棚から手に取っていたとき、懐かしいものを見つけた。その古ぼけた本は、数年前に家を出ていくとき持ち出した魔術書。魔術師として性にあっていなかった自分は、嫌気をさしてとうとう逃げ出した。魔術師の家を出ながら魔術師の本を持って行くとは、馬鹿げたことだ。

その本を見つけ、懐かしさを思いだして本を開いた。すると、中に挟まっていた古い紙が床に落ちる。見てみると何かの魔法陣と呪文らしいが、三流の、しかも放棄した自分になんであるかなど分かるはずもない。待ちだした本は主に簡単な、護身術程度の内容だった。それに挟まっていたのなら、きっと害にはならない。そう決めつけ、懐かしい記憶に感傷しながら、魔法陣を描いて呪文を唱えた。

それがまさか、こんなことになるなんて。

これは聖杯戦争を行うために喚ぶ、英霊の召喚だ。
魔術とは縁を切ったつもりだが、魔術師の身の上のため自分の周りは気にしていた。それで聞いた。あの聖杯戦争を実行するため、この冬木市に魔術師たちが集ってくると。

聖杯戦争は七人の魔術師に七騎の英霊で行われる、殺し合い。聖杯を求めて競い合い、最後に残った一人が願いを叶える権利を得るという、私欲に塗れた戦い。七人のマスターは聖杯によってえらばれ、手の甲に令呪という赤い刻印が宿る。始まりの御三家はもちろんのこと。ただ、その枠が余った場合、聖杯がなんの法則性もなく無暗にマスターを選出する。
だが、誰が思うだろう。令呪が宿ることなんてなく、殺してまで叶えたい願望もなく、魔術師としては三流で放棄者の自分が、たまたま描いた魔法陣で、最後の七人目になるなんて。

誰が考え着くのだろうか。


「っ!」


手の甲に痛みが走る。咄嗟に片手でおさえ、ゆっくりと目を向けてみれば、なにかの花を模したであろう赤い三画の刻印が刻まれている。
さらに強く光を放つ魔法陣。令呪の刻まれた手で目を覆い、まばゆい光に目を瞑った。


「・・・・・・」


光りを失い、代わりに何かを纏うように現れた霧があたりを包む。目を覆っていた手を下ろし、おそるおそるに魔法陣のほうに視線を向ける。霧と月明かりしか入らない暗い部屋で良く見えないが、確かに誰かの人影があった。
霧も段々と薄れていく。霧の中の人影は一歩、また一歩と近づいてくる。
息をのみ、逃げ出してしまいたい衝動を抑え、目の前をじっと見つめた。


「――サーヴァント、ランサーとして召喚した」


凛とした、女の子の声だった。素っ気なさがあって、淡々と告げるようなもの。
それに少し驚いて目の前を見上げた。


「――おまえが、私のマスターか。人間ヒトの子


僕を見下ろし言い放つ神秘的な女の子は、ぶっきらぼうにそう言った。
この出会いをなんと呼ぶのか、なんと名付けられるのか、僕にはわからない。
でも、きっと――

――これは、孤独を終わらす出会いだった。
――ねえ、そうでしょ。”僕の”ランサー。




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