「久しいな、我が主よ。再びこうしてお前に呼ばれるとは、やはり俺は幸運なサーヴァントらしい」
あまり表情の変わらないカルナだが、彼は目を細め本当に嬉しいのだと目で訴え、微笑んだ。
ディーアに手を伸ばし、「もっと顔を見せてくれ」とその頬を両手で包み目線を合わせるように上を向かせた。
ディーアもそれに応えるようにカルナの両手に手を添える。
「ありがとう。また、私の声に応えてくれて」
「当たり前だ。お前が望むのなら、何度でもその声に応え、この手を差し出すと誓った。お前の声を聞き逃すことなどあり得ん」
ディーアはそこ応えに嬉しそうに微笑み、そっと瞳を閉じる。
そんな彼女の頬を指で一撫でし、唇を当てるだけの軽い口づけを額に贈った。
あぁ、懐かしい。
自分にとっては『あれ』からさほど時間は立っていないが、目の前の人物も同じくとは言えない。
懐かしい。この声が、姿が、あの日々が。まだ鮮明に思いだすことができる。
そうして数分。お互いの存在を懐かしんでいると、やがてそっと二人は距離を取り、本題へと入る。
最初に口火を切ったのはカルナだった。
「して、マスター。今回の聖杯戦争は『あの月』とはまるで違うようだが・・・・・・いや、本来の形に戻ったというほうが正しいか」
「えぇ、そうね」
クスリと笑い、脳裏であの頃の記憶を辿った。
本当に懐かしいものだ。しかし、今は感傷に浸っている時間はない。早々に話の続きをする。
「なるべく本来の形を変えないために、本来の参加者になるわけにはいかない。だから私はイレギュラーとしてこの戦争に介入する。そのために無理やり8騎目を召喚したのよ」
「なるほど、それが俺というわけか。お前の言う通り、既に聖杯から本来の7騎のサーヴァントが召喚されている」
カルナは気配を感じ取ってか、または召喚されるときにその知識を植え付けられたのか、そう答えた。
ディーアもそれに頷く。
「えぇ。まぁ、アサシンは敗れたらしいけれど」
けれど嘘ね、妙に手際がいいもの。きっと手を組んでるのね。と付け足す。
カルナは黙ったまま聞き心地の良いディーアの声に耳を傾けた。
「セイバーとそのマスターは明日辺りに此処へ着く。イレギュラーな私たちはなるべく目立たないようにするつもりだけれど、既に聖堂協会の監督役が貴方の召喚に感知しているはず。こそこそする必要もなさそうね」
カルナは短く「そうか」と受け答える。
ディーアが片手をあげ、指を鳴らした。それが部屋に響く。すると洋館の周りに厚い結界が現れた。
そう簡単に破れないだろう。こうでもしないと異分子として教会からの排除が来る可能性がある。まぁ、負けるつもりはないが。
「さぁ、今日はもう休みましょう。基本戦闘は夜に限られる。今夜もだれも動かないだろう」
「マスター。一つ、聞きたいことがある」
カルナの言葉に応えるため、ディーアはカルナと向き直った。
その瞳にカルナを映し、言葉を待つ。
「我が主
「――」
ラブラドライトの瞳が細められ、やがて瞼が降りた。
再びラブラドライトの瞳を開かせ、微笑んだままカルナを見る。
「えぇ、永久に変わることはないだろう。私の望みは、偏にそれのみ……それだけが、我が悲願」
「ならば。俺はその望みを叶えるために、この槍でお前に立ちはだかる者すべてを切り伏せよう」
――契約は成立。
彼女は自らの望みを叶えるために再び戦い、彼はその望みを叶えるため再び槍を掴む。
「ありがとう、カルナ」
ディーアは嬉しそうに頬をあげた。
そのまま踵を返し扉に向かって歩く。ドアノブを掴む直前、「あぁ、それから……」と呟き再びカルナを見た。
カルナは「どうした?」と彼女を見返す。
「二人の時は名前で呼んで欲しい。また、貴方に呼ばれたいの」
瞳を見開かせ、ディーアを見つめる。
やがてその瞳は愛しさを込め、微笑んでいた。
「承知した――ディーア」
――再び、太陽と月は巡り合う。