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「それにしても……」


お辞儀をした後、ディーアは呟いて辺りを見渡した。
視界に入るのはサーヴァントとそのマスターたち。彼らは、ディーアが自分たちを一瞥すると刃物を握り直し、警戒をその身に表した。


「アーチャー、わざと私をこの場に出したわね。おかげで今後の計画が台無しよ」


言葉だけでは酷く冷たいものだが、言っている本人は悪戯な笑みを浮かべ、子供のように言った。
アーチャーもそれを楽しむように笑む。


「当然であろう。お前は舞台のそでにいるべき人間ではない。舞台に立って我を楽しませろ」


その言葉にディーアは困ったと息を吐き、それでも楽しんでいるように微笑んでいた。
その直後である。何処からともなくとてつもない魔力が吹き荒れた。

此処にいる全員がその魔力の元へ視線を向けると、巻き上がる魔力はやがて形となり、人の形とした“影”として、実体化を果たした。
アーチャーと違い、顔も何もかも全て、黒い甲冑に覆われている。豪華さといったものはなく、何もかもがアーチャーと正反対だ。


「なぁ、征服王。アイツには誘いをかけんのか?」


ランサーが、口調だけは飄々として訊ねると、ライダーは困り顔で返答した。


「誘おうにもなぁ。ありゃあ、のっけから交渉の余地なさそうだわなぁ」


「バーサーカーね」とディーアは断定し、それにカルナが「あぁ、間違いない」と同意する。また周りの人間もバーサーカーだと悟っただろう。
恐らく、間桐雁夜のサーヴァントだ。

アーチャーの前にいるため、バーサーカーとの距離はさほど遠くない。
カルナはディーアの前で槍を構える。


「で、坊主よ。サーヴァントとしちゃ、どの程度のモンだ? あれは」


ライダーが訊ねるも、ウェイバーは困惑の表情で頭を振った。


「判らない。まるっきり判らない」

「何だぁ? 貴様とてマスターの端くれであろうが。得手だの不得手だの、色々と“観える”ものなんだろ、ええ?」

「見えないんだよ! あの黒いヤツ、間違いなくサーヴァントなのに……ステータスも何も全然読めない!」


ウェイバーがこんな事を言うなんて滅多に無い事だ。つまり、他のマスターも、同様の事態に陥っているに違いない。
勿論、ディーアも同じだ。


「ランサー、あのサーヴァントのステータス読める?」

「……いや、見えんな。恐らくそういったスキルを持っているのだろう」


確認のためカルナに尋ねてみるが、彼も同じく。
しばらく辺りを見渡していたバーサーカーは近くにいたアーチャーを捉えた。下から彼を見上げて、数分。


「誰の許しを得て我を見ておる? 狂犬めが」


あのバーサーカーは明らかにアーチャーへ向けて殺意を放っていた。
すると、アーチャーの左右の剣がバーサーカーへと向きを変えた。


「せめて散りざまで我を興じさせよ。雑種」


まるで死刑宣告の様なアーチャーの発言と同時に、剣と槍はバーサーカーへとてつもない速度で投げ付けられた。
瞬間、地面のアスファルトが砕け散り、粉塵と化してディーア達の視界を奪った。

そして、粉塵の中からバーサーカーは何事もなかったかの様に再び姿を現した。
見ると槍は路面を削っているが、もう一つの剣はなんとバーサーカーの手にあった。まず、アーチャーが放った剣をバーサーカーが掴み取り、その剣を遣って槍を打ち払ったのだが、この神懸かりな行動を把握出来るマスターはいなかった。

ウェイバーもアイリスフィールも、流石のディーアも何が起こったのか判らず、呆然と見遣るのみだった。


「奴め、本当にバーサーカーか?」

「狂化して理性を無くしてるにしては、えらく芸達者な奴よのう」

「相当、腕が立つ者なのだろう」


バーサーカーがどの様にしてアーチャーに対向したのか、把握しているランサーとライダー、カルナは怪訝そうに互いに呟く。
だが、当のアーチャーはそこまで冷静ではいられなかった様だ。


「その汚らわしい手で、我が宝物に触れるとは……そこまで死に急ぐか、犬ッ!!」


怒りの形相で、黄金に輝く背後から様々な武器が姿を現した。
その数は多く、どれも宝具だ。さすがのそれに、他のマスターたちは目を見張ってしまう。


「その小癪な手癖の悪さでもって、どこまで凌ぎきれるか――さぁ、見せてみよ!」


アーチャーがそう叫ぶや否や、上空に浮いた宝具の数々が一斉にバーサーカーへ襲い掛かった。倉庫街の街路が、轟音と共に一気に破壊される。
それでもなお、バーサーカーには届かなかった。

バーサーカーは、最初に向かって来た宝具をまたしても掴み取り、先程掴み取った剣と共に、すさまじい勢いで襲い掛かる宝具を、いとも簡単に打ち払ってみせた。


「相性が悪いな」


その様子をみて、まずカルナがそうつぶやいた。


「どうやらあの金色は宝具の数が自慢らしいが、だとするとあの黒いヤツとの相性は最悪だな」


続けてライダーは余裕綽々とばかりの態度で、口を開く。


「黒いのは、武器を拾えば拾うだけ強くなる。金色も、ああ節操なく投げまくっていては、深みに嵌る一方だろうに。融通の利かぬ奴よのう」


時臣が召喚したアーチャーと、雁夜が召喚したバーサーカー。

アーチャーの攻撃が一旦収まる。バーサーカーの佇む場所は木端微塵となり、元の倉庫街の影も形もない状態だ。すると、何の前触れもなく、バーサーカーは両手に携えた武器を、アーチャーの足場になっていた街灯に向かって投げ放った。

二つの武器は街灯の鉄柱をいとも簡単に破壊し、街灯は一気に倒壊していく。
街灯の上に立っていたアーチャーは地面に着地していた。


「痴れ者が……天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるか!! その不敬は万死に値する。そこな雑種よ、最早肉片一つも残さぬぞ!!」


刹那、先程の倍はあるであろう大量の武器が、一斉に姿を現した。

ライダーの言葉は信じるに値する。ならば、この勝負は雁夜のサーヴァント、バーサーカーに勝ち目があるという事になる。
まさか時臣がこんな序盤で敗退するなど、とても信じられない。わざわざ綺礼のサーヴァントを殺したと見せかけ、その存在を知らしめたというのに。

――突然の事だ。

あれだけ憎悪の念をバーサーカーへ向けていたアーチャーが、突然視線を変えたのだ。「貴様ごときの諫言で、王たる我の怒りを鎮めろと? 大きく出たな、時臣……」アーチャーのその呟きは、耳には届かない。

腕を振り払って宝具をしまうアーチャー。その姿で令呪を使われたのだと、周りは気付く。


「命拾いをしたな、狂犬」


アーチャーの視線が、ここにいるサーヴァント各々へ向けられる。


「雑種ども。次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い」


苛立ちを消さぬまま、鋭い視線を各サーヴァントに向ける。
そして最後にディーアに視線を向けた。そこには怒りがなく、鋭い瞳にしては柔らかい。


「ディーア。こうして再びまみえたのだ。後日、我が滞在する屋敷へ来い。久々に酒でも酌み交わそうではないか」

「考えとくわ」


アーチャーは口端をあげ、振り返りざまに霊体化をしてその場から消えた。


「ふむ。どうやらアレのマスターは、アーチャー自身ほど剛毅な質ではなかった様だな」
 

ライダーが呟く、その束の間。今度は何とも形容し難い唸り声が聞こえた。
見ると、バーサーカーが今度はセイバーの方へ殺意を向けている。そして、何の前触れもなくセイバーに向かって突進していった。

セイバーは咄嗟の攻撃を見えない剣で受け止めてみせた。そして、セイバーだけでなくその場にいる全員が、バーサーカーの武器を見て驚愕した。
バーサーカーが武器にしているものは、先程までアーチャーが足場にしていた街灯の鉄柱だった。


「なるほど。あのバーサーカーが掴んだものは、何であれヤツの宝具になる訳か」

「宝具に? また厄介なサーヴァントね、ホント」


冷静に分析するカルナに、ディーアはやれやれと言う。

バーサーカーの猛撃を、凌ぎ続けるセイバー。
セイバーが癒えない傷を負っている。今は明らかにセイバーが劣勢だ。


「貴様は……一体!?」


セイバーはバーサーカーにそう訊ねるも、狂戦士であるバーサーカーが答える筈もない。容赦なく鉄柱をセイバーへ振り下ろした。
しかし、その鉄柱を防いだのはセイバーではなく。


「悪ふざけはその程度にしておいて貰おうか。バーサーカー」


セイバーを庇ったのはランサーだ。
魔力を打ち消す紅の槍をバーサーカーへ向けて、そう言い放った。


「そこのセイバーには、この俺と先約があってな。これ以上つまらん茶々を入れるつもりなら、俺とて黙ってはおらんぞ?」


思わぬ助太刀にセイバーやアイリスフィールが呆然とする中、ケイネスの冷たい声が響く。


「何をしているランサー? セイバーを倒すなら、今こそが好機であろう」

「セイバーは! 必ずやこのディルムッド・オディナが誇りに懸けて討ち果たします! お望みなら、そこな狂犬めも先に仕留めて御覧に入れましょう。故にどうか、我が主よ! この私とセイバーとの決着だけは尋常に……」


「ならぬ」


ランサーの訴えを即座に却下し、ケイネスは無慈悲に宣告した。


「ランサー、令呪をもって命ずる。バーサーカーを擁護してセイバーを殺せ」


令呪。
マスターがサーヴァントに命ずる事が出来る絶対命令権。サーヴァントはそれに抗う事は出来ない。
そう、どう足掻いても抗う事は出来ないのだ。

ランサーの槍が、本人の意思とは無関係にセイバーに襲い掛かる。
セイバーは辛うじてランサーの攻撃を避けたが、左手に傷を負っている上、2体1――絶体絶命だ。


「アイリスフィール、この場は私が食い止めます! その隙に――」


セイバーはそう叫ぶも、アイリスフィールは首を横に振り、拒否の意を示す。セイバーの戦いを見届けるつもりだ。

「アイリスフィール! どうか――」

「大丈夫よセイバー。“あなたのマスター”を信じて」


アイリスフィールが正規のマスターでない事など、勿論誰も知る由はない――ディーアを除いては。
セイバーが少々困惑する中でも、戦闘は始まる。バーサーカーとランサーがセイバーに向かって駆けていく。

瞬間、それは起こった。

ライダーの咆哮と共に、ウェイバーを乗せた戦車が稲妻と共に地面を思い切り駆け抜けていった。
戦車を引く二頭の神牛が、雷気を纏った蹄でバーサーカーを踏み倒す。ランサーは辛うじて身を翻し、それを回避出来た様だ。


「……」


ディーアとカルナはそれを傍観する。カルナの表情は変わらないが、ディーアは「あれに轢かれたのか」と少々表情に出た。
ライダーは戦車を急停止させ、踏み拉かれたバーサーカーを見下ろすと面白そうに口角を上げた。


「ほう? なかなかどうして、根性のあるヤツ」


バーサーカーはマスターの雁夜の判断かは分からないが、これ以上の戦闘は無理だと悟ったのか、霊体化をしてその姿を消した。


「と、まぁこんな具合に、黒いのにはご退場願った訳だが……ランサーのマスターよ。何処から覗き見しておるのか知らんが、下衆な手口で騎士の戦いを穢すでない……などと説教くれても通じんか。魔術師なんぞが相手では。ランサーを退かせよ。なお、これ以上そいつに恥をかかすと言うのなら、余はセイバーに加勢する。二人がかりで貴様のサーヴァントを潰しにかかるが、どうするね?」


「――撤退しろランサー。今宵は、ここまでだ」


姿なきケイネスの声が響く。
その言葉に、ランサーは安堵の溜息を吐き、槍を下げた。


「感謝する。征服王」

「なぁに、戦場の華は愛でるタチでな」


ランサーはセイバーを一瞥し、同じくクラスの8騎目のサーヴァントを一瞬見て、霊体化をした。
それを見届けた後、セイバーが口を開く。


「結局、お前は何をしに出て来たのだ? 征服王」

「さてな。そういう事はあまり深く考えんのだ。理由だの目論見だの、そういうしち面倒臭い諸々は、まあ後の世の歴史家が適当に理屈を付けてくれようさ。我ら英雄は、ただ気の向くまま、血の滾るまま、存分に駆け抜ければ良かろうて」


ライダーの意見が自分の信念に反したのか、セイバーは非難する様に言葉を返す。


「それは王たる者の言葉とは思えない」


「ほう? 我が王道に異を唱えるか。フン、まぁそれも必定よな。全て王道は唯一無二。王たる余と王たる貴様では、相容れぬのも無理はない……いずれ貴様とは、とことんまで白黒つけねばならんだろうな」

「望むところだ。何なら今この場でも――」


セイバーがそう言い掛けた所で、ライダーは顎で彼女の左手を指した。

「よせよせ。そう気張るでない。イスカンダルたる余は、決して勝利を盗み取る様な真似はせぬ。セイバーよ、まずはランサーめとの因縁を清算しておけ。その上で貴様かランサーか、勝ち昇ってきた方と相手をしてやる」


ライダーの言葉にセイバーは押し黙った。


「では騎士王、暫しの別れだ。次に会う時はまた存分に余の血を熱くして貰おうか……おい坊主、貴様は何か気の利いた台詞はないのか?」


ライダーがウェイバーにそう訊ねるも反応がない。
ライダーがウェイバーの襟首を掴んで持ち上げても、まるで反応を示さない。


「……もうちょっとシャッキリせんかなぁ、こいつは」


ライダーは仕方のないと呆れながら、ウェイバーを戦車の中で横にさせた。
そして立ち去ろうとするライダーを、今度はディーアが止める。ライダーに近寄り、声をかける。


「ライダー。もしよかったら、君のマスターによろしくと伝えておいて。詳しいことは後日、伝えに行くと」

「貴様は、余のマスターと旧知の仲かなにかか?」

「そんなところよ」


ライダーは少々警戒し、ディーアを見つめる。が、納得しそれを受け入れる。
「さらば!」ライダーの声と共に、雷鳴が響く。
戦場にセイバーとアイリスフィール、そしてディーアとカルナを残して。


「……さて、私たちも退散しましょう、ランサー」

「あぁ」

「ま、待って!!」


用は済んだ、とこの場から消えようとすると、アイリスフィールがそう言ってディーア立ちを引き留めた。
振り返り彼女たちを見ると、警戒は怠っていない。しかし、こちらには戦意がない。
殺気をむけず、ディーアは微笑む。


「どうしたの、アイリスフィール」

「貴方……どうやって8騎目のサーヴァントを呼んだの? 目的は何?」

「聖杯戦争に介入して、サーヴァントを呼んで、その果ての目的なんて……みんな、ひとえに同じではない?」


「違うかしら?」と首を傾げて微笑む。彼女たちにとって、その微笑みは得体のしれないモノだった。
アイリスフィールはきゅっと手を握り、瞳を付けあげて言った。


「ルールを破ってまで、聖杯が欲しいの?」

「欲しい、とはまた違う。私は聖杯が現れてくれればそれでいい。願望はないわ」


その言葉にアイリスフィールもセイバーも目を見張り、驚く。
お互いを見て、再びディーアに視線を向ける。


「なら、貴様は何故聖杯戦争に介入した」


今度はセイバーが問いかけた。
ディーアは「それは答えられない」と即答する。


「私たちからの攻撃は一切しないわ。されれば応戦はするけど、基本的にこれは貴方たち7騎の戦争だもの。利害が一致すれば、途中まででも手を結ぶ。でも――私の邪魔をするなら、容赦はいないわ」


少しばかりの殺気を彼女たち二人に向ける。
それでもすぐにさっきは消え、またいつものようにディーアは微笑む。


「それじゃあ、帰るわ。ランサー」


カルナはそれに応じ、ディーアを再び抱えて倉庫街を後にした。
取り残された二人は、イレギュラーのマスターへの不安や疑問を消せずに。

そしてのちに、ランサーたちが控えていた高級ホテルで爆破が起こった。



凶獣咆哮

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