必然と廊下中央に出る。
そこへ足を踏み込めた時だった。
自分の目の前には、何人ものの倒れたマスターたち。
みんな力なく倒れていた。
――突然、背筋が総毛だった。
奇妙な悪感。
サーヴァントを呼ぶ間も、構える間もない。
圧倒的な力に引っ張られるように、後方に跳ね飛ばされる。
後ろには壁。衝突は避けられない――
「ッ――!!」
壁に衝突した感覚がない代わりに、いつの間にか見覚えのない場所にいる。
場所を転移されたようだ。おそらく不正な手段で。
全く見知らぬ空間……にしては、既視感がある。
二度の戦いで使用した闘技場――細部は異なっているが。
座り込んでいた状態から足に力をいれ、立ち上がる。
此処には敵がいるはずだ。自分を此処へ連れてきた張本人か、投げ飛ばした奴か。
それに思い至った瞬間、意識が凍り付いた。
緊張で息が詰まる。
何度味わっても、この感覚にはなれない。
辺りを見渡せば、燃えるような衣装を包んだ、鋭い目つきをした偉丈夫。
殺意とはこれほど明確に、濃密に漏らすことができるものなのか。
自分で言うのも何だが、その男は死そのものだ。
暗殺者……目を逸らせば、命が絶たれる。
「脆弱にもほどがある。魔術師とはいえ、此処まで非力では木偶にも劣ろう。鵜をくびり殺すのも飽きた。多少の手ごたえが欲しいところだが……小娘、貴様はどうかな?」
向かってくる。
視認できない速さで、視認した時には遅くて。
その男はもう、目と鼻の先にいた。夜月はそれに圧倒されながらも、目をそらさずに、ただ前をみつめていた。
ガキンッ――!
ぶつかり合う音だ。
あの一瞬の間で霊体化を解除したランサーが夜月を守るように防御し、サーヴァントを跳ね返した。
一気に息が詰まる緊張感から解放され、息を吐きだすのと同時に足から崩れ落ちた。
息を乱しながら呼吸をする夜月を気にしながら、ランサーは目の前のサーヴァントを警戒する。
「ほう、少しは気骨のあるものがおる。よく踏みとどまったな、小娘。時間切れとは興醒めだが、殺しきれぬのでは仕方がない。舞台裏ではこれが限度よ」
サーヴァントは語る。
最後に笑みを浮かべて。
「お主とはまたいずれ闘りあう事になるかもしれんな。楽しみにしておこう」