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「マスター、近頃はいろいろ起き、あまり休めていないだろう。根詰めるのも良くない。少しばかり、散歩にでも行ってみてはどうだ」

「散歩……?」


ランサーからそう薦められ、夜月はなんとなく学園内を歩き回った。
そうしていきついた場所は教会。此処へ来るのは基本、サーヴァントのステータスをあげるのが目的だ。
扉に手をかけ、教会内へ入る。すると、そこには緑色の服を纏った老人――ダンがいた。


「昨日はすまなかったな。あの傷が命にかかわらなかったことは不幸中の幸い、とは思うが」


再び謝罪をするダン。
それに応えようとしたところ、ランサーが顕現して代わりに話しかけた。


「我が主の身を案じてくれること、感謝する。だが、理解できんな。お前の行動は立派だが、敵である彼女を助けることはお前のためにはならないはずだ」


ランサーの問いかけは正論だ。彼は、敵である人物を助けてしまったのだから。
ダン・モアはその問いかけに「そうだな」と肯定した。自分でもどうかしていたとも続ける。

彼は続ける。
軍務であればアーチャーのそれを良しとしたが、今の自分は騎士である。そう思った時、妻の面影が頭によぎったと。
妻がそんな自分を見て、喜ぶのかと。

それだけで、ダン・ブラックモアが妻を大切に思っていたことが伺えた。


「つまらない話につき合わせた」


ダンはそう言うと、再び目をつむった。
何kに対して祈りをささげる彼を邪魔してはいけないと、夜月は教会を去った。



次に向かったのはラニのところだ。今日は五日目。彼女が指定した当日だ。
夜月は3階廊下の奥へ出向く。


「ごきげんよう。ブラックモアの遺物を持ってきてくれたのですね」

「えぇ」


お辞儀をするラニに、アリーナで見つけた遺物を手渡す。
ラニはそれを受けとり、一度に度と呟き、こくんと頷いた。柔らかな手つきで遺物を優しく撫で、目をつむって空を仰ぐ。

占星術というものは、正直よくわからない。そう言ったものには無縁だった。


「占星術か。なるほど、魔術師らしいな」


ランサーがそう呟く。
すると、今度はラニが目を閉じたままポツリ、ポツリと見えたもの口ずさんだ。


「これは……森? 深く、暗い……」

「……」


夜月もラニと同じように、そっと目をつむった。


「とても……とても暗い色。時に汚名を負い、暗い闇に潜んだ人生……賞賛の影には自ら歩んだ道に対する苦渋の色が混じった、そんな色。緑の衣装で森に溶け込み、影から敵を射続けた姿……」

「……」

「……そう、だからこそ憧憬が常にあるのかもしれませんね。陽光に照らされた、偽りのない人生に」

「……そう、ね……」


これは、サーヴァントの生き様だ。
それはマスターであるダンの言う、騎士たる戦いとはあまりにも対照的だ。


「汚濁に塗れた人生。何かのために、その汚名を負った英雄か……」


ランサーの言葉は、また的を付いた言葉だった。やはり、彼が持っている見抜く瞳は、相当なものらしい。
ラニは「ありがとうごさいます」とお礼を述べ、ぺこりとお辞儀をした。

――合わない歯車。

アーチャーとそのマスター。
はたして自分はどうなのだろうか。




Fifth day

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