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勝利したのはランサー、つまり夜月だった。
慎二は「ありえない」と言い続け、不満と怒りを目の前に立つ夜月にぶつけた。


「マスター、此処には何もない。お前にはほかにすべきことがある。行くぞ」


ランサーは慎二と夜月の対峙に腕を挟み、此処から立ち去ろうと言った。
いたって普通な声。いつも通りの彼だ。しかし違和感もあった。どこか瀬化しているようにも見える。
そんな疑問が浮かび、ランサーを見上げていると背後から大きな音が響いた。

すぐに背後を見ると、夜月たちと慎二たちの間に赤い壁が現れ、隔てた。
夜月たちのいる場所は先ほどのまま青く、敗者の彼らの空間は赤い。


「――うわっ!? な、なんだよ、これっ! ぼ、僕の、僕の身体が、消えていくっ!?  し、知らないぞこんなアウトの仕方!?」

「……ぇ」


動けなかった。
シンジの悲痛な叫びが耳に痛いくらいなのに、近づこうとしてもできない。ここにただ立っているだけでも、全身の腱と筋肉がきしんで声なき悲鳴をあげている。
肌が粟立つ。震えが止まらない。

消える。消えていく。シンジの身体を構成していた霊子が、目に見えないほどの欠片に変じて、バラバラになっていく。


「令呪をすべて失くしたものは死ぬ。シンジ。アンタもマスターとして、それだけは聞いていたはずだよな」


同じように、構成していた霊子がバラバラになっていくライダーが言った。
それは論するように。声はとても落ち着いていた。
取り乱す彼とは対照的だ。

そんな彼らを壁に隔たれた先で眺めた。
全身が震える。けど、何故か恐怖はなかった。そんな自分が恐ろしくて、何度目かの違和感を感じる。
分からない。分からない。自分が理解できない。自分に恐怖し、目の前の出来事に動揺し、大きく瞳を見開かせた。


「ひ、消える……! やだ、と、友達だろ、友達だっただろ!? 助けてくれよぉ! あ、あ――消える、消えていく! なんで? おかしいぞこれ、なんでリアルの僕まで死ぬってわかるんだ!? うそだ、うそだ、こんなはずじゃ……くそっ、助けろよぉっ! 助けてよお! 僕はまだ八歳なんだぞ!?」


ライダーが先に消え、最後の助けを彼は乞うた。慎二は夜月に手を伸ばした。助けてくれと、何度も何度も。

――あぁ、そうだ。
夜月はそこで全てを悟った。何度も見た砂嵐とノイズ塗れの映像。それが今、砂嵐もノイズも消え鮮明に見ることができる。
欠けていたピースがすべて埋まっていく。曖昧な記憶が完成されていく。

不意にランサーはじっと目の前の出来事を見つめる夜月を見た。
夜月は弱々しく慎二に手を伸ばし、ラブラドライトの瞳を潤ませ何筋もの涙を流していた。
誰かを思って涙を流す。その行為が無神経にも綺麗に見え、そして何よりも痛々しかった。


「こんなところで、まだ死にたくな――」


消えた。
間桐慎二という人間、その魂、その存在、その全てが完全に消滅した。残ったのは、勝者のみ。

――私はこの戦いを、知っていた。




Battle closing

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