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猶予期間最後の日を、この日にとうとう迎えた。


「いよいよ明日は決戦だ。お前がアリーナで努力したおかげで、恐らく相手サーヴァントとほぼ互角になっただろう。やり残しが無いよう気を付けてくれ、マスター」


朝にマイルームでカルナから言葉を貰い、頭の中で今日やるべきことを考える。
頭の中に浮かんだことをほぼやり終え、最後にアリーナへ向かおうとすると、扉の前で話している慎二とそのサーヴァント――ライダーがいた。

盗み聞きをしようとせずとも聞き耳を立ててしまう。
話の内容を聞いていると、どうやら彼女は海賊らしく財宝または金の量しだいでやる気が左右されるようだ。


「……ほら、アリーナにまたハッキングして財宝増やしたから……」

「おや、お嬢ちゃん。奇遇だね」


不意に振り返ったライダーの目に留まってしまった。
隠れるわけもなく、素直に前へ姿を現すと「神楽耶――! お前、盗み聞きなんて卑怯だぞ!」と怒鳴られる。
それも一理あるが、ここではそういうモノなのだと猶予期間内で学んだ。


「ま、まぁいい。僕のサーヴァントは金を積むだけ強くなるからね! じゃあな、神楽耶。財宝が欲しかったら君も来ていいんだぜ? ま、どうせ僕が全部取っちゃうに決まってるけどね!」


高笑いを添えてアリーナへ入っていく慎二。


「業の深いサーヴァントだな。財宝とやらに興味はないが、このまま相手の士気をあげるのは得策ではない」

「アリーナに入ったら、まずはその財宝とやらを探して見ようか」

「あぁ、それが良いだろう」


ランサーの同意を貰い、アリーナの中へ入った。



「そら、ハントの始まりだ! 死ぬ気で走りな!」


アリーナの中に入ってこちらを待っていた慎二達。夜月がアリーナに入ったのを確認すると、ライダーの言葉で突如開催されるトレジャーハンティング。
入った途端、全力疾走をして財宝早獲り合戦をする。足の速さの問題や先に走っていた相手など、もろもろの理由で追いつく気配がない。

まず、一つ目の財宝を慎二がとった。その次の場所は二本道に分かれた通路の先。
慎二は足早に右側の通路へ進んだ。
夜月たちもその後を追ってその通路に進もうとした直後、ピタリと足を止めた夜月。


「どうした、急がねば追いつかんぞ」


訝し気に夜月を伺うランサー。
夜月は右側の通路と左側の通路を見比べ、そして足を動かす。


「こっち――!」


動かしたほうは反対の左側だった。
意図が読めず、反対側を進む夜月についてくるランサーだが「マスター、何故こちらに向かう? 二人が進んだのは反対側だ」と前を行く夜月に尋ねる。


「いいの、こっちで」


そう答える理由も根拠も、ランサーはまだわからなかった。
やがて反対側の通路で財宝を手に取った慎二。が、まだ足りないと駄々をこねるライダーに仕方なく、追加の財宝を出す。
その財宝が丁度、夜月が向かっている先に現れた。

さすがにこれにはランサーも驚いた。
未来予知にも似た的確な予想を見事、彼女はあてたのだ。

現れた財宝に手をかざし、入手する。


「ね? こっちで良かったでしょう?」

「あぁ。見事だ、マスター」


素直に彼女のそれに称賛を送る。

その後、慎二たちはこっちに向かって走ってくるが、出現させた場所は夜月のほうに近く、追加の財宝はほぼ彼女が手に入れることになる。
慎二はそれに苛立ちながらもライダーに「撤退」というが、彼女はそれを受け入れず、夜月とランサーの前に姿を現した。


「ちょっと待ちな!」


力ずくで財宝を奪うつもりなのだろうか、と前に出たライダーに思う。
ランサーは素早く夜月を守るように前に出て、ライダーと対峙した。


「お、おい! 何してんだよ、お前! 早く撤退……!」

「今回は戦いやしないよ。ちょっと話しがあってね」


慎二の言葉まで無視して話があると言うライダー。だが、その話の内容など見当もつかない。
ライダーは前に立つランサーを見据えると、ニヤリと笑い手を差し出した。


「そこの優男の鎧、置いていきな。そしたらあんたを見逃してあげるよ」

「鎧……?」


ライダーに言われ、目の前に立つランサーを見た。
彼が纏っている黄金の鎧。鈍く温かな光を放つそれは、一目見ただけで貴重なものだと自分でも理解できた。
ライダーはそれを差し出せと言うのだ。


「これでも宝を見る目はあってねぇ。その鎧、めったにない代物だ。そんな宝を目の前にしたら黙っていられなくてねぇ!」


価値のあるそれ。
自分が答えるわけにもいかなく、ライダーを見据えるランサーを後ろから見上げた。


「……確かに、それで解決するのであればそれもいいだろう。この鎧には、お前が望むもの以上の価値がある。しかし、俺がこれを差し出すことは無い」


彼女の言葉を肯定しながらも、ランサーは迷うことなくそれを拒んだ。


「へぇ……どうしてだい?」

「この鎧は俺を守る為だけのものではない。俺にはこの弱き主我が主を守る義務がある。彼女ために使う時以外、俺がこれを手放すことはない」


いつもと同じ冷めた声。しかし、その言葉の中に温かさを感じる。
自分のために渡すことはできないと拒むランサーに、新たな感謝の思いと嬉しさが生まれた。


「……そうかい、そりゃあ残念だね。お嬢ちゃんは慎二の友達だから助けてあげようかと思ったんだが、報酬がないんじゃ割に合わない。行くよ、慎二!」

「は? お、おい! ……ははは! ばかだなぁ、神楽耶! 最後のチャンスを棒に振るなんて! ま、せいぜい頑張ってくれよ!」


そうしてアリーナ内での戦闘が始まる。

慎二と自分は間違いなく友人だった。それが仮初の空間で、仮初の役割だったとしても、彼と話し、笑った時間が消えるわけではない。
そんな彼と戦う理由を、彼がたとえ持っていたとしても自分には無い――否、ある。

勝たなければいけない、という想いだけがあった。その理由も、目的も覚えていない。
ただ勝たなければいけない、負けてはいけないという事だけがこべり付いている。


「――夜月」


呼んだのはランサーだ。初めて彼は自分のことを名前で呼んだ。
目を丸くしてランサーを見上げれば、まっずぐとした瞳が自分を見ていた。


「お前はもう、れっきとしたマスターだ」

「……」


何を思ったのか、そういう。しかし、それだけで救われたような気もした。
勝ちたい/勝たなければ――。

これは、私だけでない。彼との戦いだ。




Sixth day

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