――仮に、この並行世界を『世界線RWorld Line R』と呼称しよう。



朧げでふわふわと浮いた意識のなか目を開けると、穏やかな日常が目に入る。
生徒たちが和気藹々とし、友人が得意げな顔で自分に話しかけていた。何処にでもある学校だった。

はっきりとしない意識のまま瞬きをすると、電子世界の空間で長い通路を走っていた。後ろからは人形がついてくる。
未だ意識の霧は晴れない。

そしてもう一度瞬きをして、霧の中で沈んでいた意識を浮上させた。

まず最初に感じるのは、いつも痛みだった。
目を開けると、自分を見下ろす面白味のない人形と部屋の周りに倒れ伏す制服を着た人たち。電子世界のようで、壁はステンドグラスみたいだ。

また、私は此処で目を覚ます――

身体を動かそうと力を入れるも、体のあらゆるところが痛み、悲鳴を上げ、自由に動かすこともままならない。
次に眠気が襲う。今目覚めたばかりだというのに。
この眠りは死への誘い。終わりの知らせ。終幕の予兆。

しかし、だからといって簡単に眠るわけにもいかない。息を吐き、悲鳴を上げる身体に力を入れなんとか起き上がろうとする。
我ながら不甲斐ない身体だ、と嘲笑を混じえた。

やるべきことがある――

さぁ立て、と自分を奮い立たせる。痛みによって自分を支えられない腕はガクガクと震える。
その瞳は真っすぐと前を見据えていた。

まだ、立ち止まることは――

そう、これはまだ序章。始まったばかり。此処で、そう易々と膝を屈することは許さない。
立て。進め。前を見据えろ。今更立ち止まることは許さない。

まだ、終わるわけには――!


「お呼びに預かり、渋々参上ってなあ!」


ガラスが砕け、部屋に光が灯った。軋む身体を持ち上げ、なんとか部屋の中央を見た。
中央には淡い光は人の形へとかたどっていき、現れる。

現れたのは緑の外套を纏った男。綺麗な髪が彼の片目を隠していた。
見開かせた灰色の瞳で男を見ていれば、翡翠の瞳で見返してくる。


「あんたが俺のマスターかい? お嬢さん」


少しの間、彼を凝視する。やがてゆっくりと頷けば鈍い痛みが走った。
手の甲に何かを刻まれた。そこには3つの模様が組み合わさった紋章にも見える印があった。印は樹を模ったようにも見える。

その印を見た男はゆっくりと瞼を下ろした。やがて口端をあげ笑み、人形を翡翠の三富に映した。


「んじゃマスター、まずはこのガラクタを片づけますかね!」


弓を構え、見事人形の頭に射る。
そのまま人形は本来の姿のように、無残に床へと倒れた。

瞼が落ちる。意識が遠のく。
やがて体を支えることさえできずに意識を捨て、目を閉じた。



――Repeat continue.


Prologue -R-



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