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Closing sports festival


雨が降っている中、小さな少女が呆然と座り込んでいた。
その体は痣や切り傷で痛々しい。

何もない、そこ。そこには家があった。そこに母がいた。
けれど、今は何もない。ただの空っぽ。少女だけが、そこにいた。

ふと、両手で口を押えた。次にその両手を震えながら見つめた。
蘇ってくる記憶。それを追って、理解してしまった。

あぁ、私が――


「――殺した」


降り注ぐ雨の音が、酷く耳に刺さった。
座り込み、両手を見つめた少女の前には、動かなくなったヴィランの死体。それを、真っ黒なヒーローが見下ろしていた。




「っは……!」


意識が浮上し、はっと目を覚ました。瞳からは涙がつたっていた。
荒くした息を整えながら辺りを見渡し、状況を把握する。爆豪と戦って、そのまま気絶した。なら、ここは保健室。

ゆっくりと体を起こす。片腕に痛みが走った。目を向けると、手のひらから肘まで大げさに包帯がまかれていた。他にも包帯はまかれている。
あれだけの爆破を受けたのだ。仕方がない。

夜月は決勝戦のことを思いだすと、時計を見上げた。時間はそう立っていない。長引いていれば、そろそろ終わるころだろうか。

そんなことを思っているとリカバリーガールがシャッとカーテンを開けた。傷の具合を聞き終えると夜月はお礼を言い、急いで外へと出た。
後ろから彼女の溜息を聞き流して。


腕を押さえながら通路を駆け抜け、階段を上って、やっと視界が明ける。
ステージに目を向けるとそこには轟と爆豪。突っ込む爆豪に轟が炎を見せるが、途中で炎を消してしまった。そのまま爆豪は突っ込み、氷が砕け散る。

場外に出た轟。不服の爆豪が気絶した轟につかみかかるが、ミッドナイトの個性によって眠りに誘われる。


「轟くん場外! よって優勝は爆豪くん!」


歓声が、意識を手放した二人を包み込んだ。


「……」


炎を消してしまった轟。
――私は彼に、何かしてあげられただろうか。




しばらくして。
表彰の準備と彼らが目を覚ますまで。


「それではこれより! 表彰式に移ります!」


お披露目された、この体育祭のトップ3。そのトップを見て何かしら思う処があるのだろう。視界に入る人は指さして笑ったり、苦笑いしたり。コソコソ言い合ったり。
3位に立った夜月が隣の爆豪を横目で見れば轟に向かって睨みを利かせ鎖を揺らし暴れている。


「うわぁ、なにアレ……」

「起きてからずっと暴れてんだと。それにしても、締まんねえ1位だな」


轟は隣を気にすることなく、何かを考えるような瞳で一点を見つめる。夜月は隣の二人を気にしながら立っている。


「メダル授与よ! 今年メダルを授与するのはもちろんこの人!」

「私が、メダルを持って……」

「我らがヒーローオールマイト!」


ミッドナイトの掛け声とともに、オールマイトが上空から現れた。セリフは被ってしまったが、それはさておき。早々とメダル授与に移った。
最初は三位の夜月。三位はもう一人、飯田がいたのだが急用で彼は早退してしまった。


「さて、瓦楽少女! 表彰台唯一の女の子だね、三位おめでとう!」

「ありがとうございます」


オールマイトの持つブロンズメダルを首に掛けてもらうため少し頭を下げる。メダルから視線を目の前に向ければ、オールマイトは真っ白な歯を見せて口を開いた。


「君はちゃんと相手の強みや弱みを見極め、それにあった対応をした。素晴らしい戦術だ! けど、もう少し自分のことを考えるといいね、それが君の課題かな」

「……はい」


爆豪との試合。最後、本当は向かっていく必要なんてなかったのだ。その場で遠距離攻撃をしてしまえば、勝算はかなりあった。だが、それはしなかった。
叶えてくれると、期待してしまったから。

次に、オールマイトは轟にメダルを授与した。炎を消してしまった理由。それは、まだ清算しなければならないことがあるから。
それを横目で見つつ、自分の手を見下ろした。

そして最後、一位の爆豪。
顔は不満や不服、納得のいかないことが滲め出ていた。


「伏線回収見事だったな」

「オールマイトォ、こんな1番何の価値もねぇんだよ!!」


外された口を覆っていた器具。そこから紡がれた言葉はいつもより低くて怒りがこもっている。表情は見たこともないような、つり上がった目。


「相対評価にさらされるこの世界で不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。受けっとっとけよ。傷として、忘れぬよう!」

「要らねぇつってんだろうが!!!」


受け取りを拒否する爆豪にお構いなしに、オールマイトはゴールドメダルを渡そうと奮闘し、せいっと小さなかけ声でそのメダルを咥えさせた。
表彰台の3人にメダルを渡し終えるとオールマイトは会場全体を見渡すと手を広げ、会場全体に響き渡る声を出した。


「さァ、今回は彼らだった!! しかし皆さん!! この場の誰にもここに立つ可能性はあった!! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと登っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!! てな感じで最後に一言。皆さんご唱和下さい!! せーの……」


掛け声はそれぞれで、まとまらなかった。それに夜月は苦笑を零した。
大きな拍手とブーイングの声、そんな大歓声とともに――体育祭は幕を閉じた。