The second game, the first match
二回戦、第一試合――緑谷VS轟。
「ゲッ、始まってんじゃん!」
「お! 切島二回戦進出やったな!」
始まってまもなく、腕相撲で引き分け戦を先ほど勝利した切島が慌てて戻ってきた。
「おつかれ様、切島。次は勝己とだね」
「そうよ、次おめーとだ爆豪! よろしく」
「ぶっ殺す」
「ハッハッハ、やってみな! でもおめーも轟も、強烈な範囲攻撃ポンポン出してくるからなー」
「ポンポンじゃねえよナメんな」
爆豪は続ける。
筋肉を酷使すれば筋繊維は切れる。走り続ければ息が切れる。個性だって身体機能、轟にだって何かしらの限度があるはずだ。
それはまったくの正解。
氷を操る轟は、右を使い過ぎると体温に耐え切れなくなってしまう。
「じゃあ、緑谷は瞬殺マンの轟に……」
「――耐久戦」
あの言葉で何か、彼の助けになっただろうか。
そんな文字が頭に浮かぶ。夜月はじっと、二人を見つめていた。
「緑谷右が轟のボディにモロに入ったー! 生々しいの入ったぁ!!」
マイクが実況でそう叫んだ。
どう見ても轟よりボロボロの緑谷の拳が、轟の腹に容赦なく決まった。壊れた右手、無理をし続けたその手で。
「何でそこまで!!」
「期待に応えたいんだ……! 笑って答えられるような、カッコイイ人になりたいんだ!」
真っ直ぐと響く、緑谷の言葉。
彼の言うカッコいい人。それはきっと、彼があこがれるヒーロー像。
「だから、全力でやってんだ! 皆!」
また一発、轟に浴びせられる拳。
きれい事のような、並べた言葉の数々。
「君の境遇も、君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない。でも、全力も出さないで一番になって、完全否定なんてフザけるなって今は思ってる!」
轟は緑谷の言葉を聞きながら、幼い頃の記憶を脳裏で見ていた。
父に初めて殴られたのは5歳のころ。無理矢理連れてこられた道場。
母はかばってくれた、まだ五つなのだから……と。
「うるせえ……」
轟は目障りだ、というように低く呟く。
思い出せない言葉。母が言った、その先の言葉が思い出せない。
「だから、僕が勝つ……!! 君を越えて!」
超えてみせる。
否定するため、左手を使わずして必ず――
「俺は親父を──!」
「君の! 力じゃないか!!」
――君だけの力だ。
そう言った、夜月の言葉と重なった。
瞬間、赤が咲いた。左側の炎。
「俺だって、ヒーローに……!」
なりたい自分になっていいのだと、そう言った忘れてしまった母の言葉を、轟は思いだした。
なりたい自分。
幼い頃にテレビで見た、ヒーローのようになりたいと望んだ。
中学の頃から見てきた、夜月
「緑谷──ありがとな」
爆風が生じた。散々冷やされた空気が炎の高熱で熱され、膨張したせいだ。
おかげでステージは煙で隠れてしまって、何も見えなかった。やがて、姿を現したのはステージにたった一人で立っていた轟。緑谷は場外におり、壁からずり落ちた。
「緑谷くん、場外。轟くん、三回戦進出!!」
勝者、轟。
緑谷は早々とリカバリーガールのもとへ運ばれ、轟はそれを見送りつつ、左手を見下ろしていた。