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Prologue


幼い頃、自分にまだ『個性』が無かった頃、母に問うたことがある。
その問いかけは、当時の自分には疑問で仕方なかった。


――どうして、彼らは戦っているの。


テレビに映ったヒーローを指さして言った。彼らは敵であるヴィランと戦っている。
母はおかしそうに笑って、当たり前のように言った。


――ヒーローだからよ。そうやってね、困った人たちみんなを助けてくれるの。


当時、幼い自分は母の言葉を純粋に受け入れ、それで納得していた。

ヒーローは、困った人を助け出す。悪を倒し、世界に平和をもたらす。
それがヒーローなのだと、皆がみんな、口をそろえていった。
だからそれを、信じて疑わなかった。


そう、信じていた――。


全身に痛みや吐き気が襲う。身体のあちこちから血が出て、そこが熱くなる。
咳き込み、涙を瞳にためながら蹲った体を無理やり起こし、上を見上げた。

そこには恐怖や嫌悪、憎悪と言った負の感情を露わにする母の虚ろな瞳があった。
『個性』が発症してから、変わってしまった家族。

彼らは口をそろえていった。
怖い、恐ろしい。いったい『ナニ』が本物で、いったい『ドレ』が自分の意思なのかわからないと。

簡単に自分の描いた『想像』を現実にしてしまう、力。
簡単に自分の口から出た『言葉』を現実にしてしまう、力。

強力過ぎる力を『二つ』も持ち合わせてしまった、不思議な現象。
母からも父からも受け継がれなかった、突然変異。


恐怖に涙を流す母が、手に包丁を持って腕をあげる。

それを、ただじっと自分は見つめていたのだ。


――ねぇ、ヒーロー。


あの日、あの時、信じて疑わなかった。
困った人をみんな助け出す。救ってくれるヒーロー。

わかっていた。理解していた。
彼らも人間。体は一つ。世界は広く大きい。その全てを助けることなど、不可能だと。

それでも、願わずにはいられなかった。


――ねぇ、ヒーロー。どうして、助けに来てはくれないの。


いつかきっと、来てくれる。
そう信じた思いを簡単に打ち消されたあの時の自分は、身勝手に思ってしまった。


――ねぇ、『私のヒーロー』。


ヒーローはいる。けれど、私を助けてはくれない。
私のヒーローは、最初からいなかったのだ。


「……もう、いい」


助けてくれる『ヒーロー』が現れないのなら、もう何も望まない。
何もいらないし、何も必要ない。

目の前にいる人や自分さえ、全部もろとも――


「――『消えてしまえ』ばいいのに」


最後まで、現れてくれなかったヒーロー。
そこには『消して』しまった幼い少女、一人しかいなかった。


Surely someday,I believed that the hero will come.いつかきっと、ヒーローは来てくれると信じていた