Obstacle race
「スターーーート!!!」
合図とともに全員が走り出そうとした。が、それは轟の氷によって阻まれた。
スタートと同時に地面を凍らせ、轟は一人で前を進む。周りが驚きや動揺に揺れる中、夜月は一人不敵に笑っていた。
「っは! 甘いわ!」
夜月だけが氷の地面を普通に走っていた。いや、普通ではない。
夜月は『想像』によって自分が踏む足場だけを瞬時に溶かし進んでいたのだ。
結果、目の前に見えるのは轟の背中。実質2位だ。
「甘いわ、轟さん!」
「そう上手くいかねぇよ半分野郎!!」
後ろでは、A組の生徒はほぼ全員がこの氷結攻撃を難なくクリアしていた。
とくに爆速で進める爆豪にとっては、それこそ全くと言っていいほど効果はない。
「さあ! いきなり障害物だ!! まず手始め……第一関門、ロボインフェルノ!!」
目の前の轟が氷結を炸裂させ、あの巨体を一気に凍らせてその下をくぐり抜けていく。
「あいつが止めたぞ!!あの隙間だ!!通れる!」
誰かがそう叫ぶ。
轟が凍らせたロボは不安定な位置だ。崩れてくるのが当たり前。
夜月が凍らせたロボの隙間を通ろうとすると、予想通りロボは不安定なバランスを崩す。
「1-A、轟!! 攻略と妨害を1度に!! こいつぁシヴィー!」
けれどそんなの、関係ない。
「『加速』!!」
後ろでは崩れたそれに妨害される人たち。
『言霊』で難なくそれが崩れる前に通過し、轟の後ろを走り続ける。走っている間も『想像』を何度か使い、瞬歩のように一気に轟との距離を詰めにかかる。
「おおっと! 1-A瓦楽夜月が一瞬で通過!! 轟の妨害を回避!!」
プレゼントマイクの実況を聞き、轟は走る速度を保ったまま後ろを走る夜月に視線を動かした。
轟にとって、この事態は予想通りなのだ。
「やっぱ、お前が来るよな。瓦楽」
「随分と余裕そうじゃない、轟」
二人して不敵に口端をあげた。
「そんなわけねぇだろ。お前相手に余裕でいられるか」
障害物競争――第一関門通過。
現在順位――2位。
第二関門――ザ・フォール。綱渡りだ。
落ちたら即アウト。なんともわかりやすい。
目の前にいる轟は綱に足をかけ、凍らせて滑っている。速度もあり、進むにはとてもいい。
「いいねぇ、それ。使わせてもらうわ!」
轟が進んだものの隣にかかっていた綱に足を乗せる。夜月の言葉が聞こえていた轟は驚き、一度夜月を見た。
「さぁ、『凍らせろ』!!」と叫んだと同時に足元が凍りだす。次には『想像』で轟のように綱の上を滑りだした。
「ここで瓦楽が轟と同じ方法で突破ー!! なんだあの個性! やっぱA組ズルくねぇ!」
「知るか」
実況の二人の声が響く。
目の前は轟、そして夜月。その後ろには距離を詰めてくる爆豪を筆頭にした生徒の群れ。
順位を保ったまま、とうとう最終関門に入る。
最終関門――一面地雷。
本物ではないが、威力は高い。スピードが落ちるエリアだ。
目の前の轟は慎重に地雷を避けて早歩きで進んでいく。
『言霊』やら『想像』やらで突破できなくもないが、個性を荒く使ったせいか喉元に血が上ってくるのがわかる。
けど、そんなこと関係ない。
「『結界』!!」
「っ!!」
夜月は地面と足の間に結界を作った。踏む場所に結界を作れば壁ができ、地雷を踏まずに進むことができる。
轟は正直焦った。
夜月が結界を張って進む中、たどり着いた爆豪が爆破を使って距離を詰めてくる。3人の距離はほぼなく、並んでいるのも同然。
轟は道を作ってしまうが、抜かれては元も子もないと一面を凍らせ走り出す。
すると、後方で凄まじい爆音が鳴り響いた。
思わず三人は走りながら振り向く。
爆発の煙から出てきたのは、頭上を飛ぶ緑谷。ロボの一部を盾に、爆風を利用してきたのだ。
爆風で転倒しないように足を踏ん張る。
緑谷は加速をやめ、三人の後ろに落ちてくる。そのまま落ちると思いきや、戦闘にいた轟と爆豪を掴み、前へと着地。
結果、緑谷が現在順位で一位だ。
必死に走る4人。彼らに距離の差はない。
薄暗い通路を抜け、ついに潜り抜ける。
「さァさァ、序盤の展開から誰が予想できた!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男――緑谷出久の存在を!!!」